▽ 五話

「そうそう、良い感じ。うどん入れるよ」
「ああ」

出陣してから帰ってくるまで、そう時間はかからなかった。
秋田くんをまんばさんが庇ったらしく、誉をとりつつも軽傷のまんばさんを手入れ部屋に突っ込み、完全復活をした今は一緒にお昼ごはんを作っている。
秋田くんに火を任せるのはちょっと怖いので、お水やお茶を用意したり、お皿を用意したりなどのお手伝いをしてもらっていた。

「キムチ入れるね。少し蒸すからぐるっと回して蓋して」

フライパンを器用に動かしてキムチを湯がいたお湯を行きわたらせる。
まんばさんは随分と熱心に料理をしようとしてくれるからとても助かる。
というか、私はあの重いフライパンを持ちたくない。
鉄がいいのは分かっているが、なにぶん重い。

「鉄のフライパンは熱伝導が結構いいから、他のステンレスとかより使いやすいよ」
「包丁は」
「そ、それはよく分かんない。刃物はまんばさんの専門でしょ」
「調理刀に触れたのは今日が初めてだ」
「刀ではない」
「主君、あとは何をすればいいですか?」

テーブルクロスを引き、綺麗に整えられたテーブルを見て、秋田くんを撫でる。
偉いぞ。

「お、じゃあ三時のおやつにデザートを作ろうか」

水を鍋に入れて火にかける。

「では秋田捜索隊長、倉庫から粉寒天を探して来て下さい」
「了解です!」

ぱぁ、と顔を輝かせた秋田くんは満面の笑みで敬礼を返した。
秋田くんが倉庫に行っている間に私は踏み台を用意する。
大人の高さだからちょっと秋田くんには高いんだよなぁ。

「まんばさん、うどんの隣で作るから秋田くんがそっちの触らないように見ててくれる?」
「ああ」
「主君!粉寒天発見しました!」
「ご苦労」

パックの粉寒天を開け、小さじ一杯分鍋に入れ軽く混ぜて弱火にする。

「秋田捜索隊長、次はあんこです」
「行ってまいります!」

敬礼をした秋田くんに私も敬礼を返し、へら、砂糖、塩を用意した。
あとは全部混ぜるだけ。

「ありました!」
「よーし、じゃあこの台の上に乗って」

私は火を止めて、軽く砂糖塩を加える。
秋田くんが台に乗ったのを確認し、その小さい手にあんこを持たせた。

「とうにゅーう」
「投入です!」

私に倣ってあんこを鍋の中に加えれば甘いいい香りがした。

「はい、じゃあこのへらで混ぜて溶かしてくださーい」
「はーい」

スプーンでお皿に少しすくって味を見る。
うーん、少し甘さが足りないかな。

「秋田くんあーん」

ひな鳥のように口を開けた秋田くんに少し冷ましてあげた。
秋田くんのためにフライパンを少し寄せてくれているまんばさんにも食べてもらう。

「どうかな?少し甘さが足りないかなって思うんだけど」
「んー、僕も甘いほうが好きです」
「そうだな」

冷えたらもう少し甘くなくなるし。
お砂糖を加えて、秋田くんの手を上から握り、軽くかき混ぜる。
いいね。

「じゃあこれから火にかけるので、秋田くんはそっちの流しに木桶と氷水を用意してね」
「はい!」

流しが二段構造になっていて、大人用と子供用が隣接されているらしく、秋田くんにはそちらを指した。

「まんばさんそっちどうかな」
「大分いいと思うが」
「じゃあ蓋とって強火で水気飛ばします。あ、お酒入れて味も調えて」
「どれぐらいだ」
「んー……なんとなく素早く一周かな。どばっと」

まんばさんは少しだけ緊張した面持ちで酒をくわえた。
そんなに緊張しなくていいのに。

「いい感じ。あとは炒めながら水分とばしたら出来上がり」
「分かった」
「主君、氷はどれくらい入れればいいですか?」
「こんもり」

秋田くんが水を張って用意してくれた木桶に、製氷皿をぶち込む。
皿だけ取り出し、キラキラと目を輝かせている秋田くんにもう一つの製氷皿を渡した。

「はい、どばーっと」
「どばー!」

何だこの生き物かわいい。

「早急にカメラ買わないと」
「どうしてですか?」
「人間には数え切れないほどの煩悩と浅ましい欲があるからだよ」
「短刀相手に何を言っているんだお前は」

冷たいまなざしと共に窘められた私は遠くに視線をやって誤魔化した。
さて、水羊羹の完成ももうすぐだ。
氷の敷き詰められた木桶を軽く均して、鍋を持つ。
おおう、重い。
鍋をしっかりと持ち直すと、私の手に堅い男の手が重ねられた。

「おい待て、代われ。そっちに持っていけばいいんだろう」
「おー、ありがとうまんばさん」

代わってもらったついでにうどんの具合を見れば野菜やキムチも程よくしんなりしていた。
あー、どうせなら中華スープも作ればよかったかな。
視界の端でお鍋が冷水に浸されたのを見て思わず微笑む。
まんばさんが秋田くんに少し離れるように気づかいをしていたり、秋田くんがどきどきと鍋の中を覗き込もうとしていたり。
なんて、幸せなんだろう。

「おい!どうした!?」

鍋を置いて、まだ熱いから触るな、と秋田くんをけん制したまんばさんがこちらを見て、飛んできた。
ちょうど今日の朝、私がしたように、まんばさんが今度は私の涙を拭う。
その様子に気づいて、秋田くんも駆け寄って心配そうに私を見上げる。

「なんでもない。ちょっと、ほっとしただけ」

視線をフライパンに戻し、火を止めた。
何やってるんだろう、私。
まんばさんも、秋田くんも、私が預かっていい刀じゃない。
私、なんかが。
こんな幸せをいただいて良いはずがない。
ゆらゆらと上がる湯気を眺めて居れば、まんばさんが秋田くんを抱き上げて、私に押し付けた。

「デザート、作るんだろ」

私は一瞬きょとんとまんばさんを見て、その優しさに頷いた。


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