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無知を知らぬ知


 朝が来て夜が来る。初めて彼らを出陣させてから、早一週間。
 相も変わらず彼らは私を主扱いしようとしていたが、薬研はそろそろ私を間違えずみつるぎと呼ぶようになり、山姥切国広もアンタ時々みつるぎ、くらいに呼んでくれるようになった。今剣は毎回ふてくされながらあるじさまと呼ぶが、まぁ問題ないだろう。
 審神者業務も少し流れがわかってきた。彼らのレベルもちょっと上がって、平均10レベルくらい。まだ維新から先には出してない。
 と、そうなってくると一つ、懸案があった。


「……刀、増やすべきか……?」

 そう、それなんだよ。人員確保ね。
 始めのうちは三人で様子見しようとは思っていたし、まだ様子見したいところなんだが……いかんせん人手が足りない。
 部隊編成はマックス六人。内番ってやつもやらせたことはないけど二人一組で三つ。ということは、何をやらせるにも基本は六人一組ということだ。レベルが上がったら次のステージに行かなきゃだろうし、そうなってくると敵側も六人が基本……だと思われる……。
 あいつら全然怪我しないけど、怪我したら資材が必要みたいだし、資材調達するなら遠征に行くことにもなるだろう。となると少なくとも二部隊分、人手がいるんじゃなかろうか……。

「……えー、嫌だなぁ」

 がしがし。自室で一人、頭を掻く。私はこの一週間、必要な時以外は与えられた自室にいる。やつらはそれにも物言いたげだけど、何も言ってこないから無視。
 何回もにらめっこした巻物をじっと眺め、思案する。もう考えは粗方まとまったに等しいが、気持ちの方は全然まとまっていない。
 ――あいつらのために人を増やす必要はあるのか。
 そう思ってしまう私は、きっと薄情なんだろう。

「みつるぎ、少しいいか?」
「はい?」

 ひょこり。障子から顔を出しおたまを持った山姥切国広が、控えめに声をかけてくる。顔は布で半分隠れてるけど、表情はそこそこ明るめだ。ネガティブモードではないらしい。

「味噌汁にキャベツを入れるのは、おかしいか?」
「キャベツ?え、全然良いんじゃないすか?私好きだけど」
「……そうか」 

 頭がすすすと引っ込む。もはや布とおたましか見えない。シュール。しかも多分しゃがんだんだろう、ずるずると位置が下がっていく。シュール。

「一人で作れるんですか?」
「味噌汁だけなら、たぶん」
「ほー。もう作り始めてるんですか?」
「いや、まだ何も」

 ……、じゃあ何でおたま持ってんだ。いや、火着けたまま放置してたら殴るけど。
 形から入るやつなんかなぁと思いつつ、まぁ一週間で味噌汁の作り方だけでも覚えたんならよしとする。料理は私だけで作るのは疲れるし、彼らには自立して欲しいところだし。身長を考えるとどうしても山姥切国広に頼むしかなかったから。
 まだ作ってないなら好都合、とばかりに座布団を一個取りだし、ぽんぽんと叩く。音に反応してか、ちょこんとまた顔が出てきた。

「ちょっと相談事」
「……俺に?」
「うん」

 早く座れよ、とまた座布団をぽんぽん叩く。目をぱちくりさせた山姥切国広が恐る恐る近づき、縮こまりながら正座した。戸惑いしか感じない。あと両手で握りしめてるおたまがホント場違いでシュール。

「今ですねー、巻物眺めてたんすけど」
「……あぁ」
「刀増やすべき?今つらい?」
「……」

 観察するように見つめながら言うと、山姥切国広はすぐに真剣な表情に変わり顎に手を当てた。人間らしい仕草だ。

「……アンタがどう考えてるかによるが、俺達は少なくとも特まで強くなりたい」
「それは私も同意見。敵に攻められて死ぬのはお互い勘弁だろ」
「となると、他の時代にもいかないと経験が積めない。今はよくても、一部隊揃える必要があるんじゃないのか?」
「……ですよねー」

 内番どうするよ、とも一応聞いてみたが、手合わせを捨てて馬当番と畑当番だけなら三人でも回る。かつ、今はまだ馬はいないから、馬小屋を綺麗にするだけなら実質内番は畑当番だけで良いらしい。それも今は良い、ってだけだろうな。

「刀が増えるってのは、君たち的にはどうなんですか?」
「まぁ、刀というモノとしては嫌だろうが、戦力としては良いんじゃないか?」
「へー」
「ただ、アンタは神隠しされてる。それについて来た奴がどう思うかはわからないし、アンタに従ってくれるとも限らない」
「問題ないね。私は主じゃないから」
「……そうだな。だが主じゃないんなら、尚更お前がここにいることを良く思わない奴が出るかもしれない。それに、統率はどうする?刀が増えるならバラバラってわけにはいかないんじゃないか」

 ……痛いところを、突く。
 じっと見つめてくる山姥切国広は真剣そのもので、作為的なものは感じない。言ってることも問題点も、私が考えていたものとほぼ違いはない。
 やっぱりそうなるか――諦めるようにはぁと息を吐き、額に右手を当て俯いた。

「……提案なんですけど」
「あぁ」
「正式に第一部隊隊長になってくれる気ありません?」
「……俺が?」
「うん」

 ゆるゆると顔を上げ、投げやりに目を合わせる。訝しげに私を見る彼は、やはり隊長に興味がなさそうだった。

「第一部隊隊長が必然的に近侍になるみたいだけど、近侍はやらなくていい。隊長になって、他の刀をまとめて欲しいんですけど……どっすか」
「……何を期待しているのやら……」
「してない、何も。でも君に頼みたい」
「……理由は?」
「君が打刀で、初期刀で、二人より出来ることが多いからだよ」

 何より君は、私を一度も主と呼ばないから。
 例えそれで刀側と私に派閥が分かれても、私は構わない。むしろそうなってくれた方がいい。
 私は、神隠しされて来たのだから。

「……頼むよ」

 お互い真っ直ぐに見つめ、一瞬の沈黙。
 折れたのは向こうだった。

「……わかった」
「おっ」
「でも一ついいか」

 ぐっと、かけられたストップに息を詰まらせ耐える。
 おたまを持つ山姥切国広の手に力がこもったのが見えた。表情に変化はない。
 ……嫌な予感も、しなかった。
 ただ――じっと。


「アンタに、頼みがあるんだ」

 
 射抜かれた目は、どこまでも揺るぎないものだった。
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