Step.46



毎年恒例のふるい、いわゆる予選の第一種目は障害物競走。

「我が校は自由さが売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば、何をしたって構わないわ!」

何をしても、ね。
白、行くよ。
白の答える声がして私はみんなの少し後方で位置についた。

「コトハちゃん?」
「皆ライバルだよ、お茶子ちゃん。しっかり前を向いた方がいい」

すれ違ったお茶子ちゃんはそんな後ろでいいのかと眉尻を下げたけれど、私の言葉を受けて、口元に少しばかりの笑みを浮かべて強く頷いた。
お茶子ちゃんのその顔、すごく好きだ。

「さあさあ、位置につきまくりなさい!」

放送席に、お兄ちゃんたちを見つけて、手を振る。
ひざしくんは激しく手を振り返してくれたが、消太くんには睨まれた。
一番いい席で見てくれている。
格好悪いところ、見せられないよね。

「スタート!」

ミッドナイト先生の合図と同時に、白いハヤブサを作る。
飛び乗って、生徒たちが押し寄せるスタートゲートへと風を切った。
ゲートは広くない、がしかし高さはある。

「行け」

誰よりも早く、ゲートを抜けた。
人を乗せられるほど大きいとはいえ、鷲よりも小型で作り慣れていないためバランスの取りにくいハヤブサを下りて、獅子へと変える。
速度はあるけど要改良かな。

『YEEEEAH!!スタートゲート一抜けは1−A久地楽コトハ!!さすがは学年首席!一般入試の頂点!!文武両道とはこのことだ!!』

ひざしくんの声に思わず笑いそうになるが、そんな場合じゃないと白に心を渡す。
着地の瞬間、後ろで派手にゲートが凍り付いた。
見るまでもない、焦凍くんだ。

「そう上手くは行かせねえよ半分野郎!!ビビり女!」
「その呼び方やめてよ!ビビってないし!」

爆豪の声に叫び返しながら、凍りつく地面をそれよりも早く獅子が駆けた。
焦凍くんの氷が思ったより速い。
A組が真っ先に凍てつきから脱しているのを後目に、獅子の毛に顔をうずめた。
序盤、まだ何かあるはず。
警戒を怠らず、最前線を走っていれば、嫌な聞き覚えのある音がした。

「おねえちゃん!!」
「分かってるよ!」

獅子から鷲へと形を変え、一気に上昇する。
私の居たところに、いつか見た巨大ロボの足が振り下ろされる。
あ、危ない!
入試の時より殺しに来てる!!

『さあ!いきなり障害物だ!まずは手始め……第一関門!ロボ・インフェルノ!!』

ひざしくんの声が会場に響き渡り、私の少し後方で峰田がもろにやられているのが視界に入った。
大丈夫かな!?
いや、それよりも追い付かれた。
行こう。
白に声をかけて、鷲の背にしっかりと捕まる。
全身に力を籠めた白い鷲が羽ばたこうとした瞬間、私の進行方向をふさぐように氷が屹立した。
くっそ、焦凍くんだな!
危うく鷲が貫かれそうになったのをとっさに回避して、高度を上げる。
ロボを凍らせ、私への壁も用意するなんて……さすがというべきか、焦凍くんは手強い。

『1−A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!』
「コトハ!これ以上は形を変えないほうがいい!何なら新しくしよう!」

黒に言われ、ぎり、と奥歯を噛みしめた。
確かに形を変え過ぎたせいで、正常な形を維持できなくなっている。
貯蓄を消費してしまうが、新しく作り直すか。
いや、まだ予選だ。
消費は抑えたい。
鷲の背にしがみついて、僅かに歪んだ翼を叩く。

「行こう!」
「待てや!ビビり!!抜かせねぇぞ!!」

下から爆発音と共に、爆豪が飛びあがってきていた。
ビビりじゃないし!
トラップを仕掛けてもいいが、その分心を消費する私は残念ながら妨害には向いていない。
なら、進むべき。
ひざしくんの実況を背に、爆豪の頭上を滑空した。
しかしその瞬間、鷲の尾を掴まれ、激しく爆破される。

「俺の前に立つんじゃねェ!くそビビりが!!」
「いっ……!」

地面に引きずり落とされ、受け身はとったものの遅れを取る。
こんっのくそ爆豪!
とっさに白が地面との間にクッション作ってくれたからほぼ無傷だけれど、その間に2,3人に抜かれた。

「出し惜しみしてる場合じゃない!黒!」
「了解!」

爆豪は上をいくことを決めたらしい。
なら私は地上を行こう。
黒い獅子を出して、抜かれた後れを取り戻すように速度を上げて駆けた。
警戒すべきは焦凍くんと爆豪。
どちらかといえば、後続妨害を積極的に行う爆豪が厄介だ。
それに焦凍くんの右は、知ってる。

『オイオイ第一関門チョロイってよ!んじゃ第二はどうさ!?』

ひざしくんの実況にハッと顔を上げた。
綱渡り!?
いくつかの足場が細いロープによって繋がれている。

『落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォール!!』
「黒」
「OK!」

獅子は走りながら黒い鷲へと形を変えた。
爆豪というリスクはあるが、おそらく今は轟しか目に入っていないだろう。
だからこそ、目立たない黒を使っているのだ。
上空をいく爆豪を気にしつつ、低空を羽ばたいた。

『先頭が一足抜けて早くも最終関門!!かくしてその実態は―――』

マジか!あんまり爆豪を気にしすぎたせいで、焦凍くんとの距離を見誤っていた。
バランスは悪いが、ハヤブサへとマイナーチェンジし、速度を上げる。

『一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!』

地雷、ね。
私は――。

「俺は――関係ねぇええ!!」

不覚にも同じことを考えていた爆豪と、一瞬前までは先頭だった焦凍くんの真後ろについた。
USJの一件のせいで貯蓄は一度ほぼゼロになったが、触れさえすれば、いくらでも心を奪える。
ばれないように静かに、二人に手を伸ばした。

「てめぇ!宣戦布告する相手を!間違えてんじゃねえよ!」

そこで振り返るか普通!!
先頭に立った爆豪は焦凍くんに向かって爆発を起こす。
あともうちょいだったのに!
空を切った手をハヤブサに戻し、崩れかけたバランスを持ちなおして横に回転して距離を取った。

「足の引っ張り合いなんかしないでよ!迷惑だな!!」
「何か企んでやがったなてめぇ!また引きずり落とされたいんか!くそビビり!」
「お前を傷つけたくない。だから下がれ、コトハ!」
「私は守られるためにここにいるんじゃないし!焦凍くんは私を守るためにここにいるわけじゃないでしょ!!」
「なにごちゃごちゃ言ってんだ死ね!!」

爆豪の爆発と焦凍くんの氷に阻まれて、中々先頭へ行けない。
どちらか片方でも、捕えなければ。
触れさえすれば、何とかなるのに……。
いや、触るのは不可能だ。
じゃあどうする。

「じょうしょ―――」

上へ飛ぼうとした瞬間、後方で大爆発が起きた。
薄ピンクの大煙幕から、緑谷が姿を現す。
ま、じか!?

『A組緑谷!爆発で猛追―――っつーか抜いたあああ!!』
「微量上昇!」

ハヤブサは前に進みながら緑谷、爆豪、焦凍くんから離れるように、彼らが届かない程度上昇した。
上がりすぎればその分距離が生まれる。
これがちょうどいい。

「デク!!俺の前を行くんじゃねえ!!」

爆豪が上がってきてヒヤリとしたが、もう後続妨害を行っている余裕もないのか叫ぶだけで前を見据えてひたすらターボを繰り返している。
先頭を取った緑谷は空中での推進力を失い、やがて失速するだろう。
これならいける!
なんてったって、ハヤブサは鳥類最速!!
一度の羽ばたきで爆豪のターボを追い越したハヤブサは、緑谷すら抜いて、私が先頭に立った。

「よし―――」

緑谷が仮想敵の装甲を、地面にたたきつけた。
やばい、と思う間もなく、爆風をもろに受ける。
黒がとっさにハヤブサを崩して私を包み込んだ。
違う!!前に進むんだ!!
黒いバリアが解け、爆豪の起こす風で視界が開けたが、見えたのは緑谷の背中。
くっそ、抜かれた!!
私よりも立ち直りの早い元先頭2人が間髪入れずにその背中を追う。
爆発の衝撃を残したまま、私もその後ろに続いた。

『雄英体育祭1年ステージ!!序盤の展開から誰が予想できた!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男―――緑谷出久の存在を!!』

暗いゲートの中で、一位のコールを聞いた。


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