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影は追ってまわる
「リリー」
船内を歩いているのを見つけてリリーの肩に軽く手を置いた。
そう、軽く。
本当に、軽くだ。
「っ!」
びくり、と。
リリーの肩が揺れた。……酷く、驚かせてしまったようだった。
「な、なんだ…っ!」
「……、いや…」
「よ…用もないのに話しかけるな!私は忙しい身ダ!」
リリーは小走りで去っていく。自室に向かったのだろう。
薄々は…思っていた。つい最近バカなやり取りをしたものだからすっかり安心していたが、リリーはおれを怖がっているのではないかと。そんな気がしていた。そしてリリーのことだ。何故自分がそんなにおれに畏縮してしまったのか、考えないようにしているのかもしれないが、一瞬は考えてしまったはずだ。
…そろそろ、潮時なのかもしれない。
「リリー、話しがある」
リリーの部屋に向かい、コンコンと、静かにドアをノックした。誤魔化されては困るから、今回はパスタも何も持ってきてはいない。
おれが真面目に言ったからか、リリーは渋々と、嫌そうにだが、すぐに扉を開けてくれた。「…ナンダ、早くしろ」…随分嫌われているらしい。
「リリー。…お前、最近おれを怖がっていないか?」
「な…べ、別に怖がってなどイナイぞ!」
「嘘をつくな。…リリー」
「……」
「お前、おれをどう思っている?」
リリーは首を傾げた。おれは怖がっているのを見越した上で、それを肯定させようとしているのではない。そんなわかりきったことを聞く奴でもないと、リリーは思ったようだ。おれも、そう思われるのを狙って言った。
「……殺したいと、思っているが」
――あぁ、
まだ解けては、いなかった。
不思議そうに答えるリリーに安心してしまい、それ以上のことを言うのは躊躇われた。おれを怖がったがわかってはいない。ならいいんじゃないかと、自分の中で甘えが生じる。しかしそんなことをしていいわけがないのだ。そんなこと、できるわけがないのだ。
「リリー、…お前、自分に疑問を持ったことはないのか」
「は…?」
「自分の手を、見ろ。よく見ろ。…わかるか?」
「何を…」
「なら、…なら…おれに他に、思うことはないのか?」
「いいや、ナイゾ?さっきからお前、何を言っテいる」
「自分の、その話し方にも…なにひとつ、疑問を!不思議だと!思ったことは…ないのか!?」
「……」
リリーは訝しげにおれを見る。…ダメだ、まだダメだ。もっと核心的なことを言わなくてはならない。けれどこれ以上口を開こうにも、おれがそれを言ってしまうのは耐え難い。ここまで言ってしまったならばそのまま全てを話してしまえばいいものを、おれが話さなくてはならないものを、口に出せない。
一瞬、沈黙が訪れる。リリーはやはり意味がわからないらしく戸惑っているようだったが、それでもおもむろに口を開いた。
「…話の、内容が…よくわからない、…が、」
「……」
「お前の、話はそれなのだな?それを話に来たのダナ?」
「…ッ、」
「……わかった。私がどうであれ、私が現状お前に付き合うシカないことは変わらない。考えろと言うならばその疑問、考えてヤラナイこともナイ」
「……」
静かに頷けば、リリーはそうか、といい扉を閉めた。それを見ておれも、自室へと足を向ける。
あぁ、これは逃げだ。リリーが自分で気づくことを望みながら、おれはそれが間違っていることを知っている。
リリーが自分で気づくこと…それが残酷だということを、本来、おれがやるべきことだったということを、おれは知っているというのに。
おれは自分の保身のために、リリーを残酷な目に合わせているのだ。
影は追ってまわる
- 7 -
船内を歩いているのを見つけてリリーの肩に軽く手を置いた。
そう、軽く。
本当に、軽くだ。
「っ!」
びくり、と。
リリーの肩が揺れた。……酷く、驚かせてしまったようだった。
「な、なんだ…っ!」
「……、いや…」
「よ…用もないのに話しかけるな!私は忙しい身ダ!」
リリーは小走りで去っていく。自室に向かったのだろう。
薄々は…思っていた。つい最近バカなやり取りをしたものだからすっかり安心していたが、リリーはおれを怖がっているのではないかと。そんな気がしていた。そしてリリーのことだ。何故自分がそんなにおれに畏縮してしまったのか、考えないようにしているのかもしれないが、一瞬は考えてしまったはずだ。
…そろそろ、潮時なのかもしれない。
「リリー、話しがある」
リリーの部屋に向かい、コンコンと、静かにドアをノックした。誤魔化されては困るから、今回はパスタも何も持ってきてはいない。
おれが真面目に言ったからか、リリーは渋々と、嫌そうにだが、すぐに扉を開けてくれた。「…ナンダ、早くしろ」…随分嫌われているらしい。
「リリー。…お前、最近おれを怖がっていないか?」
「な…べ、別に怖がってなどイナイぞ!」
「嘘をつくな。…リリー」
「……」
「お前、おれをどう思っている?」
リリーは首を傾げた。おれは怖がっているのを見越した上で、それを肯定させようとしているのではない。そんなわかりきったことを聞く奴でもないと、リリーは思ったようだ。おれも、そう思われるのを狙って言った。
「……殺したいと、思っているが」
――あぁ、
まだ解けては、いなかった。
不思議そうに答えるリリーに安心してしまい、それ以上のことを言うのは躊躇われた。おれを怖がったがわかってはいない。ならいいんじゃないかと、自分の中で甘えが生じる。しかしそんなことをしていいわけがないのだ。そんなこと、できるわけがないのだ。
「リリー、…お前、自分に疑問を持ったことはないのか」
「は…?」
「自分の手を、見ろ。よく見ろ。…わかるか?」
「何を…」
「なら、…なら…おれに他に、思うことはないのか?」
「いいや、ナイゾ?さっきからお前、何を言っテいる」
「自分の、その話し方にも…なにひとつ、疑問を!不思議だと!思ったことは…ないのか!?」
「……」
リリーは訝しげにおれを見る。…ダメだ、まだダメだ。もっと核心的なことを言わなくてはならない。けれどこれ以上口を開こうにも、おれがそれを言ってしまうのは耐え難い。ここまで言ってしまったならばそのまま全てを話してしまえばいいものを、おれが話さなくてはならないものを、口に出せない。
一瞬、沈黙が訪れる。リリーはやはり意味がわからないらしく戸惑っているようだったが、それでもおもむろに口を開いた。
「…話の、内容が…よくわからない、…が、」
「……」
「お前の、話はそれなのだな?それを話に来たのダナ?」
「…ッ、」
「……わかった。私がどうであれ、私が現状お前に付き合うシカないことは変わらない。考えろと言うならばその疑問、考えてヤラナイこともナイ」
「……」
静かに頷けば、リリーはそうか、といい扉を閉めた。それを見ておれも、自室へと足を向ける。
あぁ、これは逃げだ。リリーが自分で気づくことを望みながら、おれはそれが間違っていることを知っている。
リリーが自分で気づくこと…それが残酷だということを、本来、おれがやるべきことだったということを、おれは知っているというのに。
おれは自分の保身のために、リリーを残酷な目に合わせているのだ。
影は追ってまわる