Step.51
焦凍くんが消えた。
というか、私が移動したのか。
一瞬の浮遊感になんだと目を見開けば、覚えのある金髪にさらに驚いた。
「ひざ――プレゼントマイク!」
先ほどまで焦凍くんの腕の中にいたはずなのに、どうしてひざしくんに抱きかかえられているんだろう。
いつひざしくんが来たのかも、いつ焦凍くんの腕の中から引っ張り出されたのかも分からなかった。
現役プロってすごい。
「なんでアンタがここにいんすか……」
「こいつに至急の用があったからな。悪いが連れてくぜ」
「え、そうなの?ごめん、焦凍くん。さっきなんか言いかけたよね、何かな?」
「……忘れた。大したことじゃない」
焦凍くんは少しばかり不機嫌そうに首を振って踵を返してしまった。
あれ、何かやらかした感じある。
「お兄ちゃん降ろして」
「いいか、コトハ。真面目な話、男はみんな狼なんだ」
「何言ってるの?ってか至急の用って?」
「――……消太ンとこ行くぞ」
「え?何か怒ってる?なんで?」
******
「で、連れてきたわけか……」
「お前でもそうする!絶対する!」
「しねぇよ……ガキか」
珍しく消太くんがうるさがらずにひざしくんと会話してる。
とてつもなく呆れているようではあるけれど。
「なに、どうしたの」
「分かんない。見てよ」
黒が消太くんとひざしくんを後目に近づいてきた。
放送席の端に置かれたお弁当を見るにきっと消太くんの介助をしていたのだろう。
黒が私の手を取って同調している間に、白に呼びかけてみる。
が、なにやらよく分からない返答が帰ってきたのでなかったことにした。
「え……うそ、まさか、焦凍くん……」
「なに?なんか分かったの?」
「分かったっていうか……いや、アンタ逆になんで分かってないの……?」
額に手を当ててため息を押し殺した黒は、まるでエイリアンでも見るかのような目で私を見つめてきた。
今は輪郭すらあまり覚束ない真っ黒なのにどうして表情が分かるんだろうと考えた時期もあったが、結局同一の存在だからだという結論に至ったせいで詳しくは分かっていない。
白は特に分かりやすいけれど。
「えっ!?何?何なの?」
「コトハ……心、見せてくれる?」
「いいよ。黒と違って隠し事ないし」
「トゲのある言い方しないで」
ごめんごめんと笑って心を開けば、黒が入ってくる感じがして、その姿が消えた。
それと入れ代わりのように、放送室の扉がノックされた。
「コトハ開けて!」
聞き覚えのある、というか、自身の声に頬を引きつらせながらドアを開けた。
嫌な予感がする。
ありがとー、と喜色満面といった様子で入ってきた白はその両腕に食べ物をたくさん抱えていた。
さすがに小さい姿では無理があると判断したのか、私と全く同じ姿を白色で形作っていた。
……何やってんの。
「いやーそれがさ、出店のほう見に行って焼きそばとイカ焼き買ってきたんだけど、途中でシャチの、なんだっけ、なんかヒーローにあって、あー、コトハ好きだったなーって思って――」
「待って、それ長い?」
「うーんとね、焼きそばとイカ焼きは買ったんだけど、タコ焼きは貰って、あ、このフランクフルトも貰って、んでここ来る途中で切島にあって、食堂にいなかったからってパンもらった。同じ理由でお茶子ちゃんがおにぎり買っといてくれたの貰ってきたよ」
机に持っていた食べ物を並べだした白は、一つずつ思い出すように指をさしては考え込んでいた。
幼いころの私を模倣していた時の癖が治らないのか単純に頭が弱いのか、至極要領を得ない言葉の波にとりあえずキーワードだけを流し見した。
「……よく分かんないけど切島とお茶子ちゃんには申し訳ないことをしてしまった」
「そうだね、泊まりに行こうよ!」
「脳味噌お花畑か」
「だってどっちも一人暮らしじゃん。ご飯作りに行ってあげようよ、楽しいし」
「んー、ん、まあ?」
白の言葉に軽くうなずきを返すと、消太くんと話していたひざしくんがぱっとこちらを振り返って「お泊り禁止!」と声を張った。
うっるさいなぁ!?
この隙にとばかりに消太くんは寝袋の中にもそもそと入り込んで完全に無視を決め込んだ。
ずるいぞ!
「さっきから何なのお兄ちゃん!」
「屋台の焼きそばってやっぱり違うよねー」
「分かるけど白、能天気すぎない?」
「どうせ別に大したことじゃないでしょ。それよりご飯食べな、次最終種目だよ」
「そうだった」
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