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論点の相違


「おい、クマ。ちょっと面を貸セ」
「えっ、お、おれ!?」
「ベポに何の用だ」
「うるさい取り巻きだな…じゃあついでにお前タチもだ」
「ついでって…つーか取り巻きじゃねぇ!良い加減名前覚えろよ!」
「リリーはおれたちの名前、まだ覚えてないの?」
「ふん、取り巻きは取り巻きダロウ!それに、名前は知らんガ、お前たちが歩く水族館なコトだけはわかるゾ!?」
「ちっげーよ海賊だよ!!」
「ハートの水族館でイイだろう!いや、トラファルガーの水族館の方がイイカ…?」
「海賊だと言っているが、…トラファルガーの水族館だと船長が経営者みたいだな。館長か」
「イヤ、経営者より私物がシックリくる」
「成る程、確かにしっくりきた」
「成る程じゃねぇよペンギン!!」


ぎゃあぎゃあ騒ぐ取り巻き達に、何故私はこいつらに話しかけたのか一瞬疑った。我慢するのだぞ私。たまには別の視点からの意見も聞いてみるのも大切なのだ。全く持って、不本意だ。不本意だが!
…トラファルガーの言っている意味は、私には考えてもわからなかったのだから。

「で、どうしたの?」

話の収拾がついたらしく、クマがよってきた。その後ろについてきた二人を眺めながら、まァ座れとその辺にある樽を指差す。

「お前タチ、私をどう見る?」
「は?」
「イイカラ答えろ」
「…マッドサイエンティスト」
「…ウム、イイ答えだ」

いいのかよ、とうるさい取り巻きが呟くのが聞こえたが、良いに決まっているだろう阿呆。それは褒め言葉だ。私は素晴らしい科学者である。
しかし、そんなことは今はどうでもいいわけで。

「他にないのか?」
「いや…」
「何でもいいぞ。私がどう見えているか…そういえばアイツは話し方ダノ手がどうのナドと言っていた気もするな…まぁいい、何かないのか?」
「……え?」
「…アイツって、船長?」
「あれ?」
「船長がなに言ったんだよ」
「お前タチに答える義理はない。私とアイツの問題だ。ただ問い掛けてきたのはアイツなのだから、お前達ガ私に提供してもなんら問題はナイダロウ」

うるさい方の取り巻きとクマが不思議そうな声をあげ、うるさくない方の取り巻きだけが会話を続けてきた。それに少し疑問を持ちながら、特に気にせず返事を返す。
が。それも狼狽えて見える。やはり何かありそうだ。
私に何か思うことは?ダメ押しでもう一度聞く。

「…じゃあ…言うけどよ…、」

二人と一匹が顔を合わせ、うるさい方の取り巻きが戸惑った様子で声を出した。


「…お前の手、左右で違うよな?」


言われた言葉に、虚をつかれた。


「…は?」
「いや、船長はなんも言わないし聞いても答えてくれなそーだし、お前もなんも言わないから聞いちゃいけねぇもんだと思ってたんだけど…」
「いま、リリー、自分で不思議そうにしてたよね?」
「違っていたのか?この際だから言うが…片足も義足だろう?声…いや、話し方も、何かの後遺症かと思っていたのだが…」

ちょっと…ちょっと、待ってくれ。意味がわからない!
けれど思ったことは言葉に出さず、無言で手を見る。見慣れた、いつもと変わらない両手両腕。足も軽く動かす。何もおかしいところはない。

「…私の?手が?」

そんなに疑問か、と訝しげに取り巻き達を見たが、彼らは彼らで困った様子だ。
これは嘘ではない。彼らにはそう見えている。そしておそらく、トラファルガーにも。

「…おれたちは、リリーのことなんもしらない。なんで船にいるのかも」
「結構前からいるよな?船作ったって聞いたし、最初からか?」

そうだ。最初からだ。トラファルガーに心臓を返してもらいたいがためにここにいる。心臓という弱みがあったから、船を作った。
それが正解のはずだ。なのに、全身からどんどん血の気が引いていく感じがする。なにか、大切なことを見落としているような…そんな、焦燥感。
いま私に心臓があったのならきっと、鼓動は早く鳴っていたはずだ。


「リリーは、どうしてキャプテンを殺そうとしてるの?」


簡単で、正解な…解答の、はずなのに。


「…アイツが…」
「キャプテンが?」
「トラファルガーが…私の心臓を持っているカラ…だから私ハ…、」
「そうだったの!?」
「…ん?でも待てよ?ってことは船長は、能力で心臓取ったってことだよな」
「それならおかしくないか?能力者が死んだら…」


はた、と。
カチリ、と。

ピースがはめられる。
そうだ…それじゃあ、おかしいとこばかりじゃないか!


「…リリー?」
「大丈夫か?」

能力者が死んだ場合、残された心臓はどうなる?取り返したと言えるのか!?クソ、こんなことに気づかなかったのか私は…!こんなの、取り返すと決めた時に疑問を持つものだろう!
ギリ、と下唇を噛む。なんて失策だ。今までの私は滑稽じゃないか!何故そんなことを考えなかった?いいや、何故殺せばいいと思ったんだ!?

「…待っ…て、くれよ…!」
「おいリリー、大丈夫か!?」

理由を、思い出せない。
何故、そんな考えに至ったのか。
何故、この船にいるのか。
何故、心臓を取られたのか。
何故、こんなにも疑いなく、


「私は…何で殺そうと思ってイタ…!?」


どうやってトラファルガーと出会ったのかすら、思い出せない。


論点の相違
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