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道を示す花よ


  ――ぐん、と。何かに強く引かれる感覚。
 突然きた浮遊感に驚き目を開けると、そのまま膝から崩れ落ちた。上手く立てない。
 瞬時に、状況を理解する――人の身体って、ムズカシイ。
 ふわりと揺れるスカートを眺めながら、ちょっぴり落ち込む。……あぁでも、早く立たなきゃ。立って挨拶しないと、きっと主の「ぱそこん」は「ふりーず」したままだ。
 慌てて拙くも立ち上がり、口を開き、深く息を吸った。

「み、」
「……女の子?」

 ひゅ、と吐き出しかけた息を引き止め、固まる。ばっと音のした方へ振り返ると、部屋の入り口のすぐ近くに寄りかかる、女の子。その周辺にまばらに散らばる、五口の刀。

 ――あの子、「刀」じゃ、ない……。

 ごくり。身体が硬直し、心の臓がばくばくいうのがわかった。これって、緊張かな?人の心は得たばかりで、合ってるかはわからない。

「あ、あの……」
「……うん」
「えっと……」

 ど、どうしたらいいんだろう……。
 ぜったい、この人は刀じゃない。それは一目でわかった。でも、でも、なんて聞いていいかわからない。
 もじもじしながら視線をさ迷わせ、でも名乗らなきゃ仕方ないよね、と思い直し向き直る。
 怖じ気付いたら、よくないもんね。

「ボクは……乱藤四郎。粟田口吉光の打った短刀だよ。特徴は、兄弟の中でも珍しい乱れ刃。……どう?結構違って見えるよね?」

 スカートの端をちょこんと持って、微笑みかける。今さらだけど彼女の周りにいる五口の刀の中にはボクの兄弟もいたみたいで、ボクの動作にほっと息を吐くのが聞こえた。
 ……兄弟に対しても、ちょっと緊張するかも。
 どきどきしながら様子を伺っていると、「まぁ、姿は結構違って見えるよね。服とか」と女の子は苦笑いした。そうだ、質問に答えてない!と気づいて、また慌てて手を振り誤解を解く。

「ボク、女の子じゃないよ、主さま!」

 勢い任せに言った言葉に、ハッとして口を塞ぐ。彼女はまだ、何も言ってないのに。
 顔をしかめる彼女に、あぁやっちゃった、と落ち込む。
 ここに主がいるとしたら――それって、良いことじゃないはずなのに。
 涙目になりながら困っていると、五口の刀……その内の二口が、ほらなあ、といった風に彼女を見た。
 あ、あれ……?

「ほら、やっぱりみんないうんですよ、あるじさま」
「主じゃねえよ」
「みつるぎ、あんたの立場って結構複雑だぜ。どう考えても主だし」
「黙れよ」
「……話を進めていいか?」

 はあああ、とわざとらしく盛大な溜め息を吐いた女の子は、布を被った刀に目配せする。
 女の子に口を挟んでいた赤い目をした天狗みたいな子と、多分ボクの兄弟……薬研藤四郎、かな。二口は大人しくなり、布の人は一歩前に出てくる。
 布で隠れてるから、わかりにくいけど。――綺麗な金髪だなあと思った。
 ボクと、おんなじだ。


「俺は、山姥切国広。第一部隊隊長を任されている」
「ここでは、いちばんえらいかたなですよ」
「……、お前も気になっているだろうが、こいつは審神者だ。先日神隠しにあってここに来た。だが、本人は主であることは否定している」
「やる気ないからね。同居人だと思ってくれ。あとみつるぎって呼んでね」
「みつるぎさま?」
「敬称はいらないよ」

 みつるぎ、と掠れるほど小さな声で呟くと、聞こえたらしく「うん」と返事がきた。
 それが何だか、胸がぽかぽかして。頬が緩む。

「みつるぎちゃん、って呼んでもいい?」
「……十八にもなってちゃん付け……中々きつい……」
「十八?みつるぎ、十八歳だったのか?」
「今年で十九だよ」
「へー!」

 「じゃあ二十歳になったら俺っちと酒飲もうぜ」「ふざけんな」という会話にどきどきしながら、じっと様子を伺う。
 ボクの視線に気付いたのか、彼女は「こそばゆいが、さま付けよりはいい」と答えてくれたので、これからはちゃん付けしよう、とまた胸がぽかぽか。

「細かい話は後でこっちの……山姥切国広か今剣か薬研藤四郎に聞いてくれ」
「はい!ぼくのほうが、せんぱいですからね!まかせてください」
「……山姥切国広、頼んだ」
「あぁ」
「あるじさま!?」

 ぼくのことはむしですか!?とぷんぷん怒る刀がかわいいなと思う。 
 けど、何かほんの少し……違和感もあって。

「ところで、乱藤四郎くん」
「なぁに?」
「君、神隠しの原因と帰る方法に心当たりは?」

 ぴしり。
 なんだか、場の空気が固まった気がした。
 え、どうしよう?困って、ちらりと周りの様子を伺う。
 山姥切国広さんと薬研は平然と、さっきから黙ってる赤い髪の短刀と多分もう一口も兄弟……前田かな。彼ら二口は、困惑したように。
 そして、さっきまでかわいいと思っていた今剣が、すっと目を細め、音を出さず口が言葉をかたどり――


「……え、と……みつるぎちゃん、ボク……顕現したばかりで、よくわからなくて……」
「そっか。どーも」
「うん、ごめんね……」

 ぽかぽかしてた胸が、ちくちくする。
 これでいいの?これでよかったの?戸惑いながら今剣を盗み見れば、彼はにこりと笑って、ぴょんと跳ねた。

「さ、なかまがふえましたし、こうりゅうをふかめましょう、あるじさま!」
「やだ。部屋に帰る」
「えー」

 頬を膨らませた今剣は、やっぱり、かわいい幼子に見えるのに。その心は、雰囲気は、目は、やっぱり。

「しかたありません……せつめい、しておきますね」

 笑みを浮かべる口に反して、笑っていない赤い目が、どうにも――怖かった。
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