Step.85
消太くんの瞬きするタイミングは知っている。
だからこそ、その一瞬で触手を伸ばした。
なのに、何で。
手の形にすらなりえない歪な触手はあと一ミリで消太くんに触れる、というところでぴたりと止まった。
再びを目開けた消太くんが距離をとったにも関わらず追うこともしないで、消された。
消太くんの蹴りを躱していったん距離を取る。
何で触れなかった?
右手を見つめてみるが、シルバーのバングルがきらりと輝くばかりで答えが帰ってくるはずもない。
『………ぅ…え!!』
切島の声!!
ハッと消太くんの顔を認識するより早く体が動いた。
一瞬、おそらく瞬きのタイミングで心の声が届いた。
ってことは、切島が目覚めた!!
視界の端で確認するが、まだ気絶した振りで倒れたままだ。
なるほどね、珍しく頭を使ったじゃん!!
私は消太くんを相手にしながら、切島から離れる。
『今だよ!!』
跳び起きた切島は、ゴールへと走る。
私は消太くんを逃がさないために殴りかかる。
消太くんは私をちらりと見て、切島の進行方向にまきびしをまいた。
忍者かよ!
でも、消太くんの視界さえ奪えばまきびしなんて関係なく硬化の切島はゴールできる。
「相澤先生!ごめんね!!」
私は視界をふさぐのと、攻撃のために、消太くんの顔面を狙って蹴りを放つ。
さあ行け切島!!
シャチョー直伝の上段蹴りが火をふくぜ!!
ふと、消太くんと、目があった。
「……コトハ」
「え?」
勢いを失った足を掴まれ、ぐるりと視界が回転する。
アスファルトの地面に組み敷かれ、しまったと切島を見た。
消太くんも瞬きのあと切島を見て、個性を奪う。
「久地楽!!」
いまだゴール前で立ち往生する切島の声にハッと我に返り、消太くんの首を掴んで密着したところを、腕を取って足も封じつつ一気に横に返し逃げて、マウントポジションを取った。
なんでこんな簡単に、逆転できるんだ。
「お前、このまんまだと赤点だよ」
マウントを取った私を簡単に転がして、消太くんは掌底を振りかぶった。
まずい。
意識を飛ばされる。
予知するまでもないのに、バチリバチリと静電気のような音が激しく鳴り響く。
予知の中でゆっくりと動く消太くんの私を抑える手に触れて、心を吸いとろうとした。
「久地楽!!わりぃ!戻っちまった!!」
切島が私を助けるために戻ってきた。
硬化した腕を振るい、消太くんに――。
だめ。
だめだ。
何やってるの。
何で私、消太くんと戦ってるの。
何で消太くんから心を盗ろうとしてるの。
何で切島は、消太くんを―――。
黒い盾が消太くんと切島を阻んだ。
「ヒーローになりたいんじゃないのか」
真新しいゴーグル越しに、消太くんと目があう。
ヒーローに?
それは、消太くんを傷つけてまでならなきゃいけないことなの?
ぞわりと、黒が心を染めた。
私の黒じゃない。
「暴走するのか?」
「だめ、やめて、違うの……私じゃない……消して!消太くん消して!!」
いつも、一緒にいるはずの黒が、どこか遠いところからこちらを見つめているような気がする。
なんで。
消していいの?
いや、だめだよ。
大丈夫、きっと消えない。
見ないで。
消さなきゃ。
黒が邪魔をする。
ヒーローになりたいのに。
消太くんを守りたいからでしょ。
違う。
違わない。
消太くん、消して。
「やめろ……!なんで……!!おれは、つよく……―――」
切島の声に、ハッとそちらを見れば、切島の顔が黒く侵蝕されていた。
シンクロ、したせいだ。
「黒、コトハの邪魔をするな」
薄氷を踏みつけるような危うい音がして、何かが割れた。
それと同時に、私にも広がっていた黒い侵食が粒子に溶けて消えた。
「お兄ちゃんのバカ!!」
私は消太くんの頬を思いっきり叩くと、すぐに消太くんの下からエスケープして泣きだしそうなまま、切島のもとに駆けた。
ごめん!
ごめん切島!
ありったけの白い心を額に集めて、倒れこんで痙攣している切島の額と合わせる。
黒に同調して、切島の中の黒い心が悪い方向に暴走した。
ゆっくりと、目を閉じてインナーに入れば、真っ白な空間のはずのインナーが全て黒く覆われていた。
その中心に、黒い切島がうずくまっている。
「俺じゃない、俺じゃないんだ。こんなことしたかったわけじゃない」
「分かってる、私が悪いの。ごめんね」
黒い切島に白い心を渡して、少しずつ切島の中の黒を抑え込んでいく。
目を開ければ、文字通り目と鼻の先にある切島の顔からゆっくりと黒が引いていくようだった。
よかった。
へたり込んだ私の上に、影が指した。
『TIME UP!!』
「おめでとう、不合格だ」
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