Step.70
クラスのみんなは来る途中で声をかけられたらしくざわざわしていたが、私は朝早くから登校していたおかげで一人にも声をかけられていない。
というか、それより。
「大丈夫か、コトハ」
「き、筋肉痛が……」
斜め前の焦凍くんが振り返って心配してくれる。
いや、昨日お兄ちゃんたちがトレーニングに付き合ってくれたおかげで全身バッキバキなだけだから大丈夫だよ心配しないで。
「それより、どうだった?」
焦凍くんは一体何のことだと一瞬分からない顔をしたけれどすぐに思い当たったのか、顔を緩めて「もう大丈夫だ」と応えてくれた。
よかった。
どことなくほくほくしてる焦凍くんを眺めて居れば、すぐに予鈴と共に消太くんが入ってきた。
「相澤先生包帯取れたのね、よかったわ」
梅雨ちゃんが思わずといった様子で漏らした呟きに、リカバリーガールの処置が大げさだったのだと事実半々な言葉を返す。
まあ、確かに。
あのぐるぐる巻きはちょっと面倒くさい。
そのせいで消太くんがお風呂入らないとか言い始めるから軽く戦争が起きかけた。
私の目が黒いうちはお風呂入らないなんて許しません。
せっかく包帯巻き次いでに荒れたお肌にボディクリーム塗りたくってつやつやにしたんだから。
「んなもんより今日の“ヒーロー情報学”ちょっと特別だぞ」
なんだろ。
皆がごくりと生唾を飲み込む。
特別ってことは座学じゃないのかなぁ。
基本的に勉学で苦労したことがないのでテストでも座学でも別にいいんだけど。
上鳴、切島あたりがびくびくしているのが後ろから見ていても分かる。
二人とも特別頭が悪いわけじゃないんだけど、雄英は結構テストが難しいから点数が取りづらいのだ。
「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」
「マジか……!!」
胸膨らむヤツきたああああ!!と喜び弾けるみんなとは対照的に、何も考えていなかった私は机に突っ伏した。
消太くんはみんなを睨みつけて黙らせる。
こっわ。
そんなぽんぽん個性使っていいのか……?
「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」
ドラフト指名、そんなこと話てたっけ。
あー、スカウト目的で来る事務所持ちのプロヒーローのことか。
そっか、じゃあ、エンデヴァーおじさんは焦凍くんにドラフト指名を出したのだろう。
ってか他の生徒見えてなさそう。
斜め前のおめでたいカラーに苦笑する。
絶対行かないとか言いそう。
「で、その指名の集計結果がこうだ」
消太くんがリモコンを操作すると、黒板に集計結果が投影された。
上から轟、久地楽、爆豪と名前が続く。
焦凍くん4000台とかすごいな。
私と爆豪は3000代後半と中だ。
「例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った」
うーん、そっか、一票も入らなかった人もいるわけだ。
集計に名前がない人達は当然指名がないということになる。
上鳴が白黒ついた!とうなだれるが、正にその通りだ。
ベストエイトに残った面々が残っているのはもちろんわかるのだが、その中に緑谷の名前がないことに気づいてあれ、と首を傾げた。
大活躍だったと思うんだけど。
「体育祭と順位滅茶苦茶だな」
「表彰台で拘束された奴とかビビって呼べねぇって」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」
「さすがですわ、轟さん」
「ほとんど親の話題ありきだろ」
「コトハさんも……」
「ほぼ爆豪のおかげって感じだけどね」
百ちゃんに苦笑して返せば、彼女は珍しく眉尻を下げて自信なさげにそんなことないですわ、と首を振った。
ん、なんか、元気ないな。
私の心を渡してあげてもいいんだけれど、私の個性は心をあげてもそれは一時的なドーピングで、持続するものでは無いため躊躇われた。
「これを踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
あぁ、なるほど!
じゃあその職場体験はコスチュームを着て、プロからは自分の考えたヒーロー名で呼ばれるのか。
本当にプロヒーローの疑似体験という感じだ。
コスチュームかっこいいから、あれを着て動けるのは楽しみだなぁ。
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきたァ!」
「まあ、そのヒーロー名は仮ではあるが、適当なもんは―――」
「つけたら地獄を見ちゃうよ!!」
ミッドナイト先生がセクシーすぎる格好で入ってきた。
お、おっぱい。
クラス連中が色めきだつ中で焦凍くんは特に反応もしない。
私ですら反応してるのに!?
この子大丈夫かな!いろいろ!
そりゃエンデヴァーおじさんも色々気になるよね……。
理由は違うと思うけど。
「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」
うん、できなさそう。
反射的に頷いたのを焦凍くんに見られた。
「将来自分がどうなるのか、名をつけることでイメージが固まり、そこに近づいていく」
ぶふっ、と私は思わず噴き出した。
消太くん、私知ってるよ!
前にひざしくんが「俺がその場で適当につけたのをじゃあそれでって登録した」って言ってたもん!
笑いを堪えているのがばれたのか物凄い睨まれた。
めっちゃ怖い。
「それが『名は体を表す』ってことだ。――“オールマイト”とかな」
消太くんから目を反らして、配られたフリップに向き合う。
以外と皆すぐ書き始めてるなぁ。
考えてあったのかな。
うーん、と頭を悩ませ、無い知恵を絞りだす。
勉強はそこそこできるんだけど、こういうのはちょっと苦手だ。
「あああ……どうしよ」
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