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のめやうたえ。
白ひげさん家は、規模がでかい。
最初の1日でわかったことはそれだ。人数が多い。これでみんな家族だと言うのだから、もう大家族の域を越えている。なんてこった。人類皆兄弟みたいな感じじゃないか。…やっぱちょっと違う気がする。
「おいフロート、酒飲めるか!?」
「そんな若い内から、飲めませんっ!」
「いける!」
「いけませんっ!」
がやがやとうるさい甲板の上で、精一杯声を張り上げる。正直、今の言葉が誰から来たのかもわからない。朝起きてから唐突に始まった宴は、日が暮れるにつれて騒がしさを増していた。あと参加人数も、増えていっている。最初の内は話しかけてくれる人の名前を覚えようとしてたけど、もう、ここまでくると無理。そしてめんどくさい。じっくり覚えていくことにした。
笑い声がそこら中から聞こえてきて、木でてきたコップがぶつかる音もたまに聞こえる。こんなに騒がしい飲み会は初めてなので、やっぱり正確な言葉で「宴」なのだと思う。私は何もしてないけど、ここにいるだけで楽しい。
「あらあら、お嬢ちゃんよォ…やっぱり遠慮しちまってる」
「えっ」
「どーも。おれはイゾウってぇんだ」
ん、と差し出されたコップに、私も自分が持っていたコップを近づける。こつん、なんて軽めに当てられた音がして乾杯。イゾウさん、はそのままコップの中身を飲み干した。
……きれいな、人だなぁ。
「おねーさん、勇ましい飲み方しますね」
「っぶふ!!」
「え、ちょ、おねーさん!?大丈夫!?」
「げほっ…ちょ、ちょっとお嬢ちゃん…っ」
ごほごほと噎せたおねーさんの背を擦る。周りの人もびっくりしたのか、一時的に視線が集まった。
真ん中あたりでお酒をがぶ飲みしてたエースさんが、様子に気づいて寄ってくる。
「なんだよ、フロートなんかしたか?」
「あの、お兄さん。勇ましい飲み方しますねって言ったら噎せちゃって…」
「はー…や、よくわかんねェけど、ツボったんじゃねぇの。イゾウ、よくわかんねぇとこで笑うし」
「そうなんですか?」
「…や、ちょっと、待てよお二人さん」
ふうと息を吐いて落ち着いたおねーさんが、お兄さんに向き直る。違うのか?ってきょとんとするお兄さんに、違わねぇけど、という前置きが入っておねーさんが口を開いた。
「ツボには入った。入ったけどよ、ちょいとばかし正確じゃない」
「なんだよ?」
「あのな、このお嬢ちゃんは今『おねーさん、勇ましい飲み方しますね』ってぇ言ったんだ。そりゃァ吹いて噎せるだろ?仕方ないと思わねェかィ?」
「……おねーさん?」
……え?
二人のやり取りに集中していた視線が、一斉に私に向けられる。
動揺する。えっ、えっと焦りながら、何か失言があったのかとおねーさんに向き直る。
「ごめんなさい、なんか失礼なこと言いましたか?」
「ぶっ……、いーいや?褒め言葉だと思っておくさ…けども、もう一回同じセリフ、いいかィ?」
「? …おねーさん、勇ましい飲み方しますね?」
「…ぶふっ!」
吹き出して、くつくつと笑い始めたおねーさんは、その内あっはっは!と大声で笑い出す。周りの人達もそれに感化されたのか、伝染して徐々に徐々に笑いが大きくなっていった。
「……もうっ。なんですかお兄さん!」
「エースでいいっての…つうかお前、それイゾウに使ってやれ」
「え?」
「いやいやエース!こいつァ気に入ったぜ!おねーさんと呼んでくれ!」
「悪のりすんなよ気持ち悪い!」
良い加減わからないともやもやする。
半ば自棄になりながら説明を求めると、お兄さんがばつの悪そうな顔をした。なんですか、ともう一度問い詰める。
「……あのよ…こいつ、男」
「……ん?」
「だから、男」
「誰が?」
「イゾウが」
「……うそだっ!?」
ばっ!とおねーさん、もといイゾウさんを振り向けば、まだ爆笑していた。今の会話がまたツボに入ったらしい。
う、うそだろ…確かに男っぽいけれど、こんなきれいなひとが男なわけないじゃないか…!
「あー…おっかしいねィ、お嬢ちゃんよ!」
「どう見てもおねーさんですよ!?」
「男だって。なんなら脱ぐかい?」
ちらりと、裾に手がかけられる。色っぽい。大人っぽい。なんだか見てはいけない気がして、わーー!っと叫ぶ。イゾウさんがまたおかしそうに笑った。
変態かあなたはっ!
「最初に言っただろう、お嬢ちゃん。おれは、イゾウってぇんだ」
「…おれ」
「そ。おれ、ね。まぁなかなか印象的な出会いにはなったからァ、おれのことは忘れないだろォよ」
「忘れませんとも…」
「ぶは!良ーい顔!」
心がどんどん沈んでく。とんでもない失態だ。みんなが笑っていたのも当然だ。
ずーんと沈んでいれば、横からコップにジュースが足された。反射的に顔をあげれば、また随分きれいな、そして楽しそうに笑うイゾウさんが目に入った。
「これからよろしく頼むよ、フロートちゃん」
乾杯、とまた小さくコップが当てられて。
それを見ていた周りから、大きなかんぱーい!という声が響き渡った。
…なんだかなぁ。
勢いで、コップの中身を飲み干す。
さっきは甘く感じたオレンジジュースが、なんだか苦く思えた。
- 7 -
最初の1日でわかったことはそれだ。人数が多い。これでみんな家族だと言うのだから、もう大家族の域を越えている。なんてこった。人類皆兄弟みたいな感じじゃないか。…やっぱちょっと違う気がする。
「おいフロート、酒飲めるか!?」
「そんな若い内から、飲めませんっ!」
「いける!」
「いけませんっ!」
がやがやとうるさい甲板の上で、精一杯声を張り上げる。正直、今の言葉が誰から来たのかもわからない。朝起きてから唐突に始まった宴は、日が暮れるにつれて騒がしさを増していた。あと参加人数も、増えていっている。最初の内は話しかけてくれる人の名前を覚えようとしてたけど、もう、ここまでくると無理。そしてめんどくさい。じっくり覚えていくことにした。
笑い声がそこら中から聞こえてきて、木でてきたコップがぶつかる音もたまに聞こえる。こんなに騒がしい飲み会は初めてなので、やっぱり正確な言葉で「宴」なのだと思う。私は何もしてないけど、ここにいるだけで楽しい。
「あらあら、お嬢ちゃんよォ…やっぱり遠慮しちまってる」
「えっ」
「どーも。おれはイゾウってぇんだ」
ん、と差し出されたコップに、私も自分が持っていたコップを近づける。こつん、なんて軽めに当てられた音がして乾杯。イゾウさん、はそのままコップの中身を飲み干した。
……きれいな、人だなぁ。
「おねーさん、勇ましい飲み方しますね」
「っぶふ!!」
「え、ちょ、おねーさん!?大丈夫!?」
「げほっ…ちょ、ちょっとお嬢ちゃん…っ」
ごほごほと噎せたおねーさんの背を擦る。周りの人もびっくりしたのか、一時的に視線が集まった。
真ん中あたりでお酒をがぶ飲みしてたエースさんが、様子に気づいて寄ってくる。
「なんだよ、フロートなんかしたか?」
「あの、お兄さん。勇ましい飲み方しますねって言ったら噎せちゃって…」
「はー…や、よくわかんねェけど、ツボったんじゃねぇの。イゾウ、よくわかんねぇとこで笑うし」
「そうなんですか?」
「…や、ちょっと、待てよお二人さん」
ふうと息を吐いて落ち着いたおねーさんが、お兄さんに向き直る。違うのか?ってきょとんとするお兄さんに、違わねぇけど、という前置きが入っておねーさんが口を開いた。
「ツボには入った。入ったけどよ、ちょいとばかし正確じゃない」
「なんだよ?」
「あのな、このお嬢ちゃんは今『おねーさん、勇ましい飲み方しますね』ってぇ言ったんだ。そりゃァ吹いて噎せるだろ?仕方ないと思わねェかィ?」
「……おねーさん?」
……え?
二人のやり取りに集中していた視線が、一斉に私に向けられる。
動揺する。えっ、えっと焦りながら、何か失言があったのかとおねーさんに向き直る。
「ごめんなさい、なんか失礼なこと言いましたか?」
「ぶっ……、いーいや?褒め言葉だと思っておくさ…けども、もう一回同じセリフ、いいかィ?」
「? …おねーさん、勇ましい飲み方しますね?」
「…ぶふっ!」
吹き出して、くつくつと笑い始めたおねーさんは、その内あっはっは!と大声で笑い出す。周りの人達もそれに感化されたのか、伝染して徐々に徐々に笑いが大きくなっていった。
「……もうっ。なんですかお兄さん!」
「エースでいいっての…つうかお前、それイゾウに使ってやれ」
「え?」
「いやいやエース!こいつァ気に入ったぜ!おねーさんと呼んでくれ!」
「悪のりすんなよ気持ち悪い!」
良い加減わからないともやもやする。
半ば自棄になりながら説明を求めると、お兄さんがばつの悪そうな顔をした。なんですか、ともう一度問い詰める。
「……あのよ…こいつ、男」
「……ん?」
「だから、男」
「誰が?」
「イゾウが」
「……うそだっ!?」
ばっ!とおねーさん、もといイゾウさんを振り向けば、まだ爆笑していた。今の会話がまたツボに入ったらしい。
う、うそだろ…確かに男っぽいけれど、こんなきれいなひとが男なわけないじゃないか…!
「あー…おっかしいねィ、お嬢ちゃんよ!」
「どう見てもおねーさんですよ!?」
「男だって。なんなら脱ぐかい?」
ちらりと、裾に手がかけられる。色っぽい。大人っぽい。なんだか見てはいけない気がして、わーー!っと叫ぶ。イゾウさんがまたおかしそうに笑った。
変態かあなたはっ!
「最初に言っただろう、お嬢ちゃん。おれは、イゾウってぇんだ」
「…おれ」
「そ。おれ、ね。まぁなかなか印象的な出会いにはなったからァ、おれのことは忘れないだろォよ」
「忘れませんとも…」
「ぶは!良ーい顔!」
心がどんどん沈んでく。とんでもない失態だ。みんなが笑っていたのも当然だ。
ずーんと沈んでいれば、横からコップにジュースが足された。反射的に顔をあげれば、また随分きれいな、そして楽しそうに笑うイゾウさんが目に入った。
「これからよろしく頼むよ、フロートちゃん」
乾杯、とまた小さくコップが当てられて。
それを見ていた周りから、大きなかんぱーい!という声が響き渡った。
…なんだかなぁ。
勢いで、コップの中身を飲み干す。
さっきは甘く感じたオレンジジュースが、なんだか苦く思えた。