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ふねのひと。


甲板の上で、ぼやっと月を見上げる。夜だけど天気が良い。月が映える。このままなら、明日もきっと晴れるだろう。


「なんでィ、寝ちまったのか」
「あれ、イゾウ」
「月見なら、おれも混ぜておくれやす」


一升瓶をちらつかせながら寄ってくるイゾウに、座るスペースを空けた。今日の月にイゾウの雰囲気。月見で酒盛り。それは結構、合うもんだなァなんて思って笑う。イゾウが気持ち悪ィ顔だな、なんて言って笑い返してきた。

「あのお嬢ちゃん、もう寝ちまったとはァ、相当疲れたんだろうね」
「ん?あぁ、そうだな」
「超人系の能力者だったか。おまえの帽子から出てきたってェのは、また面白いもんだねィ…よく受け入れたもんだよ」
「んー……自分でも、思うぜ」
「あっはっは!そらァおかしい話だな!」

イゾウが豪快に笑う。あんた、きれいな顔してほんとに愉快に笑うよな。何度も見てきているつもりではあるが、未だに慣れない。毎回、びっくりしちまう。そして、そんなに笑う要素がどこにあったのかも、相変わらずわからない。
まぁそういうとこが、おれには面白いわけだけど。

フロートを、助けてやろうなんて思ったのは、本当に自分でも意外だった。いや、助けてやってもいい。そりゃあ、近くに困ってるやついたら、助けてやろうかなと思う時はある。実際、そうやって行動に移したこともある。だけど、事情も得体も知らないやつ、しかもここら随分離れた場所まで、ってのは、ふつうなら無理だ。オヤジのことがあったとはいえ、無茶したかなぁなんて、思ってはいる。


「さっきよ、一応ジョズとマルコと交代で、見張ってたんだよ。寝るとか言ってなんかすんじゃないかって」
「あァ…結果は?」
「爆睡。でもって、泣きながら寝てるし、寝言言ってるしでさ。これ見張ってんのがばかみてーって思って解散した」
「ぶは!そりゃあ間抜けな絵だねェ!」
「おま、笑い事じゃねぇぞ!」

見張り自体は大事なもんだ。おれはあいつの話を信じたし、あいつを助けてやろうとも思ったけど。部外者といえば、部外者なんだ。船に乗せちまった以上は、おれが見てなきゃいけない。良い意味でも、悪い意味でも。


「…あのよォ、エースくん?」


イゾウが、ちらりとおれを見たあと、そこから視線をずっと前にしながら言う。


「おまえの事情も生い立ちもおれ達は知らないし、聞きもしねェさ。だけど、おまえがあのお嬢ちゃんを気にかけてる理由ってェのはそれじゃァねぇかと、おれは思ってる」
「? おれが?」
「勘だよ、勘。おまえほどじゃねェが、おれも勘は、冴えてるほうだぜ」

イゾウが、にひひと笑う。だからその顔でそれ、やめろよと言いたくなるけど、まぁ、もう、いっか。
イゾウの言葉を考える。おれの生い立ちとあいつ。なんの関係もねぇ気がするけど、強いていうなら産まれた海が同じだ。それだけしか思い浮かばねぇが、それがなんかあるんだろうか。確かに、おれにとって南の海は、特別といやぁ、特別な海ではあるけど。
別に、いっかなぁ。
おれもよくわかんねェけど、勘だし。理由探したところで、結局は勘で大丈夫だと思ったんだろうな。
正当化する理由なんて、あとで見つかるだろう。


「明日は、宴かなぁ〜」
「あァ、サッチが唸ってたしねィ。今日寝ちまったんだから、明日だろうよ」
「いしし!そいつぁ楽しみだ!」
「そうだなァ。おれもあのお嬢ちゃんに、挨拶しないとな」
「数ヶ月は、長いもんな。色々教えなきゃいけねぇ」
「……ぶっは!!」


突然吹き出したイゾウに、なんだよ?と返したが、イゾウはツボに入ったらしく抜け出せない。やっと収まりかけたあたりで、いやいや気にするな、なんて言われて、おれとしてはしっくりこない。
しばらく楽しめそうだ、なんて呟く声まで聞こえてくるものだから、おれはふて腐れて、手にあった酒を一気に飲み干した。
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