Step.38



入院した翌日、朝から前身の検査があり、それが終わると共にすぐ退院できるとお達しがきた。
荷物を纏めて、すぐに消太くんの病室へ向かう。
私には黒も白もいるから、左手一本使えなくても特に支障はないが、消太くんはそうもいかない。
病室についてノックもそこそこにすぐ扉を開けたが、そこには誰の姿もなくてぞっとした。
一瞬にして、悪い想像が広がる。

「おい」

後ろから声をかけられ、パッと振り向くと消太くんが看護師さんに付き添われながら立っていた。
昨日会ったはずなのに、数日ぶりに会うような感覚がして、今すぐにでも抱き付きたくなったが、相手は重傷者だと思いとどまる。

「検査で問題なきゃ退院できるらしい。バアさんにも治癒してもらったからおそらく大丈夫だ。荷物纏めてくれるか」

聞こうとしたことすべてに答えられ、私はとりあえず頷くことしかできなかった。
看護師さんは消太くんの着替えを手伝うからと、ベッドのカーテンを閉めて私が咄嗟に差し出した着替えを受け取った。
私の着替えも消太くんの着替えもひざしくんが朝に持ってきてくれた。
正直下着まで持ってきてくれたのは嬉しくない。
色気ねぇなーと言われたのも嬉しくない。
とりあえず要安静の私に代わり、黒が一発殴った。
消太くんがカーテンの向こうで着替えているうちに、白と黒に荷物をまとめてもらう。
とは言っても、緊急入院だったせいで、荷物もそう多いわけではない。
あの日学校に残してきたものはひざしくんが家に持って帰ってくれたらしいし、ここにあるものといえば消太くんの捕縛武器と怪我に関してのいくつかの書類、消太くんのためにひざしくんが持ってきやがったゼリー飲料くらいだ。

「ひざしくんは後で締めよう」
「賛成」

呆れたようにゼリー飲料をトートバッグに入れる黒は肩をすくめて頷いた。
最近の白は幼かったり私と同じくらいだったり形がおぼつかない。
いまは幼い私だが、さっきは大きかった。
ここまで差が激しいと流石に気になるのだけれど、白はどちらか一方に統一する気は無いらしい。

「終わりましたよ」

看護師さんがにこにこと私を見ながらカーテンを引いた。
ヒーロースーツでもない黒い私服。
家の中で着るようなスウェットでもないから、久しぶりに外行きの格好を見た気がする。

「消太くんかっこいいね」
「何言ってんだ。包帯ぐるぐる巻きのミイラだろうが」
「そうだね」
「着替える際は腕を動かさないように補助をお願いしますね」
「はい。ありがとうございました」

看護師さんの背を見送り、満身創痍の消太くんに苦笑する。
消太くんは両腕が使えず、私は左腕が使えない。
私はまあ何とかなるけど、消太くんにはずっと黒についててもらおうかな。
白はあんなでちょっと使い物になるか分からないし。

「コトハ、怪我は大丈夫か」
「全然問題ないよ。左は縫い合わせたから抜歯するまで包帯取れないみたいだけど」
「腕だけじゃねぇだろ。顔にも、体にも、足にも傷つくりやがって……」
「でも、前に進めた」

言い募ろうとする消太くんを遮って、私は左腕を握った。
皮膚の下に消太くんのゴーグルの欠片が入っているのが分かる。
私はきっと、昨日のことを一生忘れない。

「私はもう大丈夫。だから、心配しないで」

消太くんは呆れた様にため息をつき、どことなく優しい目で私を見る。

「成長したね」

ああ、きっと、いま手が動いたなら頭を撫でてくれただろうに。
ぐっと歯噛みした私を見てか、黒がおずおずと頭を撫でてくれた。
違うそうじゃない。
同じ体なんだから分かれ。
ふと病室がノックされ、返事も待たずに医者が入ってきた。

「相澤さん入りますよー」

ノックの意味って。

「検査結果でまして、本来であれば絶対安静なんですけどね。まあ、雄英には修善寺さんもいますし大丈夫でしょう。一応痛み止めと目薬の処方箋も出したんで使ってくださいね」
「今日退院して大丈夫ですか?」
「ええ、ええ、大丈夫ですよ、大丈夫じゃないですけどね、本来は。命に別状はありませんけどね、生活に支障は出るでしょうがね」

ヒーローってのはそんなんばっかですよ、と医者は適当に手を振った。
苦労してらっしゃる。

「お世話になりました」
「君もね、無茶なことばっかりしてるとね、嫁の貰い手がなくなっちゃいますよ。うちに来るヒーローなんてそんなんばっかですよ、四十過ぎてみんな運命の相手を待ってますからね」

医者は深いため息をついてふらふらと病室を出ていった。
あの人多分精神科でカウンセリング受けた方がいいと思う。
医者の不養生ってこれのことかな。
処方箋と退院の資料、怪我の説明など医者が置いていった色々な書類をひとまとめにして黒が持って立ちあがった。

「帰ろっか」
「俺もそう思う」

急に何を、と思ったが、医者に言われた婚期の話かと思い至って苦笑する。
まだ結婚のことは考えてないんだけどなあ。
まあ、だから心配なのかもしれないけれど。

「大丈夫だよ。四十過ぎて独り身だったらひざしくんが貰ってくれることになってるから」
「腕治ったらあいつ殴るか……」
「え、なんかごめんひざしくん」



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