Step.60



爆豪は、キレやすいだけの馬鹿じゃない。
とっさの判断力、反射神経、個性、どれをとっても難敵だ。

「久地楽、全力でこいや!」
「そのつもり」
『久地楽コトハ 対 爆豪勝己!!』

足元に黒い水たまりを生み出した。
USJで無意識に使ったトラップ。
あれは瞬間移動しているわけでは無くて、単純に水たまりから新しく生成しているだけだ。
だから、これを至る所に置いて、私の盾と、矛にする。

『START!!』

開始の合図と共に爆豪が走りだした。
距離を詰められるのはよくない。
私の手の届く範囲なら逆に好都合だが、私の個性を知っている爆豪は確実にそこまで近づかないだろう。
かといって上空に逃げても爆豪の個性なら上がってくる。
じゃあやはり、策を弄するしかない。

「って考えるよなァ!てめぇならよォ!!んなことさせねーわ!死ねカス!」
「口悪すぎ」

黒い水たまりを警戒してか、速攻で決着をつけようと至近距離まで踏み込んできた。
この距離なら!触れられる!!
右手を伸ばせば、その手が触れる前に爆破された。
とっさに白が覆ってくれたから無傷だけど、危うく腕が使えなくなるところだった。
白、ナイスカバー。
爆豪の戦闘スタイルはとにかくシンプルだ。
中距離なら爆破を、近距離ならその身体能力も合わせての爆破、さほど策を仕掛けてくるタイプでは無い。
黒、蛇を。
煙幕の中、地面に蛇を這わせた。
なるべく中距離で戦いたい。
獅子を出して跳びかかってくる爆豪にぶつけた。
獅子よりもずっと速い爆豪は、鋭い牙にかからなかった。

「黒!!」

煙幕の中から蛇が姿を現し、爆豪の足を絡めとった。
爆豪は勢いの中唐突に絡めとられたからか、つんのめって地面に倒れた。
いましかない!
獅子で爆豪を押さえつけ、触れるために走った。
もがくが蛇の締め付けと獅子によるのしかかりによって爆豪は動けずにいる。

「ごめんね、爆豪」
「くっそがああああ!!」

静電気が爆ぜるような小さいバチッ、という音が聞こえた。
私の手が、爆豪に触れる。
その瞬間、爆豪の手の平が光り、私の全身をすさまじい爆発が襲った。

「んっ!!?」

ぱっと意識が戻る。
な、に今の。
私はまだ爆豪に触れていない。
爆豪の手の平は上を向いているが、爆発を起こしたりはしていない。
幻覚?
いや、まさか。
私が爆豪から距離をとった瞬間、先ほど見たばかりのすさまじい爆発が目の前で起きた。
距離をとったために熱風が鼻先をかすめただけで私自身には何の被害もないが、蛇と獅子は吹き飛んでしまった。
やはりあの強度じゃ、っていうかさっきのは……。

「死んだふりとかずるい」
「死んだふりじゃねぇわクソが!」

腕が痛むのか、爆豪は右腕を抑えながら吼えた。
足元に黒い水たまりを増やし、再び自由になった爆豪を警戒する。
こちらにまでも聞こえるような、大きな舌打ちをした爆豪は手の平を床につけると小さな爆発をいくつも起こした。
煙幕……?
何が目的か知らないけど、君が姿を隠すことを望むなら、そうはさせない。

「白!」

白く大きい鳥を出して私のすぐ傍で羽ばたかせた。
緑谷みたいな個性なら爆風ですべて吹き飛ばせるんだけど。
まだ爆発の光が煙幕越しに薄ぼんやりとだが見えており、細かな爆発の音も聞こえている。
爆豪が爆破をやめない限り、いくら煙幕を張っても、その個性ゆえに居場所がバレバレだ。
しかし爆豪だってバカではない。
それぐらい想定しているはずだ。
ではこの煙幕の意味は何だ?

「バァアアアカ!!!」

光を見つめていたはずの私の間後ろに、突如として爆豪が現れ、右手を大きく振りかぶっていた。
そんな。
またバチ、という音がして、爆豪の振るう右手と別に左手が動いて光った。
見えた、のに、躱せない……!
意識が現実に戻り、爆豪の左手がスローモーションで振るわれているような感覚に陥る。
防御も、回避も間に合わない。
ならいっそ、刺し違えてでも!
爆豪に触れようと右手を伸ばすが、一瞬の痛みの後私の体は吹き飛んでいた。
とっさに黒が獅子を出して場外は何とか避けたが、左の上腕から肩甲骨にかけての背中が爆破でやられた。

『コトハ!』
「大丈夫。カバーありがとう」

さっきの爆発で分かった。
フラッシュバックのように時折見える短い予知のようなものは、本当に短くて頼ることはできない。

「殺す気でかかって来いや!舐めてんじゃねぇぞビビり!!!」

爆豪に苦笑する。
舐めてるわけないじゃんね。
さっきの光はただ地面が高温で熱されて赤くなっていただけらしい。
あんな子供だましに引っかかるなんて。
しかしこのままでは防戦一方だ。

「行くよ」

先ほど出した黒い獅子にまたがって無数の白い蝶を生み出した。
感知は白に、攻撃は黒に任せよう。
ステージ全域に広がる蝶の感覚を共有しているわけでは無くて、爆豪が触れたらその蝶を消すことで感覚を得ている。
もう触れるのはきっと無理だ。
かといって、デカいものを作るほど心に余裕がない。
ステージにまばらにある黒い水たまりもおおよそ獅子を作れるだけの量しか置いておらず、時が経てば経つほど私はジリ貧になるだろう。
対して爆豪はスロースターターだ。
先程からどんどん調子を上げて来ている。
肩から来る痛みの波に歯を食いしばって爆豪を見つめた。
心が足りない。
どうすれば勝てる?
滴り落ちる血を止めようと肩を手で押さえて、ふと思い出す。
爆豪の突撃を獅子が危なげなく躱した。
USJでのあの時、痛みの感情を力に変えて戦っていた。
それなら、この痛みもきっと力に変えられるはず。
ぐっと肩を握る。
リスクのほうが高いけれど、現状を打開するためには、これしかない。
黒い靄が私を包み込むように立ち込めた。
あの時の消太くんが一瞬だけフラッシュバックする。
血まみれの―――。
首を振って、嫌な妄想を振り払った。

「暴走なんか、しない」

だからお願い力を貸して。
私の中で二人が頷く気配がして、白は私に優しい心を渡し、黒は私の心を抑え込んだ。
左半身が黒くまだらに染まり、傷口を覆った。
痛みを、力に……!
強く握り込んだ左腕の中にゴーグルの欠片を感じる。
期待してくれている、消太くんやひざしくんの前で、私をヒーローだといってくれた切島や焦凍くんの前で――私の憧れたヒーローたちの前で、負けたくない。
見据えた爆豪は相変わらずの悪人面で至極楽しそうに笑っている。

「そうだ……全部使って来い!!」

爆豪が振った腕が白い蝶に触れる。
煙幕の中で今度こそ爆豪の居場所を正確にとらえた私は、黒を纏ったまま、獅子を走らせた。



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