Step.77



救助訓練の帰り、本校舎へのバスの中で隣になった焦凍くんがじっとこちらを見つめてきた。
そういうとこあるよね。

「お前のどこがいいんだろうな」
「焦凍くんそういうとこあるから直したほうがいいね。急に喧嘩売らないで」
「わりぃ」

私が気まずさに耐えていたというのに、口を開けば唐突なディスりとは驚愕だ。
焦凍くんは自分の言動をゆっくりと思い返したのか、同じ言葉をもう一度繰り返した。
緑谷ほどとは言わないけど、思ってること口に出したほうがいいよ。

「俺がなんでお前が好きなのか考えてた」
「哲学的だね……単純に好きだからじゃだめなの?私焦凍くんのことそんな複雑に考えたことないよ」
「もし幼馴染がお前じゃなかったら、お前じゃない幼馴染を好きになってたのかって考えると、そうじゃないような気がする」
「いや、そんなことないでしょ。幼馴染は好きでしょ」

焦凍くんは分かりやすく首を傾げた。
いや、なんでだよ。
幼馴染って、まあ、爆豪と緑谷みたいな特殊なパターンもあるけど普通長く一緒にいたらそれだけ信頼関係築けるでしょ、普通。

『もう、これ卒業まで続くの?』
「急になに黒?」
『なんでもないよ、にぶちん』
「なにそれ」

焦凍くんは黒と会話する私に興味を失ったのか、バスの外を眺めるだけの簡単なお仕事に移った。
というか、正直いま私は焦凍くんより百ちゃんのほうが気になっている。
先程の救助訓練、やはり百ちゃんと爆豪が難敵だった。
結果から言えば、爆豪が一番にオールマイトを見つけて救助を完了した。
レースに集中していたからレース中の様子は分からなかったが、終わった後、やはりいつも以上に落ち込んでいる百ちゃんがいた。
皆少しだけ気になっているようで声をかけてはいたが、すぐに百ちゃんは笑顔で隠してしまったので、おそらく私のほかに百ちゃんの異変に気づいている者はいない。
体育祭の後からじゃないだろうか。
百ちゃんの個性は集中していなければいけないだろうに、どことなく集中が切れる瞬間も見て取れている。
百ちゃん……大丈夫かな。
結局、私は何もできずに時間は経る。
あれから数日後、朝のHRで消太くんが珍しく何やら導入を始めた。

「そろそろ夏休みも近いが、勿論君らが30日間一か月休める道理はない」
「まさか……」

皆がごくりと生唾を飲み込む。
こんな感じ多いな。

「夏休み、林間合宿やるぞ」

一斉に沸き立った皆に、私も混じって歓声を上げた。
林間合宿!!
実は行ったことない!
養父のこととか色々あって、中二まで絶えなかったDVの傷を友達たちに見せたくなくて修学旅行も何かと理由をつけて行っていなかった。
中二後半の修学旅行も、個性管理課の関係で行けなかったし、これが、人生初の友だちとお泊りイベント!!

「はぁー波乱万丈な人生だった……!!」
「ただし」

消太くんの水を差す声にみんな静まり返る。

「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は、補修地獄だ」
「みんな頑張ろーぜ!!」

が、頑張るのは切島きみじゃないかな!!?
大丈夫かな!?
私はここに来て、また切島の勉強を一から叩き込むことになるのかもしれないと覚悟を決めた。


******


「はじ、めて……?」
「まーね」

今日も今日とてうちに遊びに来ているひざしくんに頷く。
最近の頻度けっこうヤバいと思うよ。
もういっそうちにベッド置く?ってレベルで来てるよ。

「って、消太くんまで何でそんなびっくりした顔でこっち見てんの」
「いや、考えてみりゃ、そうか……悪い」
「別に消太くんが謝ることじゃ……」

林間合宿楽しみだなぁとつぶやいたら、耳ざとくひざしくんに拾われて何やかんや話しているうちに、友だちとお泊りは初めてだという話になったのだ。
私は別に仕方のないことだと思っているから、むしろ今が楽しいという感情しかないのだけれど。

「お、お兄ちゃんと旅行に行こう!!有給とるから!!」
「とりあえず林間合宿楽しみだから、その後ね」
「びっくりするほどクールだな!?そしてシヴィー……!!」

皿洗いを終えて、シンク周りもさっと拭いてハンドクリームを塗りながら消太くんのいるソファに座った。
相変わらず社畜な消太くんはパソコンとお友だちなようだったが、私が来ると画面を閉じて考えるようにこちらを見た。
私が見ちゃいけない仕事は部屋に戻ってやっているから、今日はお隣入っても大丈夫だと思ったんだけど、そうじゃないのかな。

「いや、行こうか。旅行」
「えっ、消太くん珍しいね」
「俺が面倒みてないときはともかく、中学最後の修学旅行を行かせてやれなかったのは、俺ら大人のエゴだからな。埋め合わせじゃないが、コトハが行きたいなら行こう」

もう、律儀だなぁ……。
そういうとこ好き。

「よーっし、全部兄ちゃんに任せろ!どこ行きたい?修学旅行といえば京都、大阪か?いやでもここはあえて北海道ってのもいいな!」
「海行きたい!」
「イイねぇ!!夏!海!海水浴!はっ、コトハの水着姿、だと?そ、それはだめだぜ!どうする?プライベートビーチでも貸し切るか……!?」
「消太くん、ひざしくんの頭沸いてる」
「いつものことだろ、ほっときなさい」



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