▽ 十話:審神者、軽傷


本丸へ戻り、刀たちを手入れ部屋に預けてやっとのことで落ち着きを取り戻した。
柱に背を預けてずるずるとへたり込む。
戦闘に当たった刀たちは今重傷者から順に怪我を直されているはずだ。

「大丈夫か?」
「御手杵……おかえり」
「ただいま。大変だったみたいだな……」
「大丈夫だよ、そっちは?」
「歪みは見つからなかった。鯰尾が忙しそうにしていたからにっかりが報告かねて手伝ってる」

そっか、骨喰を応援によこしてくれたから今は鯰尾が一人で纏めているのか。
すぐに手伝いに行かなきゃ。
政府への報告に調査依頼……やることが多いなぁ。
それに……大倶利伽羅の戦闘報告もあげなきゃいけない。

「分かった、ありがとう。取りあえず御手杵は執務できそうなやつ探して呼んできてくれる?」
「ん、さっき長谷部たちが遠征から戻ってたから呼べばすぐ来るはずだぜ」

そういえばあの騒がしい部隊、しばらく長期遠征に行かせたんだっけ。
苦笑して頷く。
それと、ここちゃんと手当てしとけよ、と御手杵は自分の頬を指して去っていった。
ここ?
私が頬をぐい、とこすると少しの痛みと血が手の甲についた。
あれ、いつだろう。
記憶を探って、ああ、薬研が庇ってくれた時かと納得する。
今更思いだしたかのように背中の打ち身と右腕の擦り傷も少し痛む。
が、大した怪我でもないし後ででいいや。
よし、仕事しよう。
負傷した刀剣たちにはそのまま休んでいいと伝えてあるので、報告は明日もらうとして出来るところまで今日中に片付けてしまいたい。

「主!」
「は、長谷部……おかえり」

全速力で走ってきた打刀最速の刀剣男士を前に私は少し引き気味に頷く。
立ち上がって二歩後ろに下がる。
圧が、圧がすごい。

「俺をお呼びと───主、お怪我を……!」

長谷部があわあわと私の頬に触れようとして手を宙で浮かせたままどうしようかと悩んでいる様子を見せる。
あの、そこまで狼狽えることでもない。

「いや、ちょっとね。それよか事務仕事が大量にあるから手伝ってほしいんだけど」
「主の手当てが先です!」
「なに!?ご主人様、怪我をしたのかい!?」
「主、怪我を?あぁ、頬が切れてしまっているな」
「ああ、ぬしさま!お労しい……!」

騒がしい足音がしたと思えば、次の瞬間には騒々しい連中が矢継ぎ早に私に迫ってきた。
こ、これが嫌で遠征に行かせてたのに!!
私がじりじりと後退すれば、彼らはその分だけ距離を詰めてくる。
なにこれ。誰か助けて。

「ただいま主さん。何やってるの?」
「乱!!ありがとうおかえり!じゃあ、そういうことだから!皆鯰尾を手伝ってね!!それじゃ!」
「お待ちください!俺は主のお怪我を手当てしてから──」
「ふむ、それはこの巴形が承ろう」
「いや、あの……乱の報告も聞きたいし、ついでに手当てもその時するから、お気になさらず……」
「はいはい、主さんは僕がもらうからねー」

乱が私の手を取ってすたすたと歩いていく。
さ、さすが!その毅然とした態度が私には真似できない!!
だって一言返したら十二で帰ってくるから正直精神が持たないし面倒くさい。
はっきり断っても聞き入れてくれないし面倒なことになるし、かといって今のようにやんわりと断っても結局長引いてしんどい思いをする。
何なんだこいつら!
追いかけようとしてきた長谷部、巴形、亀甲、小狐丸の四振りはどこからともなく現れた後藤によって阻まれた。
さすが極短刀つよい。
乱に先導されるまま障害なく医務室にたどり着いた私は頬や腕、背中を彼に手当てしてもらいながらお礼を言った。
手入れするほどでもない怪我をしたときにこの部屋を使う。
大体は薬研が居るのだが、今は手入れのため部屋は空だ。

「ついでで悪いんだけど報告貰っていい?」
「あ、はーい。信濃の指示で僕と後藤は黒服サングラスの怪しい男たちを追いかけたんだ」

見た目で判断はあれだけど確かにそれは怪しい。今どきどうなんだ。
私は頷いて続きを促した。

「米花町東の雑居ビルについたそいつらは安奈様と死んだ男について話してたよ。ギリギリだったから詳しくは聞こえなかったけど『データは回収できなかった、公安だった、警察が張っているせいでこれ以上は無理だ』ってのは聞こえたよ」

やはりそうか。
安奈を殺したのは人間と見てまず間違いない。
安奈と共に死んでいたらしい公安の男との関係も気になるし、あの黒い化け物も気になるが、審神者殺しがこの時代の者であるなら不幸中の幸いである。

「……安奈を殺した組織っぽいね。よし、徹底マーク。乱は後藤と今手入れ受けてない短刀脇差に声をかけてすぐに行ってくれる?」
「はーい。主さんも気を付けてね。可愛い顔に傷が残っちゃったらボク悲しいから」
「あ、ありがとう……」

お前のほうが可愛いよとは女のプライドで口に出さなかった。


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