▽ 二話
「おかえりなさいませ審神者様!」
「キツネだ!エキノコックス!捕獲しなきゃ!!」
「わ、私は管狐です!エキノコックスなど持っておりません!」
「君がこんのすけくんですか」
多分そうだろうけど。
私はしゃがんで隈取をした狐に話しかける。
これ、傍から見たら変な人だよなぁ。
山姥切国広さんは引いたりしないのかな。
ちらりと後ろを覗き見ると周囲を興味なさげに眺めて居た。
私には興味すらないのかな!?
「そ、そうです。審神者様、精神状態は正常ですか?」
「失敬ですね。大丈夫。敬語なくてもいい?」
「はい、構いません。面紗もお預かりいたしますね」
顔を隠すためにつけていた面紗には、『空音』と私の審神者名が書かれており、こんのすけに渡すとどこかに消えた。
「集会、演練等この本丸から出られる際には面紗の着用をお願いします」
「はーい」
「では本丸内のご案内をいたします」
「山姥切国広さん行きますよー」
「ああ」
山姥切国広さんは素直に私の後ろに続いた。
立派な日本家屋だ。
広すぎるような感じがしないでもないが、刀剣は今発見されているだけでもゆうに40は超えているから、これぐらいないと生活がままならないのだろう。
転移してきた場所が屋敷の門だったせいで全貌を見ることはできないが、振り返って見降ろしてみれば城郭のようになっているようだ。
「こちらは主に居住区です。転移元の門から石段を下れば鍛刀、刀装の制作が出来る建物がありますが、そちらは明日ご説明いたしますね。ではまず厨へご案内します」
「栗屋?」
「キッチンのことです」
「くりや……」
こんのすけがちらりとこちらを見て言葉を付け足した。
くりや……栗屋?
漢字はこれであってんのかな。
違う気もするけど、重要でもないからいいか。
「そんなことも知らないのか」
「山姥切国広さん、言葉っていうのは生き物で、日々進化したり衰退したり変異したりするんですよ」
「変異……?」
「ところで山姥切国広さんって長いんで山姥切さんでいいですか」
「……別に、いいが」
あ、ちょっと嫌そうな顔した。
私が布で隠されている顔を覗き込むと「なんだ」と言ってさらに布で顔を隠した。
山姥切って呼ばれるのが嫌なのか、略されるのが嫌なのか。
「嫌ならそう言いなよ。あ、敬語もなくしていい?まんばさん」
「……好きにしてくれ」
まんばさんは疲れたようにため息をついた。
たぶん、山姥切って呼ばれるのが嫌だったんだ。
まあ、名前じゃないしね。
何切ったかってだけだし。
あれ、ってことはそう言う人多いのかな、人っていうか、刀だけど。
天井切りとか人切りとか?
うわぁ、物騒だ。
切り系で呼ぶの止めよう。
ごめんね、まんばさん……もうちょっと考えて発言する。
「ここが厨、審神者様に分かりやすいように言いますとキッチンです」
「待って!」
「な、なんですか!?」
「キッチンに動物の毛を入れるのはいかがなものかと」
「な、なるほど、それもそうです!」
こんのすけはキッチンの敷居の向こうに立って頷いた。
キッチンは広いが、思えば40以上もある刀剣たちを食わせていかなきゃならないのか。
「あの、こんのすけ……刀剣男士の食事って私が用意するの?」
「いえ、刀剣男士は基本的に食事をしなくても構いません。審神者様がお食事を取っていただくだけで十分ですよ。そのような本丸も存在します。刀剣男士にとっての食事は人間で言う嗜好品のようなものです」
「ほーん。まんばさん手伝ってくれる?」
「写しの俺に何を期待している」
「料理の腕かな」
「……」
「あああああの!そ、それでですね、こちらの冷蔵庫にある程度食材が届くようになっておりまして、その他必要なものに関しては随時ご連絡いただくか、庭に畑がございますのでそちらで育てていくかになります」
「家庭菜園するんだ……頑張ろうね、まんばさん」
「ああ……」
しんどそうな顔をしたまんばさんを気遣いつつ、私はキッチンを出た。
キッチンはカウンターがついており、カウンターの下にはいくつかの椅子が並んでいる。
「こちらの戸を開けることで厨と大広間を繋げることが可能です」
「おーひろーい」
こんのすけが戸を引くと、よくある宴会場よりも幾ばくか広い畳部屋がつながっていた。
これだけ広ければ飲んで食って騒いで踊っても平気だろう。
それまでは先程のカウンターで十分だろうか。
「刀数が増えましたらこちらもおのずと必要になるでしょう。では執務室に向かいましょう」
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