menu
top    about    main

とうとつ。


「うおおおおっ!?」
「うわあああ!?」

なんで服着てないんですか!と叫んで、テンガロンハットを投げつけた。服着てるだろ!?と返してきたその人が、いそいそと上着だけ着てくれる。…あの、半裸に上着も、変です。


「というか、おまえ、誰だよ!?」


お兄さんが動揺しながら言った言葉に、私ははっとして辺りを見渡す。知らない海で、知らない船の上。大きい船だからか、周りに人は見当たらない。
ということは…どういうことだ?

難しい要求とか、存在しない場所を指定したら、全然違う場所に行くわけだけど。見てわかるほど全然違う、って場所でもないし、かといってここが指定した強い人がいる場所なのかもわからない。目の前にいるお兄さんは、指定と真逆の極悪人だってこともあり得る。だけど、確めようがない。

困ったものだなぁ…。
眉を八の字にして、でもわからないからといって、じっとしてるわけにもいかない。ええい、悩む余地など、ないのだ!


「あの、私の名前は、ハッター・フロートです。えーっと…あっ、これは私の悪魔の実の能力で!悪魔の実っていうのは、うーんと…」
「や、悪魔の実はわかる」
「わかりますか!で、そうですね、今私は、この能力で、あなたのところに来たんです!だから助けてください!お願いします…っ!」
「…ちょっと、それはよくわかんねェけど」

勢いでは、押しきれなかった…!
もしかしたら、私も自分が思っているより、動揺しているのかもしれない。すーはーすーはー呼吸して、一生懸命落ち着こうとする。ほんとに落ち着いたのかはわからないけど。
あのですね、ともう一度話を切り出す。

「私の、能力で移動してきました。そんじょそこらの海賊なんかより強くて、私を助けてくれるような人のところ!ってして」
「あー…それで、おれのところに来たってことか?」
「そういうことです!」
「何でおれなのかよくわかんねぇんだけど、とりあえずお前、なんで助けて欲しいんだよ」

ぎゅっと、拳を握る。説明をするためにさっきあった出来事を思いだそうとするけど、泣きそうになる。悔しくて、悲しくて、今さらになって、怖いのだ。
海賊が。そう言おうとして、声が震えた。息をめいっぱい吸い込んで、涙を我慢する。


「海賊が…私の島を、荒らしてる…っ」
「……」
「みんなが死んじゃう…っ!」


気持ち悪いくらい、涙声だ。
我慢しきれなかった涙がぼたぼた落ちていって、見下ろした床に染みついていく。
――この人がだめなら、この人の帽子を借りて、また違うところに行こう。それがだめなら、一人ででも島に帰ろう。帰るために必要な帽子が見つかるかはわからないけど、それでも帰る。絶対に。

ぐずぐずと泣きじゃくって、必死に涙を拭う。拭い切れない。
その内に、お兄さんが大きなため息を吐いた。


「…わかった。いや、わかんねぇけど。でも、いいわ。強い人ってのでおれのとこに来たんなら、気分いいしな」
「…助けて、くれるの…?」
「まぁな。ただ、おれが船長なわけじゃねぇから、一応親父に聞いてからだけどよ」
「親父…?」
「ん。船長って思っとけ」

ぼすりと、お兄さんのテンガロンハットが頭にのせられる。そしてそのまま、わしゃわしゃと頭を撫でられた。


「おれの名前は、ポートガス・D・エースだ。お前は、えーっと…ハッター…」
「フロート」
「フロート。わかった。説明するだけしてやるから、どこから来たか、相手の海賊はどんなか。教えてくれ」

ぽすぽすと、最後に二回頭を撫でたお兄さんは、腰を折って私に視線を合わせた。
声は優しい。顔は真剣。目はまっすぐ。
この人はほんとに……指定した通りの、人なのかもしれない。

口をきゅっと結んで、お兄さんの目を精一杯見つめ返す。突然現れた私の話を聞いてくれたお兄さんだ。私が、いつまでも泣き言いってるわけにはいかない。


「相手の海賊は…よく、覚えてないです。でも、おれは賞金首で…300万ベリー、とか言ってた気がする……場所は、南の海にある、パラソル島」
「……南の海!?」


お兄さんが、勢いよく叫んだ。
口をあんぐり開けて、声が出ない、みたいに。
私も、ぽかんとして首を傾げた。

……え?
- 2 -