Step.33 - A



「うぅうぉおおぉおおぉおおぉお……!!!」

右ひじに手傷を負ったものの、黒い獅子を崩壊させた死柄木は、オールマイトの威圧にたたらを踏んで退いた。
なんだ?
今更ビビってんのか?
もしや久地楽の獅子が何かをしたのかと思考するが、轟の「俺たちの出る幕じゃねえみたいだな……」という言葉にハッと我に返った。
その通りだ!

「緑谷!ここは退いた方がいいぜ、もう!却って人質とかにされたらやべェし、久地楽も後で何とかしよう!」
「コトハは俺が助ける……!」
「お前そればっかだな!?分かったから!後にしようぜ!今は一旦退いて、俺たちは他の連中を助けに行こうぜ!」

敵がごちゃごちゃ会話している今、この場を離れなければ。
轟の肩を押してオールマイトに背を向け、まずは正門のほうに。
先陣を切った爆豪に続いて、一度久地楽のバリアを見た。
大丈夫、だよな。
お前なら。
俺に勇気をくれた、俺のヒーローなら。

「緑谷?」

立ち止まった轟の声に引きとめられ、振り返った。
相澤先生が仕留めたはずのヴィランが、時間を置いたせいでゆっくりとこちらに向かってくる奴らが周囲にいる。
今は――。
死柄木が走りだした。

「何より!脳無の仇だ!!」

連鎖するように黒霧が追従してゲートを開く。
まだやるつもりかよ!!
オールマイトは、と思った瞬間、オールマイトと死柄木の間に黒い獅子が現れた。
形が崩れ、まるで流動体だとでも言うかのように、動くたびべちゃりべちゃりと黒い何かが剥がれ落ちていく。
なんで、あんなに消耗してんだ。
なんでオールマイトは動かない。
なんで――。

「緑谷!!?」

緑谷が、爆豪でも轟でも、まして俺でもなく、緑谷が飛びだした。
足は不自然なほどに空中で諤々と揺れ、しかし、届いた。
緑谷の、オールマイト並みの力なら、あのワープ野郎もぶっ飛ばせる!

「オールマイトから、離れろ!!」

緑谷の手が黒霧の装備部分に触れることはなかった。
とっさに位置をずらし、そして緑谷の眼前に現れる干からびた手。

「死ね」

ぞくり、と肌が粟立つ。
死柄木じゃない。
黒霧でもない。
もっと高い。
凛と張った、女の声。
実際、聞こえたのかどうかすら定かではない小さい声だったと思う。
しかし、耳元で囁かれたかのように、指一本動かせなくなる。
うそ、だろ。

「久地楽……?」

緑谷の直下、黒い水たまりから、先程の崩れた獅子が現れた。
緑谷にも、死柄木の腕にも目はくれず、死柄木の首だけに、一直線に向かう。
今までの非じゃない速度で、形の悪い牙がその首を捕えた。

「黒霧!!」

とっさに左手で獅子の顔を掴むが、一瞬遅く、首こそ食われなかったものの、肩の皮部分を食いちぎられた。
即座に崩壊していく獅子は短く吼えると無数の針に形を変える。
ひと際長く大きい針が死柄木の、肩の傷部分に突き刺さり、入りこむ。

「くっそがぁあああ!!」

端から崩壊が続いている針を、黒霧から引き抜いた右手で握り込んだ。
すさまじい痛みに耐えつつ、死柄木は針を引きずり出す。
間をおかず、針は完全に崩壊して、半身残っていた獅子の体とともに塵となった。

「緑谷!離れろ!!」

激昂した様子の死柄木は、緑谷を一瞥して久地楽のバリアを睨んだ。
が、直後銃弾が死柄木の手を打ち抜く。
生徒がいる中、いくつかの発砲音が聞こえ、正確無比な狙撃が行われる。
スナイプ先生だ!!

「来たか!!」

オールマイトの声に、本来であれば安心していたはずであるというのに、俺はもう敵も仲間も目に入らず、久地楽のバリアへと走っていた。
飯田がやってくれた!
先生たちが来た、もうあっちは大丈夫だ。
早く、早くアイツを助けてやらねぇと!!
あいつは俺を助けてくれた、俺のヒーローなんだ。

「待て切島!その黒いやつに触るな!!」
「久地楽は俺のヒーローなんだ!!ここで、俺が助けなきゃ!!漢がすたる!!」



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