Step.8
三者面談当日。
今朝はヒーロー活動用ではない、ビジネススーツを持って出勤しているのを見て少しドキドキした。
いつもは適当に済ます髭剃りもしっかりと行なっていて、本当に今日、三者面談に来てくれるのだと思うと、正直授業に集中出来ない。
「なあ、久地楽見ろよ!今日の先生ガチガチだな!俺よりかてぇかもしれねえ!」
前に座る切島鋭児郎が振り返ってへらへら笑った。
確か、ちょっと硬くなる個性。
ああ、言われてみれば先生もいつもより動きが固くなってる。
なんでだ。
「え、あ、うん、そだね」
「おい、今の笑うとこだぞ!」
切島の少しつんつんした黒髪を見ていると、髪質こそ違うものの消太くんを思い出して胃がキリキリと痛んだ。
すごく嬉しい反面物凄く緊張している。
「久地楽、お前最近元気なかったろ。大丈夫か」
伸ばした前髪を少しだけ鬱陶しそうに避けた切島は私の顔を覗き込んで首を傾げた。
「切島ってほんと良いやつだよね」
「お、おう?」
「大丈夫だよ。今日、三者面談じゃん?だから、ちょっと緊張してるだけ」
「ああ、そっか。今日参観日だもんな。うちは両方忙しいから来れねぇってよ」
「そうなん……参観日?」
何だって?
聞き捨てならないぞ。
ちょっと待て、これはやばいんじゃないか。
三者面談の話はしたが、参観日の話はしていない。
っていうか、そっちは来てほしくない!
この状態で来られても万全じゃない私を露呈してしまう!!
しかしどっちにしても参観日だって言っていないことについてはきっと雷が落ちる。
報連相について小一時間説教を受けたばっかりだぞ!
まずい!
「ヤバいヤバい……!!」
「お前んとこくんのか?」
「お兄ちゃんが来るかもしれないし来ないかもしれない!」
「どっちだよ」
「どっちに転んでも最悪だ!!いや、来た方がやばいか!!」
「切島!久地楽!頼むから大人しくしてろ!」
「うっす」
すっかり忘れていたけれど、がちがちの先生が振り返って注意した。
授業参観は6時間目から……緊張を分離して勇気を補給だ。
個性をフル活用してやっと落ち着いて来た。
「久地楽、俺の心使えよ」
さっき注意されたばかりだからか、切島は前を向いたまま左手をこっそり私に差し出した。
くそぅ、このイケメン!
前髪上げたほうが絶対カッコいいよ!
自給自足したばかりだったけれどありがたく受け取る。
目を閉じて切島の手に触れれば、インナー切島が笑顔で白い球状の発光体を差し出していた。
「ありがとう切島」
「いいってことよ!」
明るく振る舞う切島の向こうに、何か黒く良くない雰囲気を放つ扉が鎮座していた。
けれど私は見なかったことにして切島に白い卵を手渡した。
「何だこれ?」
「心の卵だよ。貯金箱だと思って持っててよ」
卵を持ったままじっとそれを見つめるインナー切島の頭をよしよしと撫でて、卵をその胸に押し付けた。
「う、わ」
卵は切島の胸に吸い込まれて消えた。
人には皆、誰も気づいていないが、必ず黒い自分と白い自分がいる。
それは例え目の前にあったとしても、他人は決して安易に触れてはいけないもの。
だから私は黒い扉には触れず、白いほうの切島に卵を植え付けた。
白い切島が溜めるのは必ずプラスの感情であるから、きっと彼が必要としたときに、それを十分に吸って育った卵が、微々たるながらも背を押してくれるだろう。
目を開けて、切島を放す。
「ありがと」
「おう。なんも変わった感じしねぇけどな」
「したら大変だよ。勇気をもらったんだから、根こそぎ取ってたら今頃恐怖でおかしくなってる」
「マジか!!」
「切島!!頼むから大人しくしてろ……本当に、頼むって……」
「すいません!」
短い間に二度も注意された切島を指さしてニヤニヤしていると、ちょっと硬くなった中指ででこピンされた。
ちょっと鋭利なんだから気を付けてよ。
額を抑えてムッと睨めば、今度は切島がニヤニヤと口角を上げて前に向き直った。
と同時に授業終了を告げるチャイムが鳴った。
次の時間から、授業参観が始まる。
科目は数学。
苦手分野では無い。
切島に貰った勇気を携えて今にも爆発しそうな心臓を押さえつけた。
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