Step.63
「あっ……久地楽さん場外!!爆豪くん決勝進出!!」
久地楽はふらつきながらも、自身の足でステージを後にした。
通路に入った瞬間に倒れたのを見たのは、きっと俺だけだろう。
『勇敢!あの爆破喰らって最後まで立ってるなんて並みの胆力じゃねぇ!!もう結果動向はどうだっていいや!さあ、オーディエンスども!ここはひとまず久地楽コトハにクラップュアハンズ!!』
『お前な……』
プレゼントマイクがスタジアムに声を響かせたおかげで、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
相澤先生がため息交じりに言葉を発して、席を立つ音が聞こえる。
やはり担任として傷の具合を見る必要があるのだろう。
向こうの通路では、リカバリーガールがその場で治癒をして、すぐにロボが保健室へと運んでいく。
俺もあいつも体力はつきかけていた。
一体どれほどリカバリーできるのだろうか。
ずきずきと痛む、獅子にかまれた右手を押さえ、俺も踵を返してゲートに向かった。
試合前に入場したゲートは久地楽が搬送された方だったが、今はまだ久地楽と会合したくなくて近いほうを使う。
「あ?」
驚いたような顔で固まる長身の男が俺の声に反応してさっと後ろ手に何かを隠した。
そしてすぐに営業スマイルを顔に張りつける。
「こんにちは、決勝進出おめでとうございます。爆豪勝己くん」
「……久地楽になんかしようとしてただろ、てめぇ」
「気づいていたんですか?」
「選手用通路にいる奴なんてそういねぇだろうが。試合中にちらちら見えたわ」
「そうですか。気を散らせてしまったようで、すみません。君も怪我があるようですしリカバリーガールのところへ――」
「何しようとしてたんだよ」
「私の口から告げていいことではありませんので、申し訳ありませんが答えを控えさせていただきます」
俺は舌打ちをして男の横を通りすぎた。
思い返せばUSJ襲撃の際にもこいつに取り調べを受けた記憶がある。
その時も久地楽のことに関して聞かれ、そして箝口令が敷かれた。
あいつにどんな事情があろうが、別にかまいやしねぇけど。
何となく大人のきたねぇ世界を垣間見ちまったような気がして、もやもやとした嫌な感覚を振り払うように足を進めた。
休憩とぼろぼろになったステージの修復が終われば、すぐにあの半分野郎との決勝だ。
今はそんな下らねぇことに気をやる必要はない。
出張保健所の前で立ち止まり、心なしか重く感じる扉を左手で押し開けた。
「やっと来たね!ほらほら、早く右腕を見せなさいな!取り返しつかなくなるよ!」
リカバリーガールは有無を言わさぬ速さで俺を椅子に座らせるとすぐに治癒を行った。
久地楽との戦いでの負傷は跡形もなく消された。
決して浅かったわけでは無いが、傷も残らぬ程度であったということだ。
ふと、カーテンの閉じられた奥のベッドを見た。
「心配ないよ。あの子は自分で止血していたからね。今はちょっと血が足りなくて寝ているだけさ」
その言葉に、一体誰がそこにいるのか分かってしまって、俺は一瞬自分の右手を見た。
短く息を吐きだし、俺はカーテンを開けた。
リカバリーガールが止めるのも無視して、久地楽の傍へと近づいた。
血液パックに、呼吸補助器、リカバリーされた後だろうに、未だ脇腹に残る傷口。
これが果たして心配ないといえるのだろうか。
「ばくごう……」
うっすらと目を開いた久地楽は呼吸補助器の中でくぐもった声を出した。
覚醒しきっているわけでは無いのか、視線をゆっくりとさまよわせ、ようやく俺を見つける。
「こんどは、まけないからね」
「負けず嫌いかてめぇ……黙って寝てろや」
「みにいけたら、いくから」
「うぜぇ来んな。寝ろっつってんだろブス」
久地楽がおかしそうにうっすらと笑い顔を浮かべながら目を閉じたのを見て乱暴にカーテンを閉じ、保健室を出た。
控室へ向かう途中、半分野郎が正面から歩いてきた。
大きく舌打ちをして、目つきの悪いそいつを睨み返す。
「爆豪、俺はお前を殺す気でいく」
ぞくりと、その目に俺の闘志が騒めいた。
明確な敵意だ。
「緑谷との戦いの後、色々考えた。でも俺は結局、コトハが傷つくたびに何もできない自分に絶望してしまう。だから、少なくともお前は、俺が――」
「うぜえ、んなモンどうだっていい。てめぇの気持ちなんか知らねぇ。俺がてめぇの全力を上からねじ伏せてやる。それだけだ」
このポンコツ野郎、また逆戻りしてんじゃねぇか。
イライラとした心をそのままに、半分野郎の隣を過ぎて歩いていく。
まあ、左を使うってんならどうだっていい。
俺があいつの全力を潰して、そんで―――俺がトップだ。
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