Step.55



スタジアムから戻ってきた焦凍くんから良くない心を奪って、エンデヴァーから言われたことは気にしないほうがいいと、月並みな言葉だけ投げかけた。
しばらく私の手を握って己を鎮めようとしていた焦凍くんは、やがて頭を冷やしてくると言い残して会場の外へと出て行ってしまった。
常闇と百ちゃんの戦いは常闇の瞬殺で終わったらしいが、百ちゃんの様子を見に行く前に飯田くんに「次は君の番だろう!どこへ行くんだい!?」と捕まってしまったので、私は大人しく選手控え室に座っていた、
次は青山とだ。
最初のうちはドキドキ止まっていたけれど、あまりにも長いため観覧席のほうに戻ろうかと立ちあがった時、ようやく発目の敗退コールが響いた。
なんか、通販聞いてる気分だった。
さてと立ち上がり、心を整える。
いつ飯田とすれ違ったのかも記憶にないけれど、気づいたらステージの上にいた。

『1年女子ん中じゃあ、お前群を抜いてるぜ!?轟、爆豪、緑谷についで首位争いするたぁ、並みの実力じゃねえ!!久地楽コトハ!』

割れんばかりの歓声にしっかりと胸を張った。
さあ、行くよ、青山くん。

『個性は強いがお腹が弱いのが難点!!速攻決着をつけられるか!?青山優雅!!』

スタートの合図に、私は自身の前に白い獅子を据えた。
レーザーは直線だし、ひざしくんも言った通り青山は持久戦に弱い。
まあ、だからと言って、持久戦に持ち込む気はないけど。

「行け」

白い獅子は私の声と同時に走り出し、一直線に青山へと向かった。
視界が獅子によって塞がれたのを見て、私自身は青山の正面から移動する。
青山のレーザーは強力だ。
私が今まで見た感じでは破壊できないものはなかった。
高密度で練り上げれば多分貫かれないけど、今ここでそれを使うべきかと問えばそれは違う。
だから。
青山のレーザーで白い獅子は弾け、そしてその足元の陰から黒い獅子が現れて、インターバル中の青山を外へと弾き飛ばした。

「青山くん場外!勝者久地楽さん!!」
『イエェェイ!!流石だぜ!カウンターから不意打ち速攻とか天才かよ!?この調子で勝ち進めぇええ!!』

どう考えてもプレゼントマイクじゃなくてひざしくんの言葉だろそれ……。
私が苦笑すると、案の定、ちゃんとやれと消太くんに蹴られた音がした。
お腹を押さえたまま動かない青山はロボによって保健室まで連れていかれる。
牙も爪も立てていないから無傷だとは思うんだけど、腹痛にも勝てなかったらしい。
青山を見送って観覧席に戻ると、塩崎vs上鳴戦がちょうど終わったところだった。
は、早すぎない!?
私が階段を上っているあいだにいったい何があったんだ……。

「ああ、いいとこに!久地楽!」
「おー切島、なした?」
「お前かっこよかったぜ!んじゃあ行ってくる!」
「お、おお」

突然話しかけてきた切島はそれだけ言い残して走って行ってしまった。
そっか、次は切島vs鉄哲戦か。
上鳴が異常に早く負けてしまったせいで、十分に準備できなかったのではないだろうか。
声をかけられた時はまた緊張を取ってくれと言われるのかと思ったけれどそうではなく、切島は自分の心にきちんとケジメをつけて、私に助けを乞うでもなく賞賛を投げた。
慌ただしく去って行く後ろ姿が何故だか凄く大人びて見えた。
あいつの漢気ってカッコいいよなぁ。
茨ちゃんの個性で穴の開いたステージもすぐにセメントス先生によって修復され、すぐに切島戦が始まった。
似た個性を持つ2人の戦いは、全く同じ力をぶつけ合っているかのように長引き、そしてやがて互いの拳が互いを捉え、ダブルノックダウンへと終着した。
硬化しているとはいえ傷ついたその体に、私はぐっと息をこらえた。

「切島……」
「心配か?」
「お、わ、焦凍くん!おかえり、そりゃ心配だよ、硬化の切島があんなに傷つくの見たことないから……」

焦凍くんはじっと私を見て、そうか、と頷いた。
いつ戻っていたのか気が付かなかった。
急激に会場がピリピリとした緊張に包まれていく。
次は、爆豪vs麗日か。
梅雨ちゃんが漏らした通り、『最も不穏』な組だ。
爆豪の実力は誰しもが認める強さだが……そこに、お茶子ちゃんがどれほど喰いついていけるのか。
祈るように手を組んで、お茶子ちゃんを見つめる。
いろんな色が、混ざり合っている。
不安、恐怖、それでも、その全てを覆い隠すように、勇気と、自信、決意の色が見えた。
お茶子ちゃんは、自分よりも相手が格上だと分かったうえで、理解したうえで勝ちに行くつもりだ。
試合開始の合図に、生唾を飲み込む。



- 56 -

*前 | 次#

戻る