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惑う寒菊
「おい、待て、暦、」
「待てません」
ざぱーん!
…と言いたいところだけども、実際は、ぽちゃーん!だ。
そのあとちゃぱちゃぱと水を掻き分ける音がお風呂場に響いて、一度沈んだリヴァイさんが浮いてくる。
「お前…濡れちまったじゃねぇか」
「いいんじゃないですか。どうせ、汚い家ですから。リヴァイさんなんてずっとそこにいればいいんだ」
「おい、なに怒ってる」
なに怒ってる、もなにもない。
リヴァイさんは、ほんとにお姑さんのようだ。毎日毎日あさ早くに起こされ、得意の綿棒でやれあそこが汚いやれそれでも女か、なんて。そんなの性差別だ。女だからって家事完璧なわけじゃないし。というか、部屋きれいだし。リヴァイさんのサイズじゃ、仕方ないのかもだけど。
だから、今日はついに頭ぷっつんして、綿棒で机を擦っていたリヴァイさんをつまみ上げて風呂場に落とした。いつものリヴァイさん用の洗面器じゃない。普通の、うちにある、浴槽だ。リヴァイさんのサイズならきっと、でっかい湖レベルだろう。特に、底の深さがヤバいけど。
「あのですね、リヴァイさん。私はね、毎日掃除が悪いとは思ってないんですよ」
「毎日汚れるからな」
「そうですね。日頃の積み重ねってのもありますから。でもね、こうも毎日、毎日、完璧に、隅々までやらされてたら、流石にストレスたまります。無理。もうやだ、掃除やだ!!」
「落ち着け」
「やだーっ!!」
大学生にまでなって、私はなにをしているのか。我ながら自分のわがままっこ具合にちょっぴりやり過ぎかななんて思う。でも、わがままっこはリヴァイさんも同じだ。ほんとに汚くて仕方ないなら私も文句は言わない。一緒に暮らしてるわけだから、それぐらいは我慢してやる。でも、そうじゃない。すっごく汚い、わけじゃない。
「もう!リヴァイさん絶対だれかと暮らせないタイプでしょ!?」
「そんなことはない。俺だって他の兵士と一緒の部屋になったことはある」
「その人絶対、ノイローゼなるよ!うまくいかなかったでしょ!?」
「……」
「ほらやっぱり!」
そんなんじゃ結婚できないんですから!と言えば、そもそも結婚する気はないと返された。だめだ、それ完全に一人身。直す機会すらない。
もー!もー!と何度もわめいて、水面をばしゃばしゃ叩いて小波を作る。リヴァイさんが、制止する声も、しばらくは無視した。
「わか、わかった…暦!とりあえず、出せ!」
「お姑さん、やめるっていうならねっ!」
「俺は、姑じゃ、ねぇ!」
ぷは!と、流石に苦しくなってきたらしいリヴァイさんが、酸素を求め始めていた。私もいつの間にか、小波どころか大波を作っていたわけだ。
小さな身体をまたつまみ上げて、空の洗面器の中に置いた。びちゃびちゃに濡れたリヴァイさんが、げほげほと咳き込む。
そこでようやく、ことの重大さに気づいた。
「あっ、えっ、リヴァイさんごめんなさい!大丈夫ですか!」
「…テメェは…殺す気か……」
「ええええ、ごめんなさい…!」
割と本気で苦しそうなリヴァイさんを見て、じわじわと罪悪感が襲う。いくら頭にきたとはいえ、掃除ごときで、やりすぎたかもしれない。リヴァイさんはちっちゃいわけだから、何がどうして大きなことになるのか、加減がつかないのである。
これはずいぶん、ひどいことをしてしまった。
「……おい、顔あげろ。気持ち悪い」
「…人が、反省して、落ち込んでいるというのに……」
「それが気持ち悪ぃんだよ…いいから、さっさと顔あげろ」
言われて、ゆるゆると顔をあげる。洗面器の中でどっしり座り込んでいる、全長16センチ。全身ずぶ濡れ。
目線を合わせて、じっと見つめる。リヴァイさんがまた、気持ち悪い、と呟いた。
「…次、沈めたら、削ぐ」
「気を付けます…」
「ん。それから、掃除は、まぁ、考えてやる…せめて週に一度は、部屋中綺麗にしろ。勿論普段も、隅々じゃなくとも、最低限は。じゃなきゃ俺がやってけねぇ…」
「…善処します」
「あぁ」
「ごめんなさい。許してくれますか?」
お風呂場で、洗面器の前で、正座。自分でも不思議な光景だなぁとは思うけど、これでも、必死なのだ。
リヴァイさんが、一瞬、頷いた。それに安心して、笑おうとしたら、「いや待て、」とすぐに止められてしまった。
「どうせなら、一つ頼みがある…」
割と真剣に言われたそれに、私はきょとんとした間抜け面で、首を傾げることとなった。
- 6 -
「待てません」
ざぱーん!
…と言いたいところだけども、実際は、ぽちゃーん!だ。
そのあとちゃぱちゃぱと水を掻き分ける音がお風呂場に響いて、一度沈んだリヴァイさんが浮いてくる。
「お前…濡れちまったじゃねぇか」
「いいんじゃないですか。どうせ、汚い家ですから。リヴァイさんなんてずっとそこにいればいいんだ」
「おい、なに怒ってる」
なに怒ってる、もなにもない。
リヴァイさんは、ほんとにお姑さんのようだ。毎日毎日あさ早くに起こされ、得意の綿棒でやれあそこが汚いやれそれでも女か、なんて。そんなの性差別だ。女だからって家事完璧なわけじゃないし。というか、部屋きれいだし。リヴァイさんのサイズじゃ、仕方ないのかもだけど。
だから、今日はついに頭ぷっつんして、綿棒で机を擦っていたリヴァイさんをつまみ上げて風呂場に落とした。いつものリヴァイさん用の洗面器じゃない。普通の、うちにある、浴槽だ。リヴァイさんのサイズならきっと、でっかい湖レベルだろう。特に、底の深さがヤバいけど。
「あのですね、リヴァイさん。私はね、毎日掃除が悪いとは思ってないんですよ」
「毎日汚れるからな」
「そうですね。日頃の積み重ねってのもありますから。でもね、こうも毎日、毎日、完璧に、隅々までやらされてたら、流石にストレスたまります。無理。もうやだ、掃除やだ!!」
「落ち着け」
「やだーっ!!」
大学生にまでなって、私はなにをしているのか。我ながら自分のわがままっこ具合にちょっぴりやり過ぎかななんて思う。でも、わがままっこはリヴァイさんも同じだ。ほんとに汚くて仕方ないなら私も文句は言わない。一緒に暮らしてるわけだから、それぐらいは我慢してやる。でも、そうじゃない。すっごく汚い、わけじゃない。
「もう!リヴァイさん絶対だれかと暮らせないタイプでしょ!?」
「そんなことはない。俺だって他の兵士と一緒の部屋になったことはある」
「その人絶対、ノイローゼなるよ!うまくいかなかったでしょ!?」
「……」
「ほらやっぱり!」
そんなんじゃ結婚できないんですから!と言えば、そもそも結婚する気はないと返された。だめだ、それ完全に一人身。直す機会すらない。
もー!もー!と何度もわめいて、水面をばしゃばしゃ叩いて小波を作る。リヴァイさんが、制止する声も、しばらくは無視した。
「わか、わかった…暦!とりあえず、出せ!」
「お姑さん、やめるっていうならねっ!」
「俺は、姑じゃ、ねぇ!」
ぷは!と、流石に苦しくなってきたらしいリヴァイさんが、酸素を求め始めていた。私もいつの間にか、小波どころか大波を作っていたわけだ。
小さな身体をまたつまみ上げて、空の洗面器の中に置いた。びちゃびちゃに濡れたリヴァイさんが、げほげほと咳き込む。
そこでようやく、ことの重大さに気づいた。
「あっ、えっ、リヴァイさんごめんなさい!大丈夫ですか!」
「…テメェは…殺す気か……」
「ええええ、ごめんなさい…!」
割と本気で苦しそうなリヴァイさんを見て、じわじわと罪悪感が襲う。いくら頭にきたとはいえ、掃除ごときで、やりすぎたかもしれない。リヴァイさんはちっちゃいわけだから、何がどうして大きなことになるのか、加減がつかないのである。
これはずいぶん、ひどいことをしてしまった。
「……おい、顔あげろ。気持ち悪い」
「…人が、反省して、落ち込んでいるというのに……」
「それが気持ち悪ぃんだよ…いいから、さっさと顔あげろ」
言われて、ゆるゆると顔をあげる。洗面器の中でどっしり座り込んでいる、全長16センチ。全身ずぶ濡れ。
目線を合わせて、じっと見つめる。リヴァイさんがまた、気持ち悪い、と呟いた。
「…次、沈めたら、削ぐ」
「気を付けます…」
「ん。それから、掃除は、まぁ、考えてやる…せめて週に一度は、部屋中綺麗にしろ。勿論普段も、隅々じゃなくとも、最低限は。じゃなきゃ俺がやってけねぇ…」
「…善処します」
「あぁ」
「ごめんなさい。許してくれますか?」
お風呂場で、洗面器の前で、正座。自分でも不思議な光景だなぁとは思うけど、これでも、必死なのだ。
リヴァイさんが、一瞬、頷いた。それに安心して、笑おうとしたら、「いや待て、」とすぐに止められてしまった。
「どうせなら、一つ頼みがある…」
割と真剣に言われたそれに、私はきょとんとした間抜け面で、首を傾げることとなった。