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避けることが出来ないものはやっぱり避けられないけど、ギリギリまで引き延ばそうとしちゃう癖は直らない。


「サッチのばか……!」







spring splice





サッチがうちに様子を見に来て家を出てから、実に三時間が経過してる。
時刻は20時。辺りは暗い。
駅の栄えてない方の出口を少し歩いたところ、電柱も少ないし大きなお店があるわけでもない。そんな通りにある小さな居酒屋からは、わいわいとここら一帯に響き渡りそうなくらい騒がしい声が聞こえてくる。正直言うと入りたくない。というか入っていいかわからない。
ちらりと視線を下に下げる。手の中に収まっているのは黒い携帯。スマートフォンに買い換えたいとはいいながら、愛着があるらしく一向に買い換えてない二つ折り携帯。
サッチの、携帯だ。


「………サッチぃー…」


つぶやいた声は夜の通りに虚しく響く。
一応働いてる先は知っていたから届けにはきてみたけれど、私は少し方向音痴の気がある。ここであってるのかわからない。当然ながら未成年の私はこんなところにも来たことがないわけで、本格的に戸惑ってる。ベリーチキン、なんだもん。

うあああ!と声に出さず足をじたばたする。サッチのばかサッチのばかサッチのばか!なに忘れものしてるのばか!私明日学校なんだからね早く寝たいのに、ばか!


「……なに、してんだよい?」


ガラガラ、きょとん。
ゆっくりと目の前の横引きの扉が開いた。ひ、人が出てきた……!?うわあああ、思いっきり足だんだんしてた!今すぐ逃げ出したい……!けれどもう羞恥と緊張で固まってしまった足は動かない。それから未だに手の中で存在を主張する携帯も、無視出来ない。ううう……サッチめ……。


「……この間の子、かい?」
「……え?」


この声、というか……特徴的な口癖には覚えがあるぞ……?
ちらりと視線を上にあげる。そこには今朝たべた果物……じゃなかった。一度見たら暫くは忘れないであろう髪型と、目をまんまるくして驚いてる人が見えた。
数週間前見たばかりの人。


「てん、ちょー……さん?」
「なんだい、こんな店に何か………あぁ、サッチか」


私の呼び掛けにはガン無視なようです。
けれど察しは大変よろしい方のようで、くるりと顔を後ろに向けて「おいサッチ!」大分厳しい言い方で呼んだ。


「あれ?小春じゃん」
「さっきから扉の前にずっといたよい」
「え、マジで!?危ねぇなぁ、入ってくりゃ良かったのに!」


そんな簡単になんてこと言うんだこの人……!文句しか浮かばない…!
まずサッチのせいでこんなところまで来たんだし、居酒屋に入るのも危ない気がしたんだから仕方ないじゃない。私がベリーチキン、なの知ってるくせに!
なにより店長さんはいつから気づいてらしたんですか……!!

で、どした?なんてサッチはきょとんとした。脳内じゃ色々文句はあるけれど、とりあえず無事にサッチに会えたことには安心したからこれ以上は留めておいておこう。何より早く帰りたい。


「け…ケータイ、忘れてった」
「え?……ほんとだ、なかった!!」


ありがとななんて言ってサッチは携帯を受け取った。よかった、これで帰れる……!今すぐこの緊張と羞恥から逃れたくてそわそわする。


「じゃあ、私、帰るね」
「え?なんで?」


………ん?
さも当然に言うサッチに、またしてもきょとんとしている店長さん。そして話についていけてない私。
…え?つまりは……そういうこと?


「だ……ダメだよ無理だよサッチ!明日学校なんだからね私帰るんだからねベリーチキンなんだからね!!」
「おい……流石に未成年の、何より女の子をこんな時間にこんな店にいれるんじゃねェよい」
「ちょ、冗談だって!!」


二人ともマジになっちゃってもう!
そんなことを言うサッチに、店長さんと顔を見合わせて呆れた。
サッチが言うと冗談に聞こえないんだってば…。


「……けど、よ」


それはもう、嬉しそうに笑って、


「良い店なのは確かだからな。いつか来いよ」
「あぁ、それは保証するよい」



……いつか、ならいいかなぁ。
なんて、ちょっと影響されたり。
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