Step.65




「マジか……ぶふっ……!」
「コトハ、笑うと傷にさわる」
「傷痛い……でも、こんなん笑うわ……!」

表彰台に登らなくちゃいけないんだけど、1位の爆豪が謎のコンクリに拘束具を打ち付けられた状態で先生たちに運ばれてくるものだから、笑いが止まらない。
面白すぎだろ。

「はい、じゃあ3位の久地楽さんはここね」

表彰台に上る3人は別入場らしく、途中でステージ下に用意された台に案内された。
それにしても、これは笑いを堪えられる気がしない。

「コトハ、肩貸す」
「ありがとっ、ふっふふっ……!」

台の前には階段が用意されていたが、心配性な焦凍くんはうえに行くまでも介助してくれた。
口間でふさがれた爆豪はまるで『笑ってんじゃねぇぞカス!』とでも言いたげにもがいている。
それすらも面白い。
爆豪って私のツボなのかもしれない。
傷口がこれ以上笑うなと悲鳴を上げているが、傷が痛むようにこっちだって生理現象のようなものなのだから止めようがない。
本来は私と飯田の2人が立っていた3位に立ち、爆豪の足首に触れて気休め程度に心を奪う。
爆豪の怒りの感情が底なしだというのは騎馬戦の時に知っているから、無理に回収しきるつもりはない。
しかし爆豪は私よりも焦凍くんが気に入らないらしく、そちらを向いてはしきりに何かを叫んでいた。
大体わかるけど。
セメントス先生が「もう入場するから前を向きなさい」と私たちに声をかけて昇降ボタンを押した。
派手なスモークの中から、台が上昇してステージに出現する。
みんなの反応は一様で、大体が爆豪を見て驚いている。

「ぶふっ、そうなるよね!」
「んん゛ー!!」

いまだに爆豪は焦凍くんを睨んで叫んでいる。
そろそろやめてくれないと私の腹筋がもたない。

「さあ!メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

ミッドナイト先生がスタジアムの上部を指した。
つられるようにそちらを見ると、太陽を背に大きな黒い影がそこに立っていた。
あ、オールマイトだ。

「私がメダルを持って来――」
「我らがヒーロー!オールマイト!!」

……かぶった!?
スタジアムが一瞬の静寂に包まれて「打ち合わせしとけよ!」とおそらく全員が心の中で突っ込んだ。
爆豪のせいで沸点がだいぶ下げられていた私はたまらず吹き出す。

「コトハ、傷が開く」

爆豪越しにこちらを心配そうにン窺い見る焦凍くんすら面白くて、必死に口を押さえて視線を逸らした。
「肩震えてんぞ、寒いか?」とか言わないで、笑うから。
そして脱ごうとしないで!!
必死にいらないと伝えて焦凍くんのジャージを断った。
ミッドナイト先生からメダルを受け取ったオールマイトは階段を上って私に3位の銅メダルをかけた。
近くで見れば見るほど画風違う……。

「久地楽少女、おめでとう!君の個性のこと、国本くんやお兄さんたちから少し聞いたよ。準決勝は暴走を抑えてよく頑張ったね」
「ありがとうございます。まあ、勝てませんでしたけどね」

笑顔のまま黙ったオールマイトは私を抱きしめると優しく背を叩いた。
そして、声を潜めて聞く。

「ここだけの話、君は爆豪少年を気遣ってリタイアしたんじゃないかな」

囁かれた言葉に、私ははっきりと違いますと言った。
確かにあの瞬間の爆豪は無防備で、もし叩いた手から感情を根こそぎ奪っていたら勝っていたかもしれない。
それに、あの時の爆豪は罪悪感や困惑でらしくなく酷い顔をしていて、助けてあげたくなったのも事実だ。
けれど、私が自ら場外へ出たのは決して爆豪を憐れんでなどではなく、単純に体力が限界だったのと、あれ以上やっていれば暴走していたからだ。
そこに爆豪を気遣う余裕なんて、介在していない。

「それでも、最後に笑顔で終わったのは、きっと爆豪少年にとって救いとなっただろう」
「そう、ですかね」
「そうとも。君の笑顔はきっと多くの人を救う、笑いなさい!」

大きな人差し指でくっと口角を上げて見せるオールマイトに、にっこりと笑った。
そうだ。
私の大好きなヒーローたちは、いつも笑う。
消太くんはちょっと違うけど、ひざしくんも、オールマイトも、ギャングオルカも、Ms.ジョークも、私の憧れた人たち。
いい顔だ、といってくれたオールマイトは次に焦凍くんの銀メダルを以て2位に近づいた。

「轟少年、おめでとう。決勝で左側を暴走させてしまったのは、ワケがあるのかな」
「緑谷戦でキッカケを貰って……でも、次の爆豪とコトハの試合を見てたら、頭ん中がぐちゃぐちゃになって、結局大切な人を守れねぇんだって思って……」

伏し目がちに淡々と言葉を並べる焦凍くんは、話すことで心の整理をつけようとしているようにも見えて、少しだけ心配になった。
けれど、焦凍くんはこちらをちらりと見ると、柔らかく微笑んで見せた。
大丈夫、なんだね。

「ただ、俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ、駄目だと思った。清算しなきゃならないものが、まだある」
「顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ、今の君ならきっと清算できる」

焦凍くんを抱きしめて、背をあやすようにやさしく叩いたオールマイトは、最後に1位の爆豪の前に立った。
ヤバい面白い。
オールマイトが口の拘束具を取ってやると、爆豪はすさまじい顔で怒りを垂れ流した。
顔凄い……。
私は手で口を抑えて笑いを堪えながら爆豪を眺めた。

「伏線回収見事だったな」

爆豪はメダルを拒否するがオールマイトは傷として受け取っておけ、と勢いに乗せて口に咥えさせた。
やめて笑う。

「ぶふっ」
「コトハ、傷が……」
「大丈夫だから!」

まるで犬のようにメダルを咥えたままの爆豪を視界に入れないように、ついでに心配そうにこちらを見てくる焦凍くんも視界から追い出してオールマイトを見る。
彼は他の選手たちや観客を見やって、すっと空を指した。

「てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーの!」

脇腹に響かない程度に、私も手を上に掲げた。
焦凍くんも控えめに私の真似をする。
視界に入ってしまった相変わらずの爆豪から視線を逸らし、笑顔で声を張る。
この雄英の、校訓を。
さらに向こうへ!

「プルス――」
「おつかれさまでした!!」
「……は?」



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