Step.80



マンタから伸ばした触手を飯田の背中から腰に掛けて、走るのに邪魔にならない程度に巻き付ける。

「トルクオーバー……レシプロバースト!!!」

超加速にさらにエンジンを積むように、マンタを後ろから緑谷が押す。
切島たちが四方を抑えて人質全員を包み込んだ防火シートのおかげで、怪我はなさそうだ。
暴走機関車のごとく、土ぼこりを上げてこちらに向かってくる飯田だったが、穴の中心でわずかに残っていた地面が音を立てて崩れた。
それにつられるように、氷の橋も傾いでは橋から崩れていく。
焦凍くんは触れていなければ氷結が出来ない。
今更作りなおすのは不可能だ。
飛べ!!
マンタは一度大きく羽ばたくと、残り数メートルの距離をなんとか泳いだ。

「瀬呂!」
「おう任せろ!」

テープがマンタの両翼を捉え、こちらにいた生徒たちがテープを掴んで引っ張り上げる。
背後で氷の橋が溶け落ちていく中、無事にたどり着いた保護者と生徒たちは無事を喜んで歓声が沸いた。
よかった。
マンタをゆっくりと解除して、人質だった保護者達と切島たちを地面に下ろす。
保護者の来ていない切島はすぐにこっちに走ってきてにかりと笑う。

「さっすがだぜ!」
「ありがと」

だいぶ消耗した心に切島が白い心を補充してくれた。
はあ、と横たわって、再会を喜ぶ親子を眺める。
と、穴の淵に亀裂が走った。
え、うそ。

「緑谷!!」

緑谷のお母さんが落ちていく。
そんな。
緑谷が即座に動くのと同時に、私も鳥を飛ばした。
バチリ、という覚えのある音にハッと目を見開く。
犯人が、緑谷母を助けた?
瞬きの一瞬後に、犯人が私の視界で同じ行動を取る。
なんで、という思いと、拘束しなければという思いが綯交ぜになってたたらを踏む。

「オメデトウ、コレデジュギョウハ、オシマイダ」

授業?
どういう意味―――あれ、もしかして、これって……。
考えても見れば、最初から何かが少しずつおかしかった。

「はい、先生はここです」

倒壊したビルのすぐ傍から、いたって普通の、普段通りの消太くんが現れた。
無事でよかった。
みんなは呆気に取られてあほ面を晒しているけど、私はとりあえず消太くんの『合理的虚偽』でよかったと胸をなでおろした。
消太くんがお疲れさまでしたと保護者達に声をかければ、和気藹々と保護者達の会話が始まる。
ポカンとしたままの皆に、消太くんが呆れた様に肩をすくめた。

「まだわからねぇのか?分かりやすく言うと、ドッキリってやつだな」
「は、犯人も……?」

皆がそろって犯人を見ると、少しうろたえた様子の犯人が何故か消太くんを見た。

「えー……この人は劇団の人です。頼んで来てもらいました」

あ、嘘だ。
面倒くさくなって嘘ついた。
なんとなくわかってしまった私は、可愛くなくカワイコぶってゴメンネと首を傾げる犯人役の人を見つめた。
誰なんだろう。
未だに機械音だし、黒いマントのせいで体格も長身だということしかイマイチわからない。

「いいか、人を助けるには、力、技術、知識、判断力が不可欠だ。しかし判断力は感情に左右される。お前叩違将来ヒーローになれたとして、自分の大切な家族が危険な目に遭っていても取り乱さず、助けることが出来るか。それを学ぶ授業だったんだよ。授業参観にかこつけた、な」

消太くんは授業への疑問を発言した百ちゃんにそう言ったけれど、その言葉は、勢いをつけて私に刺さった。
USJでは盛大に取り乱した挙句暴走したよ。
消太くんの総評を聞きながら、はあ、と深くため息をつく。

「お疲れさまでした、コトハさん」

消太くんが解散を告げると、保護者と生徒は授業のことについて話しだしたり一部怒鳴り合ったりしていた。
そんな中で、国本さんも私に声をかけてくれた。

「正直、暴走するのではないかと懸念していたんですが、まったくの杞憂でしたね」
「国本さんお仕事で来てたんだね。暇なのかと思いました」
「君の担当ですから」

いつも通りの営業スマイルに戻った国本さんに苦笑する。
国本さん身長高いからただでさえ威圧的なのに、営業スマイルも営業だなぁって分かるくらい薄っぺらいからあんまり意味ないんじゃないかな。
それともポーカーフェイスってやつなのかな。
んーでも意外と表情出るしなぁ。

「なんですか?」
「いや、何でいつも営業スマイルなんですか?」
「子供ウケ狙ってます」

無理だと思います。
シャチョーといいセルキーといい、国本さんといい、多分皆努力の方向間違ってると思う。
シャチョーはあんまり努力してたイメージないけど。

「久地楽、よかったよ」

焦凍くんと話していたはずの消太くんがすれ違いざまに頭を軽く撫でて去っていった。

「ほ」

惚れてまうやろー!!!
頭を抑えたまま悶絶している私を見て国本さんがくすくすと笑った。
あああああ!勿体ない!
国本さんの貴重な天然笑顔なのに消太くんのくれた心でいっぱいいっぱいだ!
だからそういうイベントはちゃんと区切ってってあれほど!!

「そういえばコトハさんは誰にお手紙を書いたんですか?」
「もち、消太くん。でもまあこっぱずかしいんで折り見て処分しますよ」
「なるほど、それで……」
「それで?」

何かに納得した様子の国本さんに首を傾げれば、ちょいちょい、とコスチュームのポケットを指した。
ポケットに手を突っ込んでハッとする。
抜かれた!

「しょ――相澤先生待ってください!!」

わ、私のお手紙盗むなんてヒーローにあるまじき手癖の悪さ!
そういうところ器用なのどうかと思うよ私は!
いや、もうお願いだから読まないで。
ほんとに。
一週間だけゼリーどれだけ食っても怒んないから。
ね、それ返して。



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