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おはなし。


「親父、最短で南の海に行くとしたら、どんくらいかかる?」

でっかいおじいさんに向かって、お兄さんが言う。周りには体つきの良いおじさんがいっぱいいて、思わずお兄さんの後ろに隠れた。連れられてきた部屋は、なんだか空気が怖い。
お兄さんが尋ねた相手はおじいさんだけど、返事はその横にいたおじさんからきた。


「……最短っても、どうだろうねい。天候にもよるが、数ヶ月かかるかもしれないよい」
「数ヶ月…」
「エース。それよりまず先に、言うことはねぇのかい」

ちらりと、おじさんの視線が私に向けられる。その目は明らかに警戒を示していて、また私はお兄さんの後ろで縮こまる。ゆっくり周りを見てみれば、他のおじさんたちも見てきてる。いいや、睨んでる、に近いかもしれない。
最後に、お兄さんの背中から、お兄さんの顔を伺う。見えはしないけど、後ろ手に頭をぽんぽんとされた。それに少し、安心する。


「こいつは、フロート。さっきおれの帽子から出てきた」
「帽子?」
「そういう能力らしい。なんでも、帽子使って移動したりできんだと」
「能力者か…」

またおじさんたちが、私を見る。さっきよりも一層、空気が怖くなった気がした。

「こいつの島は南の海にあって、逃げてきたらしい。海賊に荒らされて、こいつの村のやつらが危ねぇって。助けてくれるやつを探して、たどり着いたのがおれのとこだった。合ってるよな?」
「は、はい!」


勢いよく、頷いた。
おじいさんもおじさん達も、何も言わない。


「……親父。縁もゆかりもねぇけど、こいつの話がほんとかどうか、確証ねぇのもわかってるけど。…助けてやりたい」
「……」
「難なら、おれが一人で行ってもいい。許可をくれ」


お兄さんも、おじさん達も、真ん中にいるでっかいおじいさんを見つめる。私もその視線にならって、おじいさんを見た。
目があった。見つめ返された。その目をみて、無性に…力が、沸いた気がして。


「っお願いします…ッ!」


お兄さんの後ろから飛び出して、頭を下げた。
そのまま下げ続けて、無言が続く。誰も何も言わない。さっきのお兄さんの時よりも、ずっと怖い沈黙。
やっと聞こえた声すらも、随分、怖い言い方をしていた。


「…ここは新世界だ。南の海まで行くんなら、相当時間がかかる…お前の島がどうなってるか、わからねェぞ」
「…はい」
「もしかしたらもう手遅れかもしれねぇ。むしろ、その可能性の方が高い。おれ達も戻るのに時間を取られる」
「……」
「それでもお前は、まだおれ達に頼むか」


頭をあげる。
もう一度交えた視線に、まっすぐ見てくる目に、私もまっすぐ返した。


「はい」


よくわからないけど。
大丈夫だって、気がしたから。
私の帽子は、間違った場所になんか運ばないって、信じてるから。
周りの目が怖くたって、それくらい頑張れると思った。

「…グララララ!」
「!?」

突然響きわたった不思議な笑い声に、びくりとして驚く。
そこから次第に空気が和らいでいって、怖い顔していたおじさんたちが、呆れたように息を吐いていく。

「マルコ、今すぐ進路を変更しろ。急に南の海で酒が飲みたくなった!」
「…親父、酒は駄目だよい。せっかく楽な海に行くんなら、療養しろい」
「その辺はサッチの飯でバランスが取れる。サッチ、腹が減ったな…何か作れるか?」
「そりゃあもう、親父の頼みなら!」

繰り広げられる会話についていけず、え?え?ときょろきょろしていると、お兄さんがばしん!と背中を叩いてきた。何も構えていなかったから前によれて、むせてしまう。お兄さんが、悪い、と謝ってくれたけど、その声は楽しそうだ。
…これは、もしや。


「…いい、の…?南の海、行ってくれるの?あいつら、追い出してくれるの?」
「フロートって言ったな」
「はい」
「お前、故郷が好きか。人に自慢できるくらい、好きか」
「とっても」
「グララララ!そこまで言うなら、見てみたくなる。邪魔するやつらがいるなら、受けてたつ。それだけだ」


優しい目が向けられた。なんだかこの人はとっても、安心する。勇気が出る。

どうか、強い人のところへ。出来ればそんじょそこらの海賊なんかすぐやっつけられるような、それでいて私の頼みをすぐ引き受けてしまうお人好しな人のところがいい。あんまり利益を求めないと、もっといい。


そうしてほんとに、来てしまった。
私を助けてくれる、人のところへ。
私の頼みを聞いてくれる、人達のところへ。



「っおじいさんありがとう!!」


全力で叫ぶと、おじいさんがでっかい声で、どっと笑った。
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