Step.78



林間合宿で浮き足立っていたが、その前に期末テストがあり、そして期末テストの前に授業参観がある。
私は毎日が保護者による授業だから今更授業参観と言われてもピンと来ないのだが、それの一環で保護者に書く手紙というのはとてつもなく恥ずかしかった。
日頃の感謝を書き連ねては何度か書きなおした。
途中から食生活改善のお話しになってしまったのはさすがにまずいと思ったから自重したのだ。
手紙を書く相手はひざしくんか消太くんで悩んだが、担任とはいえ私の保護者なので今回は消太くんに手紙を書くことにした。
それでなぜか、保護者がわりに個性管理課の国本さんが来ることになった。
いや、本当になんで?
あの人仕事ないのかなぁ。

「おはよう、コトハ」
「はよー」

いつもと同じくらいに登校してきた焦凍くんはちらりとこちらを見ると、先程ドアのあたりで緑谷たちと話していたらしい参観日のことについて口を開いた。
これ、私国本さんについてなんて言えばいいの。
お兄ちゃんでも保護者でもないんだけど。
っていうか、一部の人には国本さんって顔割れてるよね。

「手紙、書いたのか」
「あ、うん。お兄ちゃんにね。焦凍くんはお母さん?」
「いや、姉貴に」

そうなんだ。
お母さん大好きなイメージがあるからちょっと意外だった。
まあ、お姉さんが来るならそうなるのか。
焦凍くんと話していれば、すぐにチャイムが鳴った。
それと同時に消太くんが入ってくると思われたが、チャイムが鳴り終わっても入ってこない。
珍しいこともあるもんだなぁ。
前の席の百ちゃんや焦凍くんと視線を交わす。
ふと、少々のズレはあるものの一斉にクラス全員の携帯が鳴った。
私はマナーにしていたから小さいバイブ音だけだったが、皆が携帯を開くのを見て私もショートメールを見た。

「模擬市街地に来い?」

なんでだろう。
引率するのが面倒だったのかな。
意気揚々とみんなを引率し始める飯田を見て、もしかしたらあるかもしれないと思った。


******


引率の先生がいなくても問題なく運んでくれるバスが帰っていくのを見送りながら、小さくあくびをした。

「おう、久地楽、眠いのか?」
「おはよ、切島。まあちょっとねー」
「あれだろ、お前も手紙書いてなくて昨日徹夜したくちだろ」
「バレた」

切島とへらへら笑っていると、そんな和やかな雰囲気を壊すように市街地のほうから悲鳴が聞こえた。
全員が即座に動いた。
ビルが建ち並ぶ道路を駆け抜けていく。
さっき誰かがチラッと言っていたガソリンの匂いが、走るほどに濃くなっていく。
まさか。

「なんだよ、あれ……」

立ち止まった切島が呆然とつぶやいた。
ビル群を抜け、突然開けた視界の先には半径数十メートルはありそうな巨大な穴が広がっていた。
本来そこにあったはずのビルは無く、倒壊したのか残骸が無残に脇に寄せられている。
そして、その穴の中央にポツンと取り残された大きなサイコロのような檻。
一見宙に浮いて見えるのは、丸かじりして芯だけ残されたリンゴのように、削り残された地面の上にあるからだ。
檻の中から上がっていた悲鳴が、生徒たちの名を呼ぶ声に代わった。

「えっ!?国本さん!?」
「すみません、コトハさん!捕まってしまいました!!」

営業スマイルじゃない国本さんなんてレアすぎだ!
檻の中には緑谷のお母さんやお茶子ちゃんのお母さん、焦凍くんのお姉さんなど、おそらく授業参観に来るはずだった保護者が捕えられていた。
え、待ってよ、じゃあ、消太くんは?

「国本さん!相澤先生は!?」
「アイザワセンセイハ、イマゴロネムッテイルヨ。クライ、ツチノナカデ」

機械で変えられた無機質な声が、私たちを撫でた。
消太くんの中には私の蛇を潜ませてある。
あっちから緊急信号が送られていない以上、とりあえず命に別状はないはずだ。
だから、落ち着け。
ゴーグルの欠片が入っている左腕を握り締めて、ぐっと目をつぶる。

『コトハ、行ける?』

大丈夫。
右腕に光るシルバーのバングルを見つめ、何度か落ち着けるために瞬きをした。

「大丈夫!相澤先生はそう簡単にやられないよ。今は人質を何とかしよう」

全員に勇気の鳥を飛ばし、消太くん不在の恐怖を軽減させる。
檻の中に現れた全身黒ずくめの長身の男はこちらの個性を把握しているようで、上鳴が外に連絡を取ろうとするのも、USJの時のように飯田を走りに行かせるのも先手を打って封じた。
やりづらい相手だ。
私の心をぶつけたから、一応全員落ち着いて戦闘態勢はとれている。
が、さてどうするか。



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