Step.72



「久地楽コトハです。よろしくお願いします」
「声が小さい!もう一度!!」
「久地楽コトハです!よろしくお願いします!!」
「よし!じゃあシャチョーのとこ行くぞ!」
「はい!」

ヤバい、めっちゃ熱血だ。
心身もつかな、と少し不安に思いつつも社員さんに案内されたドアをくぐる。
うはぁ、ギャングオルカかっこいい……!!
一週間頑張ろう!

「シャチョー!雄英から職場体験の生徒が来ました!」
「久地楽コトハです!よろしくお願いします!!」
「元気があって結構。今日から一週間、みっちり扱くから覚悟しろ」
「はい!」


******


一日の午前は体力向上と戦闘訓練を兼ねた徒手格闘、午後からは個性の引き延ばしと二日に一回社員さんたちとパトロールだ。
体育祭を見ていたせいか、体力がまるでないと思われていたようだけど、個性さえ使わなければ普段の雄英の授業のおかげでそれなりに付いて行けている。

「もう一本お願いします!!」
「おっしゃあ行くぜハーティ!!」
「はい!」
「待て、フカ。ハーティ、これから見回りに出るぞ、着替えろ」
「はい!」
「おい待てや、サカマタァ!今ノってきたとこなんだよ!つうか俺に命令すんな!俺より偉いんかてめぇ!」
「フカさん、多分シャチョーは一番偉いと思いますよ」
「ハッ!?」

半分、っていうか、90%くらいサメなフカさんに深く頭を下げて、他の社員さんが渡してくれたタオルで汗を拭いた。
フカさんは何かとギャングオルカ……シャチョーに噛みつくのだけれど、ポロリと本人が漏らした言葉によれば同郷なのだそうな。
仲良いんだ。
格闘訓練の時は滅茶苦茶汗をかくので肌を隠すコスチュームでは無く、雄英ジャージを着て臨んでいるため、更衣室にかけこんで二日ぶりに着るヒーロースーツに着替えた。
よし。

「すみません、お待たせしました!」
「行くぞ」

事務所の壁に凭れて待っていたシャチョーに駆け寄れば、ヒーロースーツを翻してさっそうと歩きだした。
うはぁ、かっこいいなぁ!
今までは社員さんとの見回りだけだったので、シャチョーとの見回りはこれが初めてだ。

「俺がお前にオファーを出した理由が分かるか?」
「え?あ、体育祭でヒーローとしての伸びしろを見ていただけたのかと」
「それもまあ、ある。しかし俺は今回1年の受け入れをする気はなかった」

あ、そっか。
だから第二希望とかあるんだ。
事務所側で将来的にオファーを出したいという指名は入れるが、職場体験の可否はまた別だから。
んー、でも。

「水族館でトージくんを助けたことを覚えているな?」
「はい。後遺症もないようで、よかったです」
「あの時、偶然ではあるが擬似的にヒーローとしての資質が問われる場面だった」
「資質……ですか?」
「学校で行われる救助訓練とは全く違っただろう」
「え、あ、はい」

そっか、全然意識していなかったけど、あの瞬間であればトージくんは要救助者で私はヒーローとして助けに行ったという感じだったのか。
授業の訓練ではまず要救助者の状態の説明、どういったことに気を付けるべきか、すべて説明されてから全員が同じように救助を行う。
本番に近い訓練はきっとテストか上学年で行われるのだろう。
しかし、本番は突然、急に訪れる。

「危険を察知し躊躇わず、自身に不利な場である水の中へと跳び込んでいった。そして救助後も両親の心配に適切に答えていた。君はヒーローとしては100点の行いをした」
「100てんっ……!」
「お前は――――」

なんかいい言葉をもらえそうだったのに、シャチョーの携帯が鳴って流れてしまった。
く、くっそぅ!
あともうちょっとだったのに。

「ズーキーパー?近くか?」

シャチョーは眉間にしわを寄せて通話を切った。
あれ、ズーキーパー?
何か聞き覚えあるな。

「キュレーターの話は聞いたか?」

足早に歩きだしたシャチョーの言葉に、「シャチョーが追っているヴィランだということだけ……」と答えた。
シャチョーはまっすぐ前を見ながら、ぐっと手を握り込んだ。
何か、因縁があるのだろうか。
気にはなったが、聞いては行けないような気がして黙った。

「ズーキーパーはキュレーターに操られているだけだ。もし遭遇しても絶対に傷つけるな」
「は、はい」

操られているのだとしたら、キュレーターはそういった個性の持ち主なのだろうか。
それからしばらく、その周囲一帯をしらみつぶしに捜索したが、ズーキーパーらしき人は見かけなかった。
シャチョーは頭からペットボトルの水をかけると、心を落ち着けるように深く息を吐きだした。
大人だし、長くヒーローをやっているから、思うことが色々あるのだろうけれど、キュレーターのことについて話したとき、一瞬ではあるが恨めしいような、悔恨のような、色んな感情が綯交ぜになった目をしていた。

「あの、シャチョー……」

私がシャチョーの手に触れて、黒い感情を少しだけ抜いてあげれば、彼はこちらを見て申し訳なさそうに笑った。

「戻るか」
「はい」

帰り路は楽しかった。
シャチョーが学生だった頃のお話しを聞いたり、私の個性の使い道の話をしたり。
パトロールなんかする必要もないくらい小競り合いも何もない街を歩きながら、明日の天気の話なんかをする。
あまりにも平和過ぎて、まるで覚めない夢の中にでもいるかのようで、少し怖かった。
ホームシック、ってやつなのか、無性に消太くんが恋しい。
しかしそれも、賑やかな会社に戻れば忘れてしまった。
私の勤務時間は学業と同じでいいと言われていたが、ヒーローという職業上、事務所には誰かしらいて、昼間より人が多いものだから待機の人に声をかけては訓練を見てもらっている。
社員寮に泊めてもらっているということもあって、ここ3日間くらい就寝が12時をゆうに過ぎているせいでそろそろシャチョーに怒られそうだ。

「あ、ハーティ、後ろ」
「お前まだ事務所にいたのか!早く寮戻って寝ろ!!」
「あああ!ごめんなさい!」



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