Step.59



「先手必勝!一撃必殺!」

物理攻撃は蔓に防がれる。
それなら、触れればいい。
白い獅子に飛び乗った私は勢いを殺さぬまま茨ちゃんの頭上へと飛びあがり、右手を伸ばした。
黒い狼たちが即座に伸びた蔓に食らいついて抑え込む。
それでも蔓につかまった白い獅子を乗り捨て、単身茨ちゃんの懐に入り、ジャージの袖から伸びた色素の薄いしなやかな腕に触れた。
心を、奪う。
どの感情を奪うとかは特に考えず、手当たり次第を奪った。
一時的に感情を失った茨ちゃんはその場に崩れ落ちた。
地面に倒れこみそうになったところを抱きかかえ、ゆっくりと目を閉じさせた。

「塩崎さん戦闘不能!久地楽さん三回戦進出!!」
「ごめんね、茨ちゃん。ゆっくり休んで」

心を返して念のため呼ばれた担架に茨ちゃんを乗せた。
よかった。
蔓の速度があと少しでも早ければ、捕えられていたかもしれない。
相変わらずの実況を背で聞きながら控室に戻ると、ちょうど切島が出てきたところだった。

「頑張って」
「おう!」

短い言葉だけで十分だった。
バトンタッチするように手の平を一瞬だけ合わせ、視線を交わす。
爆豪戦はきっと、簡単にはいかない。
観覧席に戻ってもどうせすぐに戻ってくることになるだろうし、次ここに来るのは焦凍くんだから気兼ねしなくていいだろうとそのまま控室に留まってモニターを見つめた。
案の定やってきた焦凍くんにここにいてもいいか聞けば、いつもの読み取りづらい無表情で頷いてくれる。
切島は全身を硬化させ、爆豪に攻勢をかけるが、爆豪の爆破ラッシュに為すすべなく硬化を割られて倒れた。
ぐっと目を閉じて、息を吐きだした。
準決勝、爆豪と、か。
焦凍くんは、飯田と。
焦凍くんはもう何も言わず、立ち上がってステージへと向かう。
警戒すべきはあのレシプロだろうか。
あの速さは、さすがの焦凍くんでも追いきれないのではないだろうか。
しかし同じ騎馬にいたのだ、きっと何か策が有る。
奇しくも、残った四人は互いに騎手と騎馬の戦いだった。
全てを知っているわけでは無いが、他の組よりかは自らの手のうちを明かしている。
どうやって、戦えばいいのか、何を仕掛けてくるのか、今までよりずっと見えてきた気がした。
モニターの中で、焦凍くんが飯田を足元から氷漬けにした。
そして、炎を使わず、決勝に進出した。
次は、私。
控室を出た。

「久地楽コトハさん」

フルネームで呼ばれ、ふとステージに向かっていた足を止めた。
視線の先にはいつもの営業スマイルを貼り付けた長身の男がいた。

「あ、国本さん!お久しぶりです」
「お久しぶりです。準決勝、進出おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「大切な試合直前に、すみません。どうしてもお伝えすることがあって」

国本さんは真面目な顔で言った。
営業スマイルはどこかに隠れ、心配そうな、申し訳なさそうな顔が私を伺う。
この人がこんな顔をして出てくるってことは、だいたい想像がつく。
また上の命令かなんかだろう。
社畜って大変だなぁ……。

「個性管理課は、まだ貴方の暴走を警戒しています。特にこの体育祭は国民の誰もが見る一大行事ですから」

国本は腰の後ろへと手を伸ばし、硬質な黒いそれを取り出した。
拳銃……?
国本は弾倉を抜き、青いラインの入った銃弾をチラリと見せた。

「これには暴徒鎮圧用の麻酔弾が装填されています。君が今回暴走すれば、私たち個性管理課にはそれを秘匿し、国民を未知の脅威から守る義務が生じます。どうか、暴走だけはしないように、お願いします」

マガジンを戻し、国本はひどく辛そうに告げる。
私の担当というだけで胃が荒れそうだ。
私は国本に笑顔を見せて首を振った。

「もう暴走なんてしないって、決めたんです」

私と黒と白がいれば、もうきっと大丈夫。
だから、成長した私を、しっかり見ていてくださいね。
拳銃を握る手に触れて少しだけ心を流した。
もう行かなくては。

「じゃあ、行ってきます!」

ステージへと向かった。



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