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おうじさま。


「お前たち、ばかじゃないの!?」


罵声が聞こえる。頭に響く。痛い。くらくらする…。
思わず耳を塞げば、ごめんねという声が聞こえた。優しい声だ。その声の持ち主をぼーっとしながら見るけど、誰かわからなかった。多分、初めて会う人だ。

「いや、ハルタ。飲ませたのおれじゃねーし」
「おれもついうっかり入れちまっただけだよ。悪気なんざねェさ」
「エースはその場にいたし、イゾウはもっとだめだろ!?うっかり、で済まないんだから!」
「まぁ確かに、酒飲んだことない子が一気飲みは、危ないねい。大事になったらどうすんだよい」
「マルコ!もっと言ってやって!」
「よい」

コントのような掛け合いが聞こえてくる。うるさい。気持ち悪い……隣にいたサッチさんが、水を手渡してくれた。すごく心配そうな顔してる。

――そうか。あれ、お酒だったのか。

会話の内容からして多分そう。多分、話してる間にイゾウさんが継ぎ足してくれたやつだ。考えてみればそこから気分が変わったし、それを一気に飲み干した時にはくらあっとした。くそう…何も気にせずに飲んでた…完全に油断してた。

「イゾウさぁんっ!」
「うわっ。ちょっと、酔っぱらいは大人しーく寝てなさいな」
「イゾウ、まず謝るべきでしょうが!」

ちょっとだけむっとして、名前を叫んだ。突然のことだったからか何人かがびっくりしてたけど、その内の一人は駆け寄ってきてくれた。
さっきからエースさんやイゾウさんを怒ってる、知らない人だ。

「初めまして、フロートちゃん。ほんとならもっとちゃんとした形で自己紹介したかったけど、まずは医務室で休もうか」
「…だれ?」
「ハルタです。よろしくね」

サッチ、と声がかかるのが聞こえて、頷いたサッチさんに抱え上げられる。ほんとに医務室に行くらしい。
「マルコ、あと頼んだ」「よい」そんな会話をしたハルタさん、がサッチさんの横を歩く。一緒に来てくれるらしい。なんだか、良い人だなぁ。

「ねぇサッチ、フロートちゃんご飯食べてた?」
「おれは見てないけど、一応食ってはいたらしいぜ。何人かが見てた」
「良かったぁ…じゃあ、空きっ腹に酒ぶっ込んだわけじゃないんだな」

でも君も気をつけなきゃでしょ、とやんわり注意が飛んできた。どうやら怒られるのは、イゾウさん達だけじゃないらしい。
医務室に着いて、ベッドの上に寝かされる。きれいなナースのお姉さんたちが、あらあらと言って出迎えてくれた。パタパタと忙しない。なんだかちょっと、申し訳ないなぁ。


「ごめんね、フロートちゃん」


ベッドの脇に座ったハルタさんが、眉を八の字にして言う。サッチさんも、苦笑いだ。
ぼんやりしながらその様子を見ていたら、あのね、とハルタさんが言葉を続けた。

「はめ外し過ぎたんだよ。確かに、普段もうるさいんだけどね」
「イゾウが朝言ってたけどよ、エースが兄貴みたいなこと言ってやがるーって。おれらもほんと、その通りだと思ってさ」
「君とエースが、兄妹みたいに見えちゃって。そう思うとさぁ、やっぱりおれ達もこう、嬉しくなっちゃうんだよね。しかもここ、海賊船だから。きれいなお姉さんはいても、かわいい女の子ってのは珍しいんだよ」
「そうねー。むさいおっさんが気持ち悪くはしゃいでるわけよ。ほんと気持ち悪い」

なんて言って、また困ったように二人は笑う。
それが、ちょっと…嬉しいなぁ。…とか。
かわいい女の子、なんて言葉は照れるけど。違うよって言いたくもなるけど。でも、きっと。この自称気持ち悪いおっさんたち、は。見守ってくれてるみたいだなぁ、なんて。思ったりしちゃう。
お酒のせいなのか、よくわからないけど。なんだか、目のあたりがじわあっとしちゃう。

布団を頭まで被って顔を隠す。恥ずかしい。
ありがとうございます、と小さく言ってみれば、いーえ、って言うハルタさんの声が聞こえた。
布団越しに頭をぽんぽんされて、それがまた、優しいものだから。


「……いいなぁ」
「ん?」


ハルタさんは、なんだか、すてきだって。
そう思うんだよ。
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