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アイとは何かと思うモノ


  愛染、前田、乱。新たに加わった三口と、薬研とぼく。やまんばさんは不在。
 にこりと笑って、ぼくは口を開いた。

「さて、なにからおはなししましょう?」



***



 居間に残してきた五人は、大丈夫なんだろうか。そんな心配が少しあった。気のせいか、居間からいやーな感じがするからだ。
 まぁしかし、色々あんだろ。気にしたら負けだ。
 そう思って、居間に残らなかった唯一の刀――山姥切国広に、目を向ける。

「……畳眺めてたのしいか?」
「いや?」

 即答だった。そういうことじゃねぇよ、普通に返事すんな、と一気に疲れが増す。

「説明は俺より、今剣の方が向いてる」
「……意味わかってんじゃないすか」
「俺が写しだから……」
「いや、それは意味わかんねぇわ。なんでそうなった」
「写し……」

 ずーんと落ち込んだように下を向く山姥切国広に、コイツ察しがいいのか悪いのかわけわからんな、と眉間に皺が寄る。
 私の部屋は用がない限り刀剣を招き入れないが、こいつはその用がありそうだった。そういう心当たりがあったから入室を許した。他の五人がいない今なら、言うんじゃないかと思ったから。
 先日、コイツとした交渉……私はまだ、『頼み事』が何かを聞いていない。

「……で、君なんの用なの」
「……用がなければ、アンタの部屋には入れないんだな」
「そりゃあな」
「ああ。そうだろうな」

 こくこく、とゆっくり頷いた彼は、今度は畳ではなく外の庭に視線をやった。何を見ているかはわからない。
 早く本題に入って欲しい気持ちはもちろんあったが、やつにはやつのペースがあるのだろう、と思い、かろうじて待つことが出来ている。本当はこの状況、とても避けたい。
 君と一緒にいる義理はないのに。

「……アンタへの、頼みだが」
「はい」

 視線は庭に向けたままだった。

「……まだ言わなくてもいいか?」
「……うん?」

 庭への視線が斜め下を移動し、また畳へ。目を合わせる気はないらしい。
 言わないなら君、なんでここ来たし……と思わないでもないが、放置せずに申告してきたあたりはえらいと言うべきなのか。頼みを聞きたいわけではないが、うやむやになってから思い出したように行使されるのは、勘弁だしな。
 でも、納得出来ない気持ちもあるので、念のため問いかける。

「なんでですか?それ、頼み聞くまで私は対等じゃないってことになるし、あんま好きくないな」
「元からアンタと俺達は対等じゃない。アンタが主であることを否定しても、審神者であることに変わりはない。俺達を溶かそうと思えば、いつでも溶かせるだろう?」
「……成る程、確かに。口約束が通るような信頼関係ではねぇな」
「ああ。だから俺は、この頼みを、とっておきたい」

 それは暗に、溶かされそうになった時の予防線ということだろうか――それならば、なおさら今宣言しておけばいいのに。
 今ここで、何があっても溶かすな、とかって約束を取り付けてしまえば、ついでに書状でも書かせれば、十分な気がするが……。
 まあ、それをされたら、困るのは私だけど。
 山姥切国広がついと顔をあげ、嫌そうな、泣きそうな。よくわからない顔で、掠れた声を吐き出した。

「……今じゃ、駄目なんだ」

 何が――とは、聞き出せそうにない。
 とかく、タイミングが必要な頼みで、その場の判断と決断が要求されそうなものなんだなとは、理解した。

「アンタにとっては嫌な頼みかもしれない。けど、アンタに危害を加える頼みじゃないのは確かだ」
「嫌な頼みね……」
「アンタは俺達自体を嫌がるからな」
「ああ。そりゃ嫌な範囲も広がるか……判断つきにくいわけっすね」
「ああ。でも、それを抜かしても、アンタは嫌がると思う」

 「だから、」と彼は更に言葉を下げる。
 俯き、フードを握りしめ、顔を隠しながら。

「アンタに……この頼みを聞いてもらえなくても、仕方ないと思っている……だが、聞いてもらえるように、努めるつもりだ」
「……隊長をするにあたって?」
「ああ。……だからアンタは、俺が隊長に相応しくないと思ったら辞めさせてくれて構わないし、俺の頼みも無かったことにしてくれていい。でも、俺の働きが良ければ、……応じて欲しい。判断はアンタに任せる」
「へー。それって、君がどんなに働いても、私は頼み一回聞けばいいの?」
「ああ、それでいい」

 その一回が、重いってことか……めんどくさい頼みだな。
 けど、働きに応じてというのは、悪くない条件だった。だからこそ怖いというのもあるが、断る理由も今は思い浮かばない。
 仕方ねぇなあ、と息を吐き出す。

「いいですよ。確認だけど、ちゃんと働いたかどうかの判断は私がしていいんでしょう?」
「ああ。書状でも書くか?」
「……文字書けんのかよ」
「書けない。字はアンタが書いてくれ。印は血でも、しもんってやつでも……刀身で拓でも取っておくか?」
「刀汚れんなあ。まあでも、いいね。全部お願いしまーす」
「わかった」

 書を書き、私は署名して、山姥切国広も私が書いたお手本を真似して自分の名を書き込み、お互いに血で親指の跡をつけ、加えて意味があるかはわからんが刀を墨につけて拓取っといた。流石に可哀想だから、すぐに手入れをしてやる。まだ慣れないから、手入れは下手だけど。

「……礼を言う」
「現代的に言うと『ありがとう』な」
「あ…………りが、とう……」
「違和感はんぱねぇな」

 つっかえつっかえでつたない。慣れてない感じがもろに出てる。
 でも私もさっきつたない手入れを見せたばかりだから、イーブンだな。と納得しそれ以上は何も言わない。
 今剣達を見に行くと告げた山姥切国広はあっさり部屋を出て行って、振り返りもしない。こいつほんと物分かりがいいなと感心する。
 名残惜しい素振りを見せたら追い出すつもりだった。

 この時点で彼を隊長にした意義は十分にある。が、その考えとは別に、思うところもあって。我慢していた言葉がこぼれる。

 ――ああ、全く、本当に。


「……馬鹿だなあ」

 君がやっていることは、君のためにはならないのに。
 『心』を知らない彼らは、いくら知識で私に勝っていても及ばず、そしてめんどくさく、おそろしい。
 けれど私が言えたことではなく。言う気もなく。

 馬鹿だなと、言える立場でもなかったけど。


「さて……彼らも今まさに悩んでるところか……終わったとこかなあ」

 めんどくさいなあ。
 呟いて、居間の方向に顔を向けた。
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