Step.53
「もあああ!もっ、もっ!」
「わああ、可愛い!って言ってるよ」
フランスパンを飲み込めない私に代わって、白が猫の姿で私の言葉を代弁した。
っていうか!
チア!?
なんでみんな着てんの!?
「峰田さんと上鳴さんに騙されましたの……」
「コトハちゃんはなんでフランスパン食べてるん?」
「もっ」
「切島にね、貰ったんだ」
「コトハさん、そのフランスパン切って差し上げますわ……」
「ほんと!?ありがとう!」
意気消沈といった様子の百ちゃんに、口をつけたところをちぎって綺麗な方を渡す。
百ちゃんは紙に包まれているフランスパンの先を少しだして、創造したブレッドナイフで食べやすい大きさに切り分けてくれた。
ありがとう元気出して……。
レクが終われば最終種目だというのに気落ちしている百ちゃんには勇気と自信の欠片を少しだけ渡し、諸悪の根源を探す。
ああ、いた。
「峰田、上鳴」
「げっ!久地楽!」
「嘘はいけないよね。今はやんないけど、体育祭終わったら、覚えてなよ」
右手に黒い靄を纏わせてほほ笑めば、二人はこうかはばつぐんだ!といった感じで震えあがった。
まったく。
何万人の前でなにさせてんだ。
ちょっといいなとか思ったけど。
「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」
レクってなんだろ。
ミッドナイト先生がくじ引きの箱を持って最終進出者は参加自由という説明を行い、早速くじ引きを始めようとすると、珍しく尾白が手を上げた。
そういえば彼も進出者だ。
確かレーザーの青山、B組の庄田と一緒に、普通科の人を騎手に据えていた気がする。
接触はまるでなかったから騎馬戦中の様子は記憶にないけど、鉄哲チームが残ると思っていたから少し印象に残っている。
「俺、辞退します」
「尾白くんなんで!?」
「せっかくプロに見てもらえる場なのに……」
緑谷と飯田の声に、尾白は小さく首を振った。
「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分、やつの“個性”で……」
尾白の騎手を知っている幾人かが、普通科の彼を見た。
個性、厄介なんだ。
あの時、A組に宣戦布告しに来たやつだね。
「こんなわけ分かんないまま、そこに並ぶなんて、俺は出来ない」
透ちゃんや三奈ちゃんが尾白くんを励ますが、彼は涙を堪えるように手で顔を覆った。
きっと彼はとても真っ直ぐなんだ。
彼に触れるべきじゃないと思いなおして、伸ばしかけた手を下げた。
尾白に続くようにB組の庄田も辞退を申し出て、普通科騎馬の半分が欠けた。
確かに機会を失うという面では勿体ない気もするが、自分の心に反してトーナメントに出ても結局は辞退するのだろうし、それであれば、他の人間にチャンスを譲ってもいいのではないだろうか。
ミッドナイト先生もそう考えたのか、それとも発言の通り本当に好みで決めたのかは分からないけれど、しかしそうなると繰り上がりが……。
「一佳ちゃんチームだ……!」
私が思わず声を上げて一佳ちゃん達を振り返ると、彼女達は私を見て申し訳なさそうに首を振った。
代表するように騎手だった一佳ちゃんが一歩前に出てミッドナイト先生を見る。
「そういう話で来るんなら……ほぼ動けなかった私らよりアレだよな?最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?馴れ合いとかじゃなくさ、フツーに」
そ、っか……残念だけど、一佳ちゃんたちがそう決めたのなら仕方がない。
一瞬、トーナメントで当たるかもしれないとワクワクしたけれど。
「ごめん、コトハ」
「謝ることないよ」
「でもいつか、また機会があるって信じてるから」
右手を差し出した一佳ちゃんに頷き、握手を返す。
自信と勇気の心が触れ合った手から感じられて、気落ちしているわけでもなさそうだと少し安心する。
「うん、私も」
一佳ちゃんたちに手を振って視線の合った鉄哲チームのほうへ向かう。
彼らのチームからはきっと、騎手の鉄哲と茨ちゃんかな。
鉄哲は私と入れ違いに一佳ちゃんに礼を言いに行き、私は苦笑しながら茨ちゃんに向き直る。
「出場おめでとう」
「ええ、コトハさんも。私は一佳さんの温情でトーナメントへあがることが出来ました」
「茨ちゃん強いの知ってるから、私も本気で行く。頑張ろうね」
「コトハさんにそのように言っていただけるなんて光栄です。私も是非、お手合わせ出来ればと願っておりますね」
相変わらずなんか神々しい茨ちゃんに鉄哲にもよろしく伝えといて、と伝言を残して手を振った。
先生側の調整も終わったのか、私がA組のほうへ戻ったのとほぼ同時にミッドナイト先生が声を張ってスクリーンを指した。
久地楽は、と左から追っていけば、真ん中あたりで自分の名を見つけた。
相手はレーザーの青山くんか。
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トーナメント
1回戦:緑谷vs心操 轟vs瀬呂 常闇vs八百万 飯田vs発目 久地楽vs青山 塩崎vs上鳴 鉄哲vs切島 麗日vs爆豪
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