Step.64



「久地楽!?だ、大丈夫かよおめぇ……!!」
「うん、本当はまだ安静にしとけって言われたんだけど、決勝気になっちゃって」

切島がいそいそと席を開けてくれた。
もう始まっているが、終わる前に来れてよかった。
決勝前には爆豪の体力回復もかねて小休憩が挟まれたからぎりぎり間にあった。
傷自体は大分リカバリーされたし、足りない部分は白でカバーしてその上から包帯を巻いているから、あと数時間ぐらいなら平気だろう。
それよりも心配なのは……。

「爆豪もそうだけどよ、轟のやつもなんかこえぇよな」
「うん。よくない心で満ちてる」

そんな心に踊らされて……さっきの緑谷戦は一体何だったというのか。
炎を纏った左ばかりを使い、稚拙な技を繰り返している。
空中耐性のある私には使ってこなかった技を、爆豪が飛びあがって構えた。

「負けるな頑張れ!!」

緑谷の声に、焦凍くんがこちらを向く。
緑谷から、私に移るその視線を、しっかりと見返す。
時間をかけて考えろって言ったのに、それで、本当にいいの?
本当に考えたの?
また迷子のような顔をして私を見た焦凍くんに、何も言わなかった。
怪我のせいで大声を張れないというのもあったけれど、あんな目をした焦凍くんにいう言葉は、何もなかった。
おおよそ最大火力を向けた爆豪だったが、対する焦凍くんは、炎を消して、力なく目を伏せた。
申し訳程度に現れた氷壁が、爆豪の前になすすべなく飛び散る。
私がこんな大怪我さえしなければ、焦凍くんは冷静に戦えていたのだろうか。
いや、きっと焦凍くんは炎を使わなかっただろう。
その状態で、爆豪に勝つのはほぼ不可能に近い。
まだ踏ん切りがついていない今では、どう転んでも2位に甘んじるのだろう。

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが、果たして……?』

煙幕が晴れ、私が予想した通りの結果に落ち着く。
焦凍くんは場外の氷の上で、意識を失っていた。

「オイっ……ふっ――ふざけんなよ!!」

爆豪は場外アウトになった焦凍くんの胸ぐらをつかみ、乱暴に叫んだ。
私は、ゆっくりと目を閉じる。
爆豪には、私との戦いも焦凍くんとの戦いもきっと不完全燃焼だろう。

「こんなの……こんっ……」

ステージに広がった眠り香が爆豪の意識を奪った。
ミッドナイト先生だ。
爆豪には、辛い結果だろう。

「轟くん場外!よって……爆豪くんの勝ち!!」
『以上ですべての競技が終了!!今年度、雄英体育祭1年優勝は!!A組爆豪勝己!!』

はあ、と深く息を吐きだした。
長かった雄英体育祭トーナメントが今、あっけなく終わった。
気遣ってくれる切島に肩を借りて、ゆっくりと皆にまじり選手控室へ向かう。
何度も心をもらっているせいか、切島から渡される白い心は他の人よりも取り込みやすく、空っぽだった貯蓄が少しずつ溜まっていく。
控室につくと、まるで要介護とでも言うかのようにすぐに椅子に座らされた。
あ、ありがとう……。

「あれ?飯田は?」
「あ、うん、お家の用事で早退したんだ」

いつも飯田とつるんでいる緑谷に聞けば、少し心配そうに答えてくれた。
ふーん……こういうとき張り切るのは飯田だと思っていたけど。
まあ、家の用事じゃ仕方ないね。

「っていうか、久地楽さん大丈夫なの!?まだ保健室にいた方がいいんじゃ……」
「動けるくらいには回復してもらったから大丈夫だよ」

ジャージの前を閉めてしまえば見えないしね。
新しく支給されたジャージは真新しい堅さがあってあまり好きではないけど、皆に心配をかけるわけにもいかず、前をしっかりと閉めている。
ざわざわとした心地よい喧騒の中、少し落ち着くとどっと疲れが襲ってきた。
明日は筋肉痛かなぁ。
机に突っ伏して目を閉じていると、切島がジャージの上着を私の頭の下に差し入れてくれた。
イケメンかよ。
お茶子ちゃんも上着を脱いで私の肩にかけてくれる。
はーっ、イケメンかよ。
しばらくして、焦凍くんが控室に入ってきた。
あれ、爆豪のほうが早いと思ったけど。

「コトハ、大丈夫か」
「大丈夫だよ。焦凍くんも大丈夫そうでよかった」

今はもうすっかり毒気が抜けて、いつもの読み取りづらい無表情だ。
心も目に見えて嫌なものは抜けきったようだった。
本当によかった。

「緑谷、お前が呼んでくれなかったら、俺はまた逆戻りするところだった。ありがとな」
「えっ!?い、いや、僕なんかそんな!」

緑谷は自己評価低いなぁ。
苦笑して、隣に座った焦凍くんに突っ伏したまま問いかけた。

「爆豪は?一緒じゃなかったの?」
「ああ、それが……」



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