Step.61
後半になるにつれて調子の上がる爆豪とは言え、獅子に乗っている私とは違い、自ら激しく動いては爆発を繰り返しているせいか次第に息が上がり始めてきた。
もちろん私もよけきれずにいくつか傷を負ってしまったが、そこから痛みの感情を補充し、傷口を黒で覆ってしまえばほぼ問題なく動ける。
爆豪に対して持久戦を仕掛けるのは不安だったが、行けるかもしれない。
ステージ上に広がる黒い水たまりの数も優に10を超え、いま18へと増えた。
いくつかの黒い水たまりの隙間を縫って走っていた爆豪が、私に近づくために一歩踏み込んで黒の端を踏んだ。
いま!
黒い水たまりは踏まれた瞬間に黒い獰猛な獣を生み出して爆豪に食らいついた。
「捕えた!!」
今まで決定的な攻撃を加えられなかったが、ようやく機動の早い爆豪を捕えた。
どうせ後でリカバリーされる。
今はとにかく、掴んで放すな。
獣を爆破にも耐えられるように強く強化して警戒しつつ距離を詰めた。
また爆破されてはかなわないから、触れるのは止めてこのまま外に引きずり出そうか。
私が獣に頷けば、それを察したそいつはもがく爆豪を引きずっていく。
爆豪は獣の顔を掴んで何度も爆破するが、痛みを感じないそれには大した意味をなさない。
「なァんてな!罠仕掛けてんのがてめぇだけだと思ってんのかバァアアカ!!」
「罠……?」
咄嗟に爆豪から目を離さないまま気配を探るが、特になんの変哲も無い。
白が操る蝶がいる以上は下手な動きをすればすぐにわかる。
なんだ?ハッタリ?
いや、爆豪に限ってそんな無意味なことはしないはず。
こちらに手のひらを向けた爆豪に、今更あの特大爆破かと正面に黒い障壁を張る。
念のため最大限強いものを張っておくか。
私の黒はどんな出力の攻撃も防ぐということを、爆豪は知っている。
あの脳無ですら破れなかった障壁を、爆豪が自身の爆破で破れると考えるだろうか。
無いとは言い切れないが、爆豪は案外頭脳派であるし、今現在獣の拘束から逃れられないのを見ても分かるはずだ。
ではなぜ。
直後、爆豪の手から中規模の爆破が発された。
麗日戦で見せた大爆発じゃない。
思った瞬間、私の真横や足元で誘爆が起きる。
至近距離での大きな爆発に白のカバーが間に合わず、場外に吹き飛ばされかけたのを何とか踏みとどまるくらいしか出来ずにステージ端に倒れ込む。
私が跨っていた、さほどの強度を持たない獅子は弾けて黒い水たまりに形を崩したようだった。
誘爆?
一体なにが爆発したっていうんだ。
痛みのせいで思考はままならないが、目を動かすことはできて私はやっとその答えを得た。
誘爆しなかった数滴の汗がそこらじゅうの瓦礫にマーキングされており、おそらくそれが導火線及び起爆剤になったのだろう。
爆豪は闇雲に走り回っていたわけでは無い。
どこまで計算してあそこに追い込んだのか。
ふと、煙幕の中で爆豪が動いた。
黒の獣が抑え込んでいたはずなのに。
しかし蝶が感知しているのだから間違いない。
立たなきゃ。
痛みを一時的に遮断して、それを黒のサポートのもと徐々に力へと変える。
蝶をまんべんなく舞わせている時点で、正直白は限界だ。
黒も一応痛みという源流はあるものの取り扱いが危険な感情なせいで、すべてを受け取り切れているわけでもない。
要するに、そろそろガス欠で、本体の私はといえば痛みのせいで立ちあがるのが精いっぱいだということだ。
黒に支えられながら、ゆっくりと立ちあがる。
爆豪がまっすぐこちらに向かってくる。
こんな満身創痍なら、もう正面突破で行けると思ったのか。
「嫌だ……負けたくない……!」
もっと力が、心が欲しい
落ち着いて。
分かってる。
でも、どうしても、勝ちたい……!
よくない黒が私の左半身から首、顔へと侵蝕が広がる。
鋭利に尖り、傷口へと入り込もうとした黒い針を、白が手を伸ばして割砕いた。
落ち着いて。
分かってる!!
爆豪を見据えた先、選手入場のゲートに拳銃を携えた国本が見えた。
暴走すれば、すべてが台無しになる。
もう、ここで決着をつけなきゃ、後はない。
バチ、バチ、と何度か音がして、走り迫る爆豪の位置が私の視界の中で前後する。
左腕を握り締め、ありったけの黒を練り込んだ。
それは一瞬だったかもしれないし、数秒だったかもしれない。
爆豪がラインをなぞるように私の“見た”動きを取る。
爆豪もきっともう限界だろう。
ならこのまま私に直接攻撃に来る。
私は幻影の爆豪が右手を囮に左手で大爆発を起こすのを見て、右半身に白の防御を集中させて左からは強度はともかく素早くて力のある獅子を生み出した。
爆豪の左手が光った瞬間、幻影の爆豪が先ほどとは全く違う動きをした。
右手からの、爆破!!?
どうして、さっきまでは……!
爆豪の右手に獅子が噛みつき、しかしそれも大したブレーキにはなり得ず、爆豪はその勢いのまま獅子ごと私の左脇腹を爆破した。
- 62 -
*前 | 次#
戻る