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光る水底
──俺がその試合を見てたんは、単なる偶然だった。
「シックスゲームストゥオール!タイブレーク!」
お。しまった、もう終盤か。
久しぶりに部活も休みの日曜日。県内の、家からそこまで遠くない場所で小さな大会が行われると聞いて、それなら見に行ってもええかと足が向いた。
人のテニスを見るのは、嫌いじゃない。寧ろ、そいつの癖、見たことの無い技、面白いプレイスタイル。色んなもんを発見できる観戦は、見ていて飽きない。
ちょうど、部活の連中の顔にも慣れてきた頃だった。
入部して数ヶ月で見飽きたわけでもないが、これから二年近く見ていくことになる。いつか飽きる日が来る。外の世界がわからなくなっていくんは、目に見えていた。
それに──あの、三年より強い三人。
部内で目立つ同学年の顔が浮かぶ。──あんなんがおったら、レギュラーが遠すぎるじゃろ。
強豪校で、部員も多い。
俺も弱いわけじゃないとは自負してる。が、差し引いても、レギュラーを狙うには、まだまだ実力が足りん。
身に付けられるもんは、吸収せんとな。
半ば自分の好奇心であることも認めるが、とにもかくにも、時間があり気が向いた時には、一般の大会やストリートテニスを見ることにしていた。
今日、ここに足を運んだんも、その偶然が重なった結果だった。
「のぅ、これ、決勝か?」
「え? あぁ、うん。そうだよ。試合始まったのだいぶ前だけど、もうタイブレーク入ったから終わるんじゃないかな」
「ほー」
近くにいた観戦者に声をかける。ご丁寧に、視線はコートに向けたままつらつらと言葉を重ねはじめた。
「あっちの……今サーブ打った方の子が、すんごい粘るの。ちっちゃいからしんどいだろうなー」
「ってことは、劣勢なんか」
「えー、どうだろ。あの子知らない子だけど、今日の試合全部7-6で勝ち進んでてさ。今も疲れそんなに出てないし、持久戦得意なんじゃない?」
「確かに、安定しちょるな」
「ね。でもタカトは……あ、相手の奴ね。あいつ、去年の大会は優勝してるけど、体力ねーんだよ。力でなんとかする感じ。球速いし」
言われて、改めてコートに視線を移す。
……別に速くは、ない。
疲れで球速が落ちてるのかもしれんが、見てる限りそんなに強いようには思えない。
たぶん、ここら辺の子供の中で、体格に恵まれて、ちょっと抜きん出た。そんくらいのもんじゃろ。
見たかったのは高校生や大人の部門の方だったんだが、そちらはもうとっくに終了しているらしい。遠くで使い終わったコートを整備する姿が見える。
……まぁ、こんなもんか。
無駄足じゃったのぅ。観戦スペースのベンチに腰掛け、帰るか否か、一瞬迷う。
収穫なしもつまらんし、かといってこの試合で得るもんもなさそうじゃし。
ぼんやりとコートを眺めながら、ボールの行方を追い──
はた、と。違和感を、覚える。
「え!? あ、入った!? 今の!?」
「いやアウトじゃね? 審判見えてないっしょ」
「うわ惜しい〜。今のアウトだったら勝てたじゃん〜」
周囲から様々な感想がもれる。惜しかった、ギリギリだった、良い試合だった。パチパチと中途半端な拍手に包まれながら、タイブレークの試合を終えた二人が握手をする。このまま表彰式に入るらしい。
──いや、今の──
最初は靄がかかるような感覚。次に興味。記憶の反芻。
自分の中に生じた違和感の正体を紐解き、突き止めれば、最後には答え合わせをしてみたくなる。
──ちぃと、帰るにはまだ早いか。
ついと上がる口角に、僅かに持ち直した気分が呼応する。
一人分しか無い表彰台の下で、微笑みながら優勝者を讃えるその人物に、さてどうやって話しかけたもんかの、と頭を働かせた。