Step.56
的外れなブーイングが会場に響き、私がそいつを沈めてやろうかと立ちあがった時、消太くんの声が響いてそれを制した。
『本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねぇんだろうが』
何度爆破されても立ち上がるお茶子ちゃんは、ぴたりと両手を合わせた。
ぞくりと肌が粟立ち、ぐっと右手を握る。
お茶子ちゃん……!!
爆豪によって破壊されたステージの瓦礫は、上空へとお茶子ちゃんの個性によって溜められていた。
無数の瓦礫が、まさに降り注いだ。
お茶子ちゃんだって当たればただじゃ済まない。
それでも、勝つために策を練った。
行け、頑張れ!!
爆豪はお茶子ちゃんから視線を外すと、左手を上へと向ける。
まさか。
上方に向かって、こちらに爆風が来るほど高出力で瓦礫を爆破した。
一瞬、お茶子ちゃんを恐怖が覆った。
けれど、すぐに強い意思の光に包まれて消えた。
秘策を突破されてなお、お茶子ちゃんはまだ――。
「あっ……」
駆け寄れるわけでもないのに、思わず立ち上がる。
地面に倒れても、まだ這って前へと進もうとして戦う意思を見せるお茶子ちゃんに、ゆっくりと席に座りなおした。
「麗日さん行動不能。二回戦進出、爆豪くん!!」
長かった。
実時間にすれば私が考えるほどでもないのかもしれないが、とてつもない心労のせいで何時間もかかったように感じてしまう。
深く息を吐き出すと、隣に座る焦凍くんが背中をさすってくれた。
大丈夫だよ、吐きそうなわけじゃないから。
セメントス先生がステージを直している間に爆豪が帰ってきた。
お茶子ちゃんはリカバリーしているのだろう。
「おかえり、爆豪。進出おめでとう」
「フンッ!!」
隣においでと空いた席を叩いたが、爆豪は無視して一つ向こうの席に座った。
最前席のみんなにも口々にいじられる爆豪だったが、キレて怒鳴るでもなくただ一つ舌打ちをして「どこがか弱ェんだよ」と、彼の言葉にすればお茶子ちゃんへの最大の賛辞とも取れる言葉を漏らした。
クラストップとも言える爆豪にそれだけ言わせるお茶子ちゃんの根性もすごい。
「コトハ、次切島だぞ」
ステージの修復も終わって、焦凍くんが登壇した切島を指した。
今回は腕相撲で勝者を決めるようだ。
これなら、否が応でも決着がつく。
個性も実力も似た二人の戦いに息を詰めた。
拮抗する力にも、やがて傾きが生じる。
鉄哲の腕が、ぴし、と音を立てた。
そして次の瞬間、切島が鉄哲の甲をアームレスリング台に叩きつけた。
切島に軍配が上がる。
「やった!」
立ち上がって勝利を喜べば、隣に座っていた焦凍くんが次の準備のために席を立った。
またエンデヴァーがいたらさっきみたいな事になりかねないと思い、私も焦凍くんの後を追う。
一声かけてくれてもいいのに。
ってか、歩くの早くない?
焦凍くんどっち入り口だっけ……。
仕方なく白を左に向かわせ、私は右を選んだ。
これなら間違っていても何とかなる。
走って控え室の方へと急いでいると、エンデヴァーの後ろ姿を見つけてやっぱりと顔をしかめた。
「エンデヴァーおじさん!いい加減に……ん!?」
「君か、焦凍の応援に行ってやれ」
「その、つもりだったんですけど、何で緑谷に絡んでるんですか?」
大事な試合前にいったい何をしているんだ。
もしかして緑谷にも何か言ったのではないだろうか。
私が緑谷に何もされていないかと口を開こうとしたとき、もう終わった、とエンデヴァーが私の腕を掴んで歩きだした。
えっ!?一般席まで連れて行く気か!?
切島の様子も見たいしクラスの席に戻りたいんだけど――。
「僕はオールマイトじゃありません」
俯いていた緑谷が、背を向けたまま呟くように、けれどはっきりと言った。
あ、この色……。
私の腕を掴んでいたエンデヴァーが訝しげに足を止め、振り返る。
「そんなものは当たりま―――」
「当たり前のことですよね」
ぞくりと鳥肌が立つ。
緑谷は強い瞳で顔だけ振り返った。
僅かな怒り、そして決意。
「轟くんも、あなたじゃない」
いつものおどおどした様子など微塵も見せず、緑谷は凛と背を伸ばしたままステージへと上がった。
緑谷ってあんな顔をするやつ、なんだ。
記憶をたどれば確かに、彼は土壇場で強さを発揮する人間だった。
私はふと、焦凍くんが負けるのではないだろうかと直感的に思った。
個性で言えば、焦凍くんのそれは他の追随を許さない強さを持つし、対する緑谷の個性はといえば、発動の度に腕や足を失う諸刃の剣だ。
けれど心は。
ゆっくりと瞬きをすることで思考を追いだし、観覧席に戻ろうとエンデヴァーの腕を叩いた。
じっと緑谷の出ていった入場ゲートを見つめるエンデヴァーに肩をすくめ、私は廊下のモニターに映る焦凍くんを見た。
「エンデヴァーおじさん、そろそろ子離れですよ」
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