Step.36
「っはああ!?なれるわけないじゃん!!」
コトハは驚いたように私見た。
酷い気分なんだ。
もう正直、何もかも分からない。
「え……?」
「ヒーローになるなんて絶対ダメ!!ヒーローになったらこれが何回もあるんだ!きっとコトハは耐えられない!」
「そうならないために強くなるって言ってるんだよ!」
コトハは冷静さを欠いた声で叫んだ。
コトハの左腕にはお兄ちゃんのゴーグルが埋まったままだ。
医者が腕の傷を縫合する際にすべて摘出しようとしたが、私のものでは無い黒がそれを阻み、結局とりだせないまま傷をふさいだ。
傷は、残ると言っていた。
普通自分で自分を傷付けたりするか?
いくらお兄ちゃんが好きだからといって、そのゴーグルを腕に埋め込もうだなんて思うか?
“普通は”そんなことしない。
異常なんだ。
「いつ強くなれんの?その度に自分を傷付けて?そんなのだめ、許せない!」
白もコトハもどうかしてる。
私はコトハに手のひらを向けた。
大切なものを守るためには、これしかない。
今回、確信した。
「もう誰も傷つけない。守ることにさえ専念すれば、私たちは誰にも負けない」
「私を閉じ込めて、それで守った気になるの?」
コトハを包んで閉じかけた黒が、止まった。
コトハの体から出る光が私の黒を阻んでいる。
「消太くんも、ひざしくんも、クラスのみんなも閉じ込めて」
「そうだよ。私たちの黒は何者も阻む。あの脳無だって砕けなかった」
白がコトハの手を取って、私を睨むでもなく見つめた。
私の姿は中学の、あの時のままのコトハなのに、白の姿は、どんどん成長しているような気がした。
どうして。
最も幸せな感情の姿が中学の時のわけがない。まして、今のわけがない。
両親がいて、お兄ちゃんたちがいたあの瞬間が、私の中で最も幸せなはず。
なのに。
「皆、守られるほど弱くない」
閉じかけていた黒が、白い光に圧されて、退いてしまう。
そんなはずない。
少なくとも、コトハは私が守らなきゃ。
また、あんなことにならないように、私が、守らなきゃいけない。
「今までずっと、守ってくれてありがとう、黒」
嫌だ。
そんなこと言わないでよ。
それじゃあ私がもういらないみたいじゃない。
私が間違ってるの?
コトハを守ろうとした私が。
「私は、コトハを守らなきゃ―――」
「だからこれからは、隣で一緒に戦ってほしい」
ぽたりと、黒い涙が、落ちていった。
私たちの本質が、ヴィランだって言うのは、気づいていた。
私はそれにかまけて、自分を卑下し、憐れんで、立ち止まり隠そうとした。
いつまでもずっと、弱いコトハを守り続けていた。
私が、コトハの足を引っ張っていたのかもしれない。
コトハは今、すべてを受け入れて前に進もうとしている。
私の手を取って、三人で。
心のどこかで、置いていかれたと思った。
だからこそ、コトハの中にもう一人いるだなんて、叫んでは虚像を憎んだ。
すべてはそいつが悪いのだから、私が守ってあげる、だなんて、どちらが利己的なのか。
いつまでも立ち止まっていたのは私だ。
個性管理課の国本に連れていかれそうになった時、焦凍くんが激昂していた理由、私には少しだけ分かる。
きっと、同じだったんだ。
私も焦凍くんも、昔のコトハの幻想を抱いて、自分のために、弱いコトハを守ろうとしていた。
置いていかれないために。
でもコトハは、ちゃんと私の手を取って、前を向いて進もうとしている。
置いてなんていかない。
だって私たちは、一つなのだから。
シルバーのバングルが、きらりと光った気がした。
コトハの本質がヴィランかどうかなんて、最初からどうでもいいことだったんだ。
いつもみたいに笑ったコトハは私に手を伸ばした。
最初からヒーローのやつなんていない。
だから、目指すんだ。
「私の夢は、ヒーローになることだよ」
「……知ってるよ、ばか」
欲しかった言葉をもらった私は、案外あっけなく籠絡された。
肩をすくめて、腕を広げたコトハに抱き付いた。
白い私も入れて、三人で一つになる。
コトハが望むなら、仕方ない。
隣で一緒に戦ってあげるよ。
「これで、ほんとのほんとに仲直り」
これから一緒に、歩いていこう。
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