Step.9
「ぜんっぜん分かんねぇ……」
前を向いたまま、切島がぽつりとつぶやいた。
なんでだ!
今日は先生がビビって先週の復習に甘んじてるんだぞ、分かれ!
「切島、切島!先週やったとこ!」
こっそりと後ろから囁けば、切島は天の声とばかりにノート同伴で振り返った。
「教えてくれ!」
流れから見て切島は三問目で先生に当てられる。
ちら、と先生を見れば、切島を頼むというオーラが漏れ出ていた。
任せて先生!
授業中にうるさいだけの久地楽さんじゃないよ!
こう見えて雄英合格のために猛勉強して学年トップ3入りしてるんだ。
「切島、3問目だけソッコーで教えるから脳味噌使って」
「おう!」
「中学校で習うレベルの確立問題なんて、正直計算なんかしなくても書けば終わるんだから横着しないの」
「おう?」
「まず樹系図かいて」
「樹系図って?」
「黒板見ろ!」
壇上で説明している先生が、切島の視線に気づいてさりげなく樹系図の前からどいた。
ナイス!
切島が一旦前に向き直り、樹系図を書き写した。
っていうか、何で板書してないんだよ。
さっき見た限りだと問題を途中まで板書していたから、多分板書する気はあるんだけども脳味噌が追い付いていない感じだ。
もしかしたら問題文が読み解けてないのかもしれない。
問3は三枚のカードABCを並べるとき、BCが隣り合わせになる確率を求めよ、だから、それほど難しいわけでもないんだけれど。
「かけた!」
「はい。じゃあ、それが答えです」
「え!?」
「っていうのは冗談だけど、この組み合わせは何通りある?」
「6?」
「そう」
そこまで行けば、後は簡単。
色ペンを使って切島の書いた樹系図を場合分けしていく。
6通りのうち、AがBCの真ん中にある場合は2つ。
本当はこっち考えた方が楽だと思うんだけど、切島に説明するためには単純にBCが並ぶ場合を教えた方がいいのだろう。
4通りに丸を付けて、ノートの端に答え、と書いてやる。
うーん、そろそろ切島の前の奴が当たるかな。
「はい、すべての場合の数が6、問題で問われてる場合の数が4。じゃあ答えは?」
「おお!6分の4!」
「はい、不合格」
「なんっでだよ!?」
「約分してください」
「3分の2!!」
「はい正解」
ピンクのペンで花丸をつける。
切島の男くさいノートに女子感満載の1ページが増えた。
「よっしゃあ!」
「切島、頼むから大人しくしてろ……」
「スイマセン!」
ふふん、先生大丈夫ですよ。
切島に3問目を当てても―――。
「じゃあ切島、問2」
「は!?」
「え!?」
「え?」
切島も私も先生もびっくりした。
な、なんでや。
切島の出席番号一個前の奴を見れば、今日は奇しくも欠席していた。
ふざけんなよ!
「えーっと、行けるな?」
「切島落ち着いて、問3より問2のほうが簡単だよ」
「うっす!」
1〜6の数字が書かれたカードのうち、1枚を引いて奇数を選ぶ確率。
0も含まれていないしそんなの簡単、小学生レベル。
先生もそれを分かって切島に当ててる。
難しく考えちゃダメだよ、単純に数えれば済む話だし、数えなくたってわかる。
答えは6分の3、約分して2分の1。
切島は立ち上がってノートをとった。
「樹系図かくなよ!単純に6枚中奇数が何個あるか数えるだけ!」
「お、おう!?」
だめだ……。
先生ごめんよ、問3だと思ったんだよ。
応援虚しく切島は無防備なまま黒板へと歩みを進めていった。
「頑張れ鋭ちゃん……!」
隣の席のやつがこっそりとエールを送っているのを見て、私もそれに頷く。
そうだ、切島は決して察しの悪いやつじゃない。
さっきも解き方を教えればすぐに答えを返してきた。
なら、行ける。
解き方は囁いた通り、カード6枚中、奇数が何個あるかを数えるだけだ。
焦るな……頑張れ。
黒板の前で足を止めた切島は、チョークを持って少し考えるそぶりを見せた。
「えーっと、6分の……」
チョークを黒板につけたとき、私は白いネズミを創造して切島に走らせた。
私の感情を少しだけ乗せたネズミが切島の体に突っ込むと、彼は弾かれたように私を見た。
「(や、く、ぶ、ん)」
大きく口パクをすると、切島はハッとしたように頷いてそのまま6と書いた。
「なんでだ!!」
クラス全員プラス先生が突っ込みを入れた。
「約分しろってば!」
「おお!頑張れって言ってんのかと思った!!」
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