Step.86
「ごめん、本当にごめん、私のせいで……」
「いや、そんなことねぇって、俺の実力不足だ……」
「切島ぁ、ごめん……」
「もういいって、謝んなよ……」
「何で抱き合ってんだよ」
切島を抱きしめながら謝っていれば、焦凍くんに引きはがされた。
シンクロで汚染された切島の心を少しずつ、リハビリのように白い心を戻していく途中だったのに焦凍くんに腕を引っ張られて自分の席に戻る。
焦凍くんちょっと乱暴なところありますよね。
「予鈴が鳴ったら席につけ」
林間合宿の資料と思われる物を小脇に抱えた消太くんが教室のドアを開けつつ言った。
おはようございます。
正直もう帰りたい。
昨日の期末テストが終わってから、消太くんは家に帰ってこなかったので今日顔を合わせるのはこれが初めてだった。
「おはよう。今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。したがって……」
やるならさっさとやってくれよ……。
断頭台でタメなんて必要ないよ……。
うなだれた私を、百ちゃんが気付いて頭を撫でてくれた。
ありがとう、土産話楽しみにしてるね。
「林間合宿は全員行きます!」
「どんでんがえしだあああ!!!」
赤点組の切島、砂糖、芦戸、上鳴、そして私が叫んだ。
林間合宿!!
行けるんだ!!
「良かったですわね、コトハさん」
「百ちゃん!!お風呂!一緒に入ろう!!ね!!」
「え、ええ、勿論ですわ」
私の勢いに少し引いた様子の百ちゃんだったが、今はもうなにも気にならない。
ありがとう百ちゃん、ありがとう消太くん、ありがとう雄英!!
「そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点とったやつこそ、ここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」
「ゴーリテキキョギィー!!」
あまりの喜びに補修組全員が叫んだ。
******
「コトハ。俺を殴ったのはどっちだ?」
「え?」
放課後消太くんに呼びだされたかと思えば、突然それだ。
一体何の話かと思ったけど、期末実技のことを思いだして目を逸らした。
あの時、殴ったのは……。
「私、いや、白?かな?よく分かんない、ごめん」
「別にいいよ。あの時俺のことお兄ちゃんって呼んだだろ。だから白なのかお前なのか気になっただけ」
「えっ、ああ、うん」
そういえば白は最近口を出してこない。
具現化して遊びまわることはあるけど。
「単純に理由を聞きたいんだが、何で俺を殴った?いや、殴れたか、って聞いた方がいいのか」
あの時、ずっと私にブレーキをかけていたのは黒。
消太くんから心を奪うことも、黒い心を押し付けることも、蹴り飛ばすこともできなかった。
普段の組み手であればそんなことはなかったのに。
「殴った理由は……黒のこと、悪く言ったから。殴れたのは……黒が、消えちゃったから」
「消えた?」
「あ、消えたっていうか、引きこもったっていうか」
私は、ぐっと押し黙って、消太くんの手を握った。
あれは、試験だったから。
分かってる、分かってるんだけど。
「消太くん、黒に謝って」
「なんで?」
ぎろりと睨まれた。
うっ。
分かってるよ、すっごいバカみたいな、子供みたいなこと言ってるのは。
でも、あれは、だめ。
消太くんは確かに私の担任で、先生だけど、あのとき消太くんが私のこと『コトハ』なんて呼んだから。
「だって、消太くんはお兄ちゃんじゃん」
ずき、とどこかが痛んだ。
あれ、黒?
消太くんは面倒そうにはあ、と深いため息をついた。
「……黒にあわせてくれるか」
「いじめたらすぐわかるからね」
「しないよ」
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