Step.3



助けられなかった。
ただ一人の親友すら。
震える左手を、右手で抑え込んだ。
俺が、俺だけが全てを知っていたというのに、俺は黒い闇に触れることすら躊躇った。
あれに触れればどうなるか知ってる。
だからこそ、触れなかったのだし、触れられなかった。
だというのに、遅れて現着したヒーロー二人は大した時間もかけずに、家の中から意識を失ったコトハを腕に抱えて出てきた。
一体何をしたのか、黒い闇すら晴れて、コトハは薄く白い光を放っていた。
コトハは俺が今まで見たことのない、心の底から穏やかな顔で眠っている。
目の前の人間一人、友人一人助けられないやつが、ヒーローになるだなんて、笑える話だ。
ずっと一緒にいて、その危うさをひしひしと感じていたというのに。
救急車に同行しようとしている警察を見て、ハッと我に返って群衆から走りだした。

「待ってください!」

途中で警官に止められたが、コトハに付いていた刑事は立ち止ってこちらを振り返った。

「コトハは、そいつは……どうなるんですか」
「君はこの子のお友だちかな?そうか、君には少し辛いかもしれないが……病院で治療を受けた後は未成年ヴィランとして―――」
「ヴィラン!?違います、そいつは……コトハは、養父から暴力を受けていて、それで……」
「うーん……まあ、情状酌量の余地はあるだろうけれど、その養父も深刻な状態だからね。君も同行してくれるかい?」

刑事に頷き、促された救急車へと乗り込んだ。
俺を乗せた救急車はすぐに発進し、その横を帆走するように警察車両が続く。

「そんなに心配しなくても大丈夫さ。今は心労で眠っているだけ」

救急隊員はにっこりと笑うとコトハのすぐ傍の椅子を指した。
また仕事に戻ってカルテを見始めた隊員をちらりと見て、椅子に座る。
細い、腕。
酸素マスクをつけられてはいるが、心電図も一定で落ち着いており、何より顔が穏やかだ。

「コトハ……助けてやれなくて、悪い」

かけられた毛布からはみ出ていた腕を取って、毛布の中へと戻してやった。
温かい。
家が黒く包まれているのを、登校途中に見て、ぞっとした。
小学校の時から知っていたから、心のどこかで、ついにその時が来たのだと思ってしまった。

「おにぃ……ちゃ……」
「コトハ?」
「しょーと、くん……?」
「ああ、俺だ……悪かった、助けてやれなくて」

コトハは疲れているような顔だが、それでも花が咲くように笑った。

「焦凍くん、ありがとう」

どうして、どうして俺なんかに。
膝の上で両手を握り閉め、コトハのほうを見ることも出来なかった。
自分が、不甲斐ない。

「焦凍くんは、ずっと私の傍にいてくれた。今日までずっと黒い私に呑まれなかったのは、焦凍くんのおかげだよ、ありがとう」

優しい声に、さらにうつむく。
違うんだ、コトハ。
俺は結局――。

「焦凍くんも、私のヒーローだ」



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