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アイとは何かと思うモノ


 ――ぼくは、べつにあるじさまに、しゅうちゃくしているわけではない。

 あるじさまがここにいなくたって、ぼくはべつにかまわなかった。
 あるじさまとはなせなくても、それもべつにかまわない。


 でも、なにもかわってないとおもった。


 ひとのみをえたのに、
 ひとのこころをえたのに、
 つたえられるこえがあるのに、
 あいてがいなければ、それはいみがなくて。
 つかわれず、かざられたりするのと、なにがちがうんだろうって。
 それどころか、かざられていても、だれもみにこないなら。
 ぼくには、なんのいみがあるんだろう。

 ただ、そうおもっただけだった。



「……頭おかしいんじゃないの」

 あるじさまはかみかくしにあってるけど、かえすきはないし、てだすけもしない。
 そう伝えたぼくに、乱は下唇をかみ、立ち上がった。握られていた拳は、震えていた。

「主様は……みつるぎちゃんは、人間なんだよ!?ここにいて良いわけないし、それって神様としてどうなの!?というか、刀として、おかしいじゃん!!」
「おい、乱!」
「何で止めるの!?だいたい薬研が二人に味方するのも、ボク、わかんないよ!」
「乱、少し落ち着きましょう!」
「なに!?前田もあっち側なわけ!?」
「そういうことではありません!まず話を全部聞くべきだと言っているんです!」

 ぐ、と堪えるようにまた唇をかんだ乱が、渋々といったように座った。
 隣に控えていた薬研と前田が、ほっと息を吐く。

「……乱の言うことも、わからんでもないがよ」
「わかんなきゃおかしいよ」

 薬研の言葉に、ぴしゃりと言葉が刺される。前田が乱の背をさすった。

「……すみません、話を続けてください。薬研の意見も聞きたいです」
「ああ。俺っちもそうしたいからな」

 よいしょ、と正座からあぐらに座り方を変えた薬研が、一瞬ちらりとぼくを見て、目が合うと肩を竦めた。
 ぼくはただ、にこりと微笑んでおく。

「俺っちは別に、難しい理由があるわけじゃない。ただそこにみつるぎがいたってだけだ。いなくていいとは言えねぇし、居た方がうれしいのも確かだったからな。だから何もしない。普通に接してる」
「でもそれって、みつるぎちゃんは望んでないじゃん」
「望んでないって、なんで言い切れるんだ?」
「だって帰り方聞いてきたじゃん……ッ!!」
「ならお前は、何でさっき答えてやらなかったんだ」
「それは……!」

 押し付けるかのように視線を向けられ、ぼくはまた微笑んだ。
 乱につられた薬研もぼくを見ていたけど、薬研は苦笑していた。

「ぼくがしせんをおくったからですか?でもぼくは、いうな、なんていってません」
「で、でも、言えるわけないじゃん!何か理由があるのかなって思ったし……!」
「りゆうがあったら、よかったんですか?乱のなかでは、やってもいいかみかくしと、やってはいけないかみかくしがあるんですか?」

 とてもふしぎなりろんです、と続ければ、乱の顔がくしゃりとくずれた。
 いいとか、わるいとか、そういうものじゃない。ただ『そうした』。そして、『かえるきがない』。
 ぼくの意見は、それだけだった。最初からわかってもらう気もない。わかってもらえるなんて、思ってもない。

「……帰る方法は、どちらにせよ神隠しをした本人にしかわからないでしょう。薬研の言うことも一理あります……どうしようもないのかもしれません……。普通に過ごすというのも、わるいことではないと思います」
「まあ、まよっていいとおもいますよ。かみかくしをしたかたながおれたら、あるじさまはかえれませんし。ぼくたちがあらそって、いいことはありません」

 乱はついに、言葉を発しなくなった。
 無理やりな言い聞かせ方だというのは、わかっていた。それでもぼくは、『かわらない』。
 ぼくは、ぼくにこういうことを言わせるあるじさまに、ぼくに、よくわからない『こころ』を与えたあるじさまに。
 確かめたいことがあるから。

「さて、前田と乱とはおはなししましたが、愛染はどうしますか?」
「ん?俺?俺は、まあ悪くないと思うぜ」
「……あんがいあっさりしていますね」
「だってこれ、そうするしかねぇんだろ?」

 それはまあ、そうですが。
 薬研と同じようなタイプなのかなと、様子を伺う。「だって、」愛染はきょとりした顔で目を瞬き、この場にいた全員を眺めた。

「刀としちゃ主のためを思うのが当然だけど、みつるぎは主じゃねぇんだろ」
「――え。」

 ぱちり。今度はぼくが瞬く。

「主でないなら答えなくてもいいし、そんで俺達ももうただの刀じゃない。だって、『心』があるからさ。みつるぎが主じゃないっていってんなら、お互い『心』のままに動いても仕方ないってことだろ?」

 違うのか?
 何食わぬ顔で言う愛染に、少しの間、声の出し方を忘れ、
 そうですねと、肯定を返した。
 とても無意識で、うわべだけの、肯定。息がただ、すべっただけのような。

 なにか――もやっとした、きがした。


「あ、でも一ついいか?」
「……なんですか?」
「神隠しは、誰がしたんだ?」

 敵意も何もない、ただ不思議そうな視線。
 愛染の言葉に面食らって固まっていたのはぼくだけではないようで、ほかの刀も先ほどの言葉に虚をつかれたようだったけれど。今の問いにははっとしたらしく、勢いよくぼくを見つめてきた。
 でもぼくのほうは。この問いは、予想範囲内だったから。

「さあ?」


 ――ぼくには、およばぬはなしだ。

 わざとらしく微笑んで。
 ぼくはこの『せつめい』を、終りにした。
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