Step.52
お昼を食べ始めたコトハから抜け出して、私はひざしお兄ちゃんの傍に寄った。
「お兄ちゃん、コトハの心見てみたんだけど……」
「何かあったんか」
「多分、お兄ちゃんが心配してるようなことにはならない、よ」
ひざしくんはあからさまにホッとしてよくやった、と私の頭を撫でた。
コトハは、本当に恋愛感情が分からないわけじゃなくて、いまは必要ないからと奥底に沈めているのだ。
だから、まあ、言われればそれが何か分かるのかもしれないが、今はまだ、分からないのだろう。
あの様子だと、少なくとも、ヒーローになるまでは見向きもしないはずだ。
確かにコトハが本気でヒーローに臨もうとしているのは分かっていた。
けれど、私とは決定的な本気の差があったらしい。
もちろん無理にというわけでは無いけれど、コトハには支えてくれる誰かがいればいいと少なからず思い描いていた。
けれどコトハは、その存在に恋人を立てることはない。
あくまで、家族や友人のことしか心に存在しないのだ。
「でも焦凍くんには、あれで良かったのかもしれない」
「轟がどうあれ、コトハがそれを選んだなら俺らが何をいう必要もないだろ」
消太お兄ちゃんが話を終わらせようとしてか、包帯の隙間からギロリと目を光らせて言った。
お兄ちゃんは私が誰とどうなろうと関係ないの?
ムッと眉間にしわを寄せると、ひざしお兄ちゃんが肩を叩いて囁いた。
「あれは案外ホッとしてんだぜ」
ひどく単純なもので、私はそれだけの言葉ですっと機嫌が良くなる。
今はまだ、恋人より家族を大切にしたい、か。
コトハと少し心は違うけれど、結論としては同じだろうと飲み下した。
一番分からないのは、白だけど。
ちら、とコトハと遊んでいる白を見る。
あれに恋愛感情なんてものがあるとは思えない。
そろそろ集合の時間だぜ、というひざしくんの言葉に私はコトハたちを促した。
おにぎりを食べながらパンを睨みつけていたコトハはごくりと口の中のものを飲み込み、パンを口の中に詰め込んだ。
「残りは後で食べるからここに置かせてーってコトハが」
白の言葉にコトハがもぐもぐと頷いた。
ぶっさいくだなぁ。
「はいはい行くよ、コトハ、白!」
既に会場に集まりつつあるのを放送席からちらりと見て二人を促した。
白はニヘリと笑ってコトハの腕を取った。
「そいじゃあ、頑張ってくるね!お兄ちゃん!」
コトハは相変わらずもごもご言いながらそうそれ、と白を指す。
カッコつかないなぁ。
大体切島もなんでフランスパンをチョイスするかな。
チーズとマヨネーズでこんがり焼かれたとてつもなくおいしい一品ではあるけれど、固いしデカい。
「おい、アホども」
もそりと、寝袋が動いた。
アホって失敬な。
この状態を見ればコトハはどう見てもアホだし白も脳味噌軽そうだけど私は違うじゃん。
「予選、騎馬戦はよかった」
「そうだな!特にあのドラゴン!」
反論しようと肩をすくめた私に、お兄ちゃんたちの声が降ってきた。
う、わ。
そんなのずるい。
「次も、期待してる」
私たちは胸を抑えて唸った。
コトハはフランスパンを咥えながら、私と白の肩を叩く。
分かってる、分かってるよコトハ。
「お兄ちゃんそういうとこある……!!」
「お兄ちゃん好き……!!」
そうそれ、と見覚えのある動きでコトハは私たちを指した。
でもねコトハ、ごめん。
私の『好き』は、きっとアンタと違うんだ。
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