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ばんとうさんと博多さん


「じゃあこれ全部貰ってくけんね。いや〜今日はよか日ばい!」
「うっ、うっ……赤字だ……大赤字だ……」
「……番頭さん……」

 ごめんね、と小さく呟く光忠さんに、今求めてるのはそういう優しさとか甘い声じゃないです、という意味を込めて睨みを返す。首を竦めた光忠さんは苦笑いだけど、この件に関しては光忠さんはあんまり悪くない。あんまり、というだけで完全に悪くないわけでもない。何せ大元を辿れば光忠さんが原因なのだから。

「こらしばらく買い物の必要はないけんね。光忠のあんちゃんもお休み出来るけん、よかよか!」
「え、えっと、博多君……僕は……」
「ん?まだ買う物あると?」
「やめてほんとマジでやめていや博多様お願いですやめてください泣いちゃう……!」
「番頭さんは、商人としてはまだまだばってん、鍛えんといかんばい!」
「ひいい……!」

 良心的なのか意地悪なのか、博多さん、もとい博多さまはにこりと笑った。光忠さんが「戦場にいる時より輝いているね……」と呆気に取られたのはつい三十分前。三十分で赤字決定にまで追い込まれた私のライフポイントはゼロだ。今の笑顔で更にごりごり削られ、もはやマイナス。
 店長、ごめんなさい。今まで売り上げどうでもいいや、とか思っててごめんなさい。番頭、明日からちゃんと仕事する……。
 店を置いてどこかを放浪する店長を思い浮かべながら、なむなむした。早く帰ってきて。

 はぁとため息を吐きながら、博多藤四郎は光忠さんの本丸に限らず元から商人気質だと知った私は、即刻脳内のブラックリストにその名をのせた。それから、博多さまを送り込んでくるというとんでもない鬼畜をかましてくれた、どこぞの白い刀の名前も。
 ずるずると、博多さまが嬉々として商品を袋に詰めているのを横目にその場にしゃがみ込むと、光忠さんが控えめに寄ってきた。大丈夫?と聞いてくる様子は本当に申し訳なさそうだ。
 大丈夫とは言えないので、代わりに、はは、と渇いた笑いを浮かべる。

「驚くような伏兵っていう度を、過ぎてますよね……」
「やっぱり鶴丸さんかあ……急に着いてきたがったから、おかしいと思ったんだ」
「過ぎたことだからもう良いですけどぉ……何か仕返ししてやりたい……出禁にしてやろうかな……」
「番頭さん、それ全然過ぎたことだと思ってないよね」

 間延びしたしゃべり方してる時って、結構こころ乱れてる時だよね。と私が知らない私の癖を言ってくる光忠さんに、そういえばそうかもと気づく。確かに今、心は乱れまくってる。

「仕返しなら、僕がしておこうか」
「えっ」

 私と同じくしゃがみ込んだ光忠さんが、口元に手を置いて囁く。私の耳元で囁いたわけではないが、内緒話には見えるだろう。
 目をぱちくりさせて、出来るんですか?と聞く私に、光忠さんはちょっと楽しげに「うん」と頷き、距離をもう少し詰めてきた。隣に座り込み、二人で博多さまを見守りながら話を続ける。

「鶴丸さん、茄子嫌いなんだ」
「そうなんですか?」
「うん。食べ物は大事にする方なんだけど、茄子にはちょっとトラウマってやつがあってね……でも粗末には出来ないからって、毎回涙目で食べるの」
「へえ〜!意外です。茄子嫌いは光忠さんの本丸だけ?」
「そうだよ。うちの本丸だけ。色々あってね」

 ふふ、と笑いがこぼれながら語る姿を見ながら、何かやらかしたのかなあと推測する。茄子にトラウマが出来るような出来事は、全く想像できないけど。そして食べ物攻撃は地味に痛い。良いかもしれない。
 そんな話を光忠さんとしていれば、「番頭さん!」という元気な声。さっきまでその勢いに圧倒されていたから、反射的に肩がびくついてしまった。


「仕返しなら、俺も協力するばい!」
「……え!?」

 な、なんで!?それでまたお金取る気か!?というか博多さまは鶴丸さんサイドじゃないの!?口をあんぐりと開けてびっくりしたが博多さまは私の様子にお構い無しなようで、人差し指で鼻の下を擦り、へへへと照れたように笑った。全く訳がわからない。


「番頭さんが鶴丸のあんちゃんに悪いことしてないっちゅうのも、光忠のあんちゃんが、ほんとは値引き交渉しちゅうわけじゃないことも、始めから知っとーとよ」


 ……うん?
 思わず光忠さんと顔を合わせ、お互いに首を傾げた。
 では何故うちの店は搾取されたのか……。


「俺がただ、自分で商売してみたかっただけばい!そげん怯えんでも、店潰すほどのことはせんよ?」

 はにかみながらの言葉に、不覚にも胸キュンした。
 しかし、いやいやいや、とすぐに思い直す。ここで流されてはいけない!さっきまでを思い出すんだ番頭!

「いや、博多さま……すでにしてるんですが……大赤字なんですが……!」
「そやね。ばってん、取りすぎた分は、ちゃあんとお返しするったい!」
「お、お返し?」
「おん。鶴丸のあんちゃん達から、がっぽりと!」
「……えええ?」

 またしても首を傾げた私に、博多さまはにやりといたずらっぽい笑みを浮かべた。その笑みは、誰かもしていた気がするけど……思い出せない。
 話が全く飲み込めてない私に対し、光忠さんは「ああ、それ良いね。賛成」なんて嬉々とした様子で博多さまと打ち合わせを始めてしまうし、なんだか面白くない。ちょっと唇を尖らせて、わざとらしく拗ねてみた。


「私に説明はなしですか?」


 百歩譲って赤字は良いとして、省かれるのは勘弁したいですよ。仕事だけでなく交遊でも落ち込むなんて、散々だもの。
 私の言葉にきょとんとしたあと、耐えきれないというように吹き出した光忠さんにもっとむっとして、脇腹をつつく。が、「セクハラっちゅうので訴えたら、お金になるんやっけ?」と純粋な目で聞いてきた博多さまの言葉に、サッと手を引っ込めた。この神さまホントに怖いね!?

 くしゃり。私の頭を軽く撫でて、光忠さんが微笑む。慰められているなあというのは、それだけでわかった。


「番頭さんは、心配せずに待ってて」


 ……何だかなあ。
 ね?と楽しげに言う光忠さんに、ため息を吐き出す。
 ――そんな風に言われたら、強く言えないじゃないか。
 私もつくづく、この常連さんには弱いのだ。

「……しょうがないですねぇ。よくわかんないですけど、楽しみにしちゃいますよ?」
「うん、任せて」
「期待しときんしゃい!」

 胸をどんっと叩いて言い放った博多さまがたくましくて、愛らしくて。
 くっそー、私は子供にも弱いなあ!なんて、悔しいような微笑ましいような気持ちになった。






「……え!?こ、これ全部博多さまが!?」
「そうったい!中々うまくいったけん、鶴丸のあんちゃんも驚いてたばい!」
「うわあ……うわあ……!博多さまありがとうーっ!!大好き!!」
「え、僕は?」


 僕も手伝ったよ、なんて呟く光忠さんはガン無視して、博多さまに飛び付く。へへ、と笑う姿はやっぱり愛らしかった。

 ――後日、
 うちの店で買った商品を見事本丸内で売りさばいてきた博多さまは、その売り上げを私に届けにきてくれた。
 どうやら博多さま的にははじめからこれが目的だったらしく、とんだ伏兵を食らったのは鶴丸さんの方だったようだ。ざまあみろっ!と思ってしまったのは許してほしい。


「兄弟の友達に、酷いことはせんよ?」


 にやりと笑って見せる博多さまに、思わず「あっ」と声をもらす。頭の中でばちんとピースが当てはまった。
 そうか、誰かに似てる笑い方だと思ったら!

「薬研くん!」
「へっへへーお世話さまやけんね!」
「なるほど〜!そうか、そういうことだったのかあ。それはどうも、ありがとうございました」
「いーえ!こちらこそったい!」


 商売、楽しかった!また手伝ってもよか?
 にかーっと、桜舞わせながら尋ねてくる神さまに、ダメと言えるわけもなく。
 仲介料はちゃっかり取っていったことに、侮れない神さまだなあなんて言って、笑った。




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