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ごはん。


「好き嫌いある?」
「…魚貝類が、こわいです」
「あはは、こわいときたか!」

原型なかったら食える?という質問に、一応、と返す。それに頷いたおじさんが、私の頭をぐしゃぐしゃ撫でてから、キッチンに行ってしまう。
サッチ、おれにも!なんて叫ぶお兄さんに、お前はだめ!なんて声が返ってきて、少し笑えた。

「あの、お兄さん」
「おれ?エースでいいぜ」
「じゃあ、エースさん」
「おう」
「ほんとに、良かったんですか」

トントン拍子にことが進んでいて、逆にこわくなってきたのだ。新世界というものを知らなかったけど、話を聞く限り偉大なる航路の中だと言うのはわかった。そんな遠くて、危ないところにいるのかと思うと同時に、そんなところにいるのに、南の海まで行ってくれるという罪悪感。おじいさんは最初に、「おれ達も戻るのに時間がかかる」と言っていた。おじいさんの横にいたおじさんも、数ヶ月かかると言っていた。迷惑にも程がある。情にも、程がある。
お兄さんが、んーって、唸る。

「そりゃあ、おれ達も海賊だ…普通なら、ここまできて引き返しはしねぇ」
「お兄さんたち、海賊だったの!?」
「言ってなかったか?おれ達は、白ひげ海賊団。船長は白ひげことエドワード・ニューゲート」

まさか、親父を知らなかったのか?と驚くお兄さんに、私が驚く。勢いできていたとはいえ、海賊に海賊退治をお願いしたなんて……ばかじゃないか。
さぁっと、血の気がひく。
考えてみれば、私が願った内容に海賊じゃないこと、なんて言ってない。海賊のところへ行くなんて、微塵も考えてなかった。
条件の一致も、おじさんたちがやけに体つきよくて、こわい顔してる理由も、わかった。

「海賊…なん、ですか……」
「…こわいか?」

お兄さんが、ほんの少し悲しそうに言う。それにはっとして、ぶんぶんと首を振る。


「お兄さんたちを信じるって、きめた!こわくない!」


どちらにせよ、私には道がない。
一瞬の恐怖を吹き飛ばすように言えば、お兄さんもよし、と頷いた。

「おれもお前を信じるぜ」
「はい!」
「でな、さっきの話だけどよ……おれ達は海賊でいま新世界にいるけど、でも親父は、海賊王になる気はないんだと」
「海賊王」
「流石にそれくらいはわかんだろ?」
「はい」
「ん。…で、親父も歳だ。療養して欲しいのはほんと。おれ達も楽な海に行けたほうが嬉しいんだ。その方が親父の負担にならねぇから」
「…そんなによくないんですか?」
「病気の話はおれもよくわからねぇが、たぶんな」

深刻なお話に、なんて返していいかわからない。じゃあちょうど良かった、なんて図々しくも思えない。
大変な時期に、きてしまったのかもしれない。そう思うと、おじいさんに謝りたくなった。でもその謝罪もきっと、検討違い。

「…そんな顔すんなよ。おれは南の海って聞いて、良かったと思ってんだ」
「……でも」
「療養のためとか言ったら、親父は絶対行かない。そこに舞い込んできたお前の話を、むしろおれが利用した。感謝するのは、こっちの方だ」
「……」
「それによ、おれも南の海には行きてぇんだ。生まれたのがそこなのに、全然行ったことねぇからさ!」

だからお前もおれ達を利用しろ。
そう言うお兄さんに、私もいまは、頷くことにした。そうする以外の反応が、思いつかなかった。
その直後、ばん!と机にお皿が乗る。びっくりして顔をあげると、おじさんがにかっと笑っていた。

「はいはいフロートちゃん!サッチさん特製の、ツナパスタよ!!」
「あっ、おれの分ねぇじゃん!」
「お前はだめって言っただろうが!」

タイミングよく出されたごはんに、さっきまでの空気が一気に飛んでいく。
美味しい匂いがあたりに漂って、ぐう、と情けない腹の音が鳴った。

「あんまさ、気にしてもしょうがないっしょ。今はまず飯食って、休むこと。君の村がどうなってるかは誰にもわからないし、悩んでもどうしようもないことだけど。だからといって君が親父のこと悩んでも、それもどうしようもないでしょ?」
「…はい」
「はいじゃあ飯食って!心配しなくても南の海にはしっかり届けてやるから!」


ずい、とまた寄せられたパスタ。
好戦的に笑うおじさんが、早く早くと急かす。

「…いただきます!」
「おう!」


一口放りこんだパスタは。
すごく、おいしかった。
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