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その寂しさを食らいたい
ぱちり。目を覚ます。
まだふよふよと浮いているような、そんな拙い意識の中で、俺っちは主よりも先に赤い瞳の短刀に話しかけられた。主はどうやら俺っちを鍛刀してすぐ床についたらしい。
その刀は――随分と物騒な刀だった。
いや、刀だから、物騒なのは当然なんだろうけど。そうじゃなくて。モノとしての物騒さじゃなくて。
随分物騒な――心を、持っていた。
「か……みかくし……?」
「はい!」
「かみかくしって……えっと……」
「あのかみかくし、です」
「……あのかみかくし、だよな」
「はい!」
にこり、と笑った刀は、最初こそ友好的に思えたものだが、少し言葉を交わしてみればもう、今じゃその赤い瞳が怖くて仕方ない。
薬研藤四郎。
他の本丸ではアニキ扱いされているとは聞いていても、今ここにいる俺っち自身は、そんな質ではなかった。
(……付喪神だってのは、知ってたんだが……)
なにぶん、神である自覚は、ない。神隠しと言われても、ピンとこないのが現実だ。
困って、ちらりと赤い瞳の持ち主――今剣の左隣を見てみれば、布を被った刀が畳をぼんやり眺めていた。
そういえば、まだ名前を聞いてない。
助けてくれそうにはなかったが、しかし、話を逸らすことは出来るかな。そんな僅かな希望を抱いて、そのボロ布を被った刀に体を向ける。
「アンタ、初期刀だろ?こんなん言わせてて良いのか?」
「あー!こんなんってなんですかー!」
頬を膨らませながら、今剣がぷりぷり怒る。そんなことをされても、俺っちにはもうあんたが怖くて仕方ないんだが……というのは言葉に出さず、この場において一番発言力のありそうな目の前の刀の様子を伺う。
山姥切国広だ、と小声で名乗ったそいつは、畳に向けていた視線をゆっくりと上げ、俺っちを見た。
もう、交わったその目が、答えを物語っていたけれど、
「……別に、どうも思わない。反対したところで、もうどうしようもない」
「……そりゃあ」
そうなんだろうけどよ……。
ごにょごにょと情けなくそう言えば、山姥切国広は顔を横に向け、縁側の先、庭を眺め出した。
無関心か、あんた。
「やまんばさんは、いつもこんなかんじですよ」
「……刀自体が、そんななのかね」
「んー、どうでしょうね。ぼくたちは、ほかのかたなをしりませんから」
「演練、ってのがあるんじゃねぇのか?」
「ありますけど、あるじさまは、かんしんがありませんから」
あるじさまは、ぼくたちにきょうみがありません。
怖い怖いと思っていた赤い瞳に影が落ちる。それが何でなのかは、得たばかりの心じゃわからなかったけれど、悪い気はしなかった。
それどころか、つられて自分の胸が絞められるような、そんな、言い様のない苦しささえ感じる。
(……どうしたもんかねぇ……)
うーんと、ひとつ唸ってみるも何も考えられない。
俺っちには神隠しの原理もやり方もわからなければ、こいつらがどういう状況だったのかも知らない。神隠し……というからには、やっぱりこの二口の内どちらかがやっちまったんだろうけど、それが無意識なのか故意なのかもわからない。
困った果てに、行き着いたのは。
「……とりあえず、会えるんなら会いてぇな、大将」
「……ですよね〜」
ぱっと顔をあげて、にんまり笑った今剣に、少しだけ悔しくなった。
――普通は会えないんだから、会いたいって思うのは普通だろ……とか。
そう思っちまった俺っちは、最初からこいつらにどうこう言える立場じゃなかったんだな……とは、後で気付いた。
- 4 -
まだふよふよと浮いているような、そんな拙い意識の中で、俺っちは主よりも先に赤い瞳の短刀に話しかけられた。主はどうやら俺っちを鍛刀してすぐ床についたらしい。
その刀は――随分と物騒な刀だった。
いや、刀だから、物騒なのは当然なんだろうけど。そうじゃなくて。モノとしての物騒さじゃなくて。
随分物騒な――心を、持っていた。
「か……みかくし……?」
「はい!」
「かみかくしって……えっと……」
「あのかみかくし、です」
「……あのかみかくし、だよな」
「はい!」
にこり、と笑った刀は、最初こそ友好的に思えたものだが、少し言葉を交わしてみればもう、今じゃその赤い瞳が怖くて仕方ない。
薬研藤四郎。
他の本丸ではアニキ扱いされているとは聞いていても、今ここにいる俺っち自身は、そんな質ではなかった。
(……付喪神だってのは、知ってたんだが……)
なにぶん、神である自覚は、ない。神隠しと言われても、ピンとこないのが現実だ。
困って、ちらりと赤い瞳の持ち主――今剣の左隣を見てみれば、布を被った刀が畳をぼんやり眺めていた。
そういえば、まだ名前を聞いてない。
助けてくれそうにはなかったが、しかし、話を逸らすことは出来るかな。そんな僅かな希望を抱いて、そのボロ布を被った刀に体を向ける。
「アンタ、初期刀だろ?こんなん言わせてて良いのか?」
「あー!こんなんってなんですかー!」
頬を膨らませながら、今剣がぷりぷり怒る。そんなことをされても、俺っちにはもうあんたが怖くて仕方ないんだが……というのは言葉に出さず、この場において一番発言力のありそうな目の前の刀の様子を伺う。
山姥切国広だ、と小声で名乗ったそいつは、畳に向けていた視線をゆっくりと上げ、俺っちを見た。
もう、交わったその目が、答えを物語っていたけれど、
「……別に、どうも思わない。反対したところで、もうどうしようもない」
「……そりゃあ」
そうなんだろうけどよ……。
ごにょごにょと情けなくそう言えば、山姥切国広は顔を横に向け、縁側の先、庭を眺め出した。
無関心か、あんた。
「やまんばさんは、いつもこんなかんじですよ」
「……刀自体が、そんななのかね」
「んー、どうでしょうね。ぼくたちは、ほかのかたなをしりませんから」
「演練、ってのがあるんじゃねぇのか?」
「ありますけど、あるじさまは、かんしんがありませんから」
あるじさまは、ぼくたちにきょうみがありません。
怖い怖いと思っていた赤い瞳に影が落ちる。それが何でなのかは、得たばかりの心じゃわからなかったけれど、悪い気はしなかった。
それどころか、つられて自分の胸が絞められるような、そんな、言い様のない苦しささえ感じる。
(……どうしたもんかねぇ……)
うーんと、ひとつ唸ってみるも何も考えられない。
俺っちには神隠しの原理もやり方もわからなければ、こいつらがどういう状況だったのかも知らない。神隠し……というからには、やっぱりこの二口の内どちらかがやっちまったんだろうけど、それが無意識なのか故意なのかもわからない。
困った果てに、行き着いたのは。
「……とりあえず、会えるんなら会いてぇな、大将」
「……ですよね〜」
ぱっと顔をあげて、にんまり笑った今剣に、少しだけ悔しくなった。
――普通は会えないんだから、会いたいって思うのは普通だろ……とか。
そう思っちまった俺っちは、最初からこいつらにどうこう言える立場じゃなかったんだな……とは、後で気付いた。