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伝えることのない葉


 腹具合そこそこ。健康状態万全。刀装は先ほど山姥切国広が作ったものが三つ。わくわくそわそわした子供が二人と、ぼんやりしてる青年が一人。
 あー、めんどくせえええ。隠す気なく唸り、彼らを見据える。子持ちの親の気分。

「刀装持ちました?」
「けいきへいとく、けいほへいじょう、けいほへいなみ……ぜんいんもちました!」
「行き先は維新の記憶、函館でいいんだよな?大将」
「みつるぎだっつの。場所はそこでいいよ。様子見したいし、レベル低いし」
「どこまで進めばいい。アンタが判断してくれ」
「この端末見てりゃいいんですよね?勝手がわかんねえからな……刀装剥がれたら戻ってきて下さい。大丈夫そうなら最後まで進む。索敵も任せた」
「わかった」

 しっかり見ててくれよ、みつるぎ!とウィンクしてきた薬研に睨みをきかせる。なんだお前本当に子供か……薬研のウィンクにおおっ!と声をあげた今剣も真似してウィンクしてきたが、こちらはしっかり両目を瞑っていた。ほら薬研、子供の正しい反応はこっちだ、一体君のませ具合は何なの。……ちょっぴりもやっとした。
 がこん、と何かの外れる音がして、目の前の扉が開いていく。私が昨日頭をぶつけた石造りのでかい扉。曰く、正門というらしい。ゴゴゴとうるさい音を鳴らしながら眩い光を放つ扉は過去に繋がっているようで、彼らはここから出陣していくらしかった。

「……山姥退治なんて、俺の仕事じゃない」

 ぽつり、と呟き扉の中に入っていった山姥切国広と、それに肩を竦める今剣と、不思議そうな薬研。あぁ、今のはあの子の地雷かな。思いつつガン無視。
 子供組に「昼飯つくって待ってるよ」とだけ伝え、ひらひらと手を振る。いつ帰ってくるかなんて、わからないけど。待つことにしよう。

 ――どことなく、寂しいものだな。

 消えていく背中を見送り、ほぅと息を吐く。途端に見えない何かに追い詰められたような、冷や汗かきそうな恐怖と不安が指先を冷やした。
 たぶん、ここにきて初めて、実感した。
 彼らが生き物だってことを。

「……とりあえずご飯か……」

 さっき作ったのにまた作んのか、と思考を切り替えるように考え、ふらふら適当に歩きながら室内に入る。本丸の中は広かったけど、今のところ使う部屋は少ない。必要な道だけは覚えた。
 なに作ろう。台所でぽつりと立ち尽くし、考える。和洋どっちもいけそうだったから、中華かな。昼から中華はきついか?いや、でも出陣した後はお腹空くだろうし……考え出したらキリがない。
 ……でも、たぶん。

「――……何作っても、喜ぶな……」

 彼らは「主」という存在に、縛られ過ぎているから。

 先ほど実感したばかりだったそれに、自嘲的な笑みが溢れる。彼らの意図はわかる。彼らの望みもまぁ多分わかる。ゲームやキャラクターのことは詳しくはないが、それでも彼らが「使われるモノ」であった以上、大方の想像はついた。
 でも、それにしたって。

 (怖いん……だよなぁ)

 彼らが纏う、全てが異質で。
 寝て起きたら頭すっきりするかと思いきや、その違和感は逆に増すばかりで。話せば話すほど、彼らの一喜一憂を見るほど、その存在が恐ろしくて仕方ない。
 どうやったって信用できるものじゃないのに。
 その異質なものを、私が、従える?
 ――受け入れられるものじゃ、なかった。

「……私は主では、ないよ」

 山姥切国広の顔が思い浮かぶ。きゅっと、下唇を噛んだ。


「傷ついたのが君たちだけだなんて、思うなよ」


 彼らに弱みなんか、見せてやらない。
 彼らの弱みなんか、見てやらない。

 私は君達の――主にはならない。


「……ま、居候として、やれることはしないとだけどね」

 冷蔵庫の扉を開けながら。
 私は、端末から聞こえる数々の音に、耳をすませた。
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