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小雪にわかれ


「うああああ!!」
「うるせぇ」
「ああああああ!!」
「くせぇ」

リヴァイさんはまたタオルの中に潜っている。余程この匂いが嫌いらしい。
けれど、私はマニキュア自体は結構好きなのです。うまくは塗れないし、特に芸術性を求めているわけでもないけれど、なんだかわくわくする。自分の身体のパーツが、いつもと違くなるからだろうか。


「それは、そんなに必要なものなのか?」


前回、リヴァイさんがこの匂いを嗅いだ時は、塗ったのではなく開けてみただけだ。
いざ塗る時になって充満する匂いに、耐えかねたのかもしれない。タオルから嫌そうな顔を出しながら、リヴァイさんが言ってきた。

「んー、大事ってわけでもないけど…やりたいので」
「…いつ終わるんだ」
「うまく出来ないんですよ〜…」
「ちっ…爪に塗るだけだろ…」

完全にタオルから抜け出したリヴァイさんが、腕を出してきた。この腕はなんぞ?と首を傾げれば、リヴァイさんは苛立った顔をしながら私からマニキュアを取り上げた。

「俺がやる。貸せ」
「…えええ?」
「はみ出さなきゃいいんだろ」

頑固さんか、あなたは。
…まぁ、それで気が済むならいいかなぁ。
どうぞ、と大人しく譲る。相変わらず小さなリヴァイさんがものを持つと、すごく大きなものに感じる。小さいから塗りやすいかも、と思ったけど、これじゃ逆に塗りにくいかもしれないね。
私も動かないことに神経を使って、リヴァイさんの動きに注意する。

「お前、これが終わったら寝るんだな?」
「え?あー、まぁ…乾いたらですけど」
「そうか」
「リヴァイさん、明日ほんとに来るんですか?」
「あぁ…」

ぺたぺた。ぬりぬり。小さな体が、大きなマニキュアを器用に使いこなしている。この調子なら心配することないかなぁなんて気を抜いて、ふと思い出したリヴァイさんのお願い事を確認する。

この間、お風呂にどぼんした時に聞いた話だ。頼みがある、なんて言ったリヴァイさんに耳を傾けると、それは少し意外なものだった。
学校に、着いて行きたい。
それだけ。たったそれだけだ。え、そんなの?って思わず私が聞いちゃうくらいの頼み事。
しかし、私が毎日のように行っているわけだから、前々から興味はあったらしい。買い物に行くことも出来たから、少しずつ外の世界に興味が出始めたのかもしれない。だから私もいいですよ、と2つ返事をした。そして明日、週で一番授業が少ない日。お試しでリヴァイさんを連れていくことにしたのだ。


「授業なんて、楽しいわけじゃないのになぁ」
「知識をつけるのには良いだろ…」
「うわ、リヴァイさんさては優等生だな!?私は、自分が知りたいものだけ学びたい派ですよ!」
「そりゃあ、授業受ける時間が勿体ねぇな」

意味のない授業はないが、聞く気のない授業は時間の無駄だとリヴァイさんは言う。んー、確かにそうかも。さすがちっちゃくても歳とってるだけあって、妙に納得しちゃう。

「やっぱり兵士さんの勉強とかしたんですかねぇ。勉強より鍛える!とかはなく?」
「戦うには頭も必要だろ……頭の良い悪いは人によるが、最低限必要なことは覚えなきゃならねぇ…」
「ほー、そういうものですか」
「そういうもんだ…」

中には、異常な考えのやつもいるけどな。なんて言ってリヴァイさんが顔を歪める。あまり良い思い出じゃないらしい。
兵士になるためには、鍛えなきゃいけなくて、知識も必要で。きっとこの人は、私みたいにぐでっと授業を受けたりはしなかったんだろうなぁ。知識そのものが、武器になる世界に住んでるんだろうな。きっと。
それはある意味、どこの世界でも変わらずに。戦いという場所に、あるものなんだろう。


「ん…出来たぞ」
「おっ…すごい!うまいじゃないですか!」
「これでいいんだろ?早く乾け」
「乾かすのは、コントロール出来ませんよ〜」


リヴァイさんが、小さな手でぱたぱたと爪を扇いでくれた。勿論効果はない。
まじまじと爪を眺めていると、「お前のは汚ねぇな…」なんて聞こえてきて。確かに、ちょっと、ちょっとだけだよ?リヴァイさんのほうが上手いけど。そんなご満悦な顔しなくたって…!
事実が事実なだけに、ちょっぴり、むっとしてしまった。

爪が乾いてたらでこぴんしてやるのに。
そう思いながら、手の甲でリヴァイさんの背中を押しといた。
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