Step.39


1―Aの教室を前に、立ち止まった。
私の前回の暴走を知って受け入れてくれたお兄ちゃんたちはともかく、今回の暴走は何人かの生徒に見られたという。
殺意剥き出しの私を、見られた。
私はすでに立ち直って自分自身にけりをつけたから、もう何も思うことはないが、みんなはそうもいかないだろう。
少しだけ億劫な腕を持ち上げ、馬鹿みたいに大きい教室の引き戸を開いた。
職員室で怪我の報告やら校長との面談という名のお茶会やらがあったせいで後5分もすれば予鈴が鳴る時間だ。
既にみんなそれぞれの席についていた。
あ、というみんなの視線をとりあえず無視して切島の前に立つ。

「切島、助けてくれて―――ん?切島?」
「……ぅ」
「う?」
「ぅうううおおおおおお前!無事だったんなら連絡返せよ!?病院に運ばれてからずっと連絡取れねえし!!今日も遅えし!!俺がどんだけ心配したと……!!」
「ごめん!?」

すごい剣幕で立ち上がって怒り出した切島に、一歩後ずさって反射的に謝った。
そういえば昨日から全く携帯見てなかった。
ポケットから携帯を少しだけ出して通知を確認すれば、えげつない量の通知が来ている。

「無事で良かった」

切島の優しい声に、顔を上げた。
あ、涙目。

「きりし、ぅおおわ!?」

切島に声をかけようとして、横からの衝撃にたたらを踏んだ。
このピンクは……三奈ちゃん!?
ってか傷!まだ塞がってないから!!
反対側からはお茶子ちゃんが突っ込んできた。
待って!マジで一回待って!

「コトハ!!うちらも心配したんだよ!!」
「コトハちゃん!!」
「みんな!久地楽くんが無事で良かったのは分かるがもう予鈴が鳴るぞ!席に着くんだ!」

そうだ飯田くん頑張れ!!
そして助けてくれ!マジで傷開く!!特に腕!
さらに増えかねない女子たちを三奈ちゃん越しに見て、私は何故だか広い川が見えた気がした。
あれ、お母さんだ!
これってもしかして三途の川とかそういう感じの川じゃない!?

「無事で良かったですわ!」
「コトハ!あんた一言くらい連絡返しなよ、心配するじゃん!」
「そーだそーだ!」
「誰も聞いていない!?」
「お、お兄ちゃ……先立つ不孝を……」
「お早う。お前ら席に……何やってんだ?久地楽殺す気かお前ら」
「ああああ!!あかん!コトハちゃんが!!」
「コトハ!しっかりしろー!!」

やっと教室に来てくれた消太くんの一言によって私の圧死はかろうじて防がれたようだった。
遅いよヒーロー……!
病み上がりの消太くんの一睨みによって、騒ぎは一時的に静寂を迎える。
割とマジで死ぬかと思った。
私も席について前の席の百ちゃんと視線を合わせて笑った。
相変わらずの可愛さ。

「ってか相澤先生復帰早えええ……!」

ちょっとふらふらしているが、リカバリーガールに治癒してもらった弊害だろうか。

「先生!無事だったのですね!」
「無事言うんかなぁ、アレ……」
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

えっ、それって……。
クラスにピリッとした緊張感が走る。
まさか、またヴィランが?

「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たああああ!!」

みんなホッとしたように叫んだ。
切島、すごく楽しそう。
みんなから僅かに白い靄が立ちあ上がる。
なんだ……思わせぶりなこと言わないでよ。
でも、これはチャンスだ。
黒に私の負の感情を渡して自在に操ることは可能だけれど、黒を介さないで扱えばまた感情に飲まれ暴走するだろう。
私の奥底から湧き上がる感情は力の源であると同時に、理性を失うトリガーでもある。
これを、呑まれる前に黒に渡して私自身に牙を剥かないよう制御しなければ。
そのためにも、体育祭はまたとない機会なのだ。
私は人知れず右手を握り込んだ。
左腕は全治1か月と言われたが、来週には抜糸する予定だ。
全力で戦うことはできないにしても、私の個性ならそれ程大きなハンデにはなり得ない。
大丈夫、きっと、間に合う。
頑張ろう。



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