Step.33 - B
止めようとした轟は、何か助言をくれようとしたのかもしれない。
もしかしたら自分に任せろと言おうとしたのかもしれない。
けれど今の俺には、それを理解する余裕も、立ち止まる勇気も持ち合わせていなかった。
あの時の自分に戻っちまうのが怖い。
なんも守れねぇ、弱い自分に。
「久地楽!!」
両手を黒い半球のバリアにぴたりとつけた。
蠢く表面とは裏腹に、やはり硬質ですべてを拒むような冷たい厚みがある。
その瞬間、俺の全身が白い光に包まれ、まるで薄い光の被膜でもあるかのような不思議な感覚を味わった。
光は黒を退けることはないが、こちらが黒に呑み込まれそうなるのを阻んでくれているのだろう。
俺はふと、これが何なのか何となくわかった気がして、ぐっとバリアを見据えた。
行くぜ。
俺の中で、俺が答えたような気がした。
こんな壁、壊してやる。
右手を硬化させ、渾身の力で振りかぶった。
「久地楽!下がっとけよ!!」
今、助けてやるからな。
バリアにぶつかり、硬化したはずの腕が割れた。
壁でも殴ってるみたいだ。
でも……――手ごたえあり!!
ひびの入ったバリアめがけて、俺はもう一度腕を振りかぶる。
何度割れたっていい。
この右手がだめになったら、左手がある。
それでもだめなら、足がある。
諦めねぇ、絶対に。
なあ、そうだろ。
「久地楽」
右手がバリアに触れる直前、プレゼントマイクの個性『ヴォイス』がUSJ内を揺らした。
直撃したわけでも、攻撃されたわけでもないが、あまりの音量に思わず耳をふさいでたたらを踏んだ。
『おにい、ちゃん……?』
耳をふさいでいても聞こえた。
久地楽の声だ。
水を吐くような音が混じっていたのが気になる。
しかし、俺はおくびにも出さず、もう一度拳をバリアにたたきつけた。
今度はガラスでも割るかのように、あっけないほど簡単にバリアが割れた。
「悪いな、久地楽!お前の兄貴じゃない!」
溢れだした黒い濁流からは、白い光が守ってくれる。
俺は躊躇わず、黒い奔流の中心へと歩みを進めた。
視界はゼロ。
手探りで黒い濁流の中、久地楽を探す。
ふと、きらりと何かが光った気がして、躊躇わずそちらに重たい体を動かす。
光る、銀のバングルが見えた。
おそらくそこにあるだろう体を抱き上げると、血まみれではあるがやっと顔が見えた。
酷く驚いた様子の久地楽に、笑顔を見せる。
いつもあいつがそうしていたように。
黒い何かが、重力に従って剥がれ落ちていく。
「切島鋭児郎だ!助けに来たぜ、学年首席!!」
「きり、しま……」
「おう、どうした!らしくねぇ顔しやがって!」
くしゃりと顔を歪めた久地楽は、涙を流し始めた。
久地楽の泣き顔なんて、始めた見たせいで、酷くうろたえる。
「あり、ありが、と……!!こわ、か、った……!!」
「……もう、大丈夫だ!」
緩みかけた涙腺を、ぐっと気合で引き締める。
久地楽の全身は何かに引き裂かれたかのように無数の傷跡で埋め尽くされている。
なかでも、左腕はひどい。
「あ……りがと……きりしまぁ……」
かくりと、久地楽は糸が切れたかのように目を閉じて弛緩した。
えええ!!?マジか!!
「久地楽!?おい!?」
「動かしてんじゃねぇぞクソ髪!ただ気を失ってるだけだろうが!」
「お、おお、爆豪!そうか!死んだんじゃねぇよな!!」
「ハア!?息してんだろ!さっさと連れてけポンコツ野郎!」
爆豪、わざわざ久地楽の容体を見に来てくれたんか。
俺は礼を言う代わりに笑顔を返し、おう、と入り口ゲートのほうへと走った。
一人で戦わせて、悪かったな、久地楽。
ワープゲートで一緒に飛ばされたって言うのに。
きっと爆豪もそれを気にしたのだろう。
意識のない久地楽に、少しだけ、声を抑えて囁く。
「皆いるんだ、もう、一人で無茶すんなよ……頼むから……」
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