menu
top    about    main

小春日和といふやつ


「すいへーりーべーぼくのふねー」
「なに言ってんだお前」
「どうしようリヴァイさん遅刻しちゃう」
「………」

今日のリヴァイさんは水兵さんの服を着ているのだ。そりゃあ懐かしの言葉を言いたくもなる。そんな場合じゃないけど。

「うわん、今日は色々持ってこうと思ってたのにーっ」
「何しに学校言ってんだ、お前は…準備するにしても前日にしておけ」
「マニキュアはしましたよ!」
「俺がな」

ふん、とちょっと偉そうに言うリヴァイさんにちょっとむっとする。けども、今はほんとに時間がない。授業中にリヴァイさんと遊ぼうと目論んでいたけど、遊び道具を持っていくのは断念しよう。
流石に今日は、前の買い物の時みたいに鞄のポケットの中に入れるわけにはいかない。落ちちゃうし、通勤ラッシュで潰れちゃうし。なので、ちょっと窮屈だろうけども、リヴァイさんを入れるためのポーチを用意した。どうせなら面白いのがいいなぁと思ってこぶた型のポーチを用意したら、嫌な顔をされた。食われてるみてぇ、だそうで。

じゃあこっちは?と、今度はにんじんをくわえたうさぎ型のポーチを差し出した。また嫌な顔をされたけど、もう諦めたらしい。また一度返した、かっこいい装備と武器をつけたリヴァイさんは渋々とうさぎのポーチにもぐりこんでくれた。


「たまに、生存確認で指いれますからね。生きてたらちょんちょんっとしてください」
「ん」

えい、と試しにポーチの隙間に人差し指をいれてみた。ほんとにちょんちょんと返されて、なんだか、くすぐったい気持ちになる。指もくすぐったいけど、気持ちもだなぁ、これ。
ふへ、って気の抜けた笑みを溢しながら、家を出る。電車の時間には、間に合いそうだ。

近所のバス停。駅のホーム。電車に乗る時、降りる時。場所が移動する度に、ポーチに指を入れてみる。しつこいかなとも思うけど、でも、何かあったらと考えると気が気じゃない。律儀にちゃんと突っついてくれるリヴァイさんに、ちょこっとだけ悪く思う気持ちを持ちながら、ほっとする。学校はもうすぐだ。


「リヴァイさん、学校です」
「……」
「教室行きますね」


鞄に向かってそう言えば、ポーチから小さな手が出てきて、左右に揺れる。言葉はちゃんと伝わったらしい。


(――さて…どうしようかなぁ)

座席からして悩む。自由席だけど、リヴァイさん出すなら後ろがいいかな。でもそれじゃ何か書かれた時に見れないよね。うーん…。


結局、真ん中よりちょっとだけ前の、はじっこの席に座った。
ぼっち席なう。


「リヴァイさん、顔だけなら出てきていいですよ」
「…大丈夫なのか?」
「この授業人多いし、みんなうるさいし、ちゃんと鞄とか筆箱でバリケード作ったので!でも体全部はちょっとこわいかも、です」
「そうか」

言われた通り、リヴァイさんは様子を伺いながら頭だけ出した。うさぎから出てくる様はやっぱり、なんとも言えない楽しさがある。
またによによと笑っていれば、不快そうな顔をしたリヴァイさんが頭を引っ込めてしまった。ちょ、待って…!

「リヴァイさん!」
「うるせぇ。…前見ろ。教官が来たぞ」
「あれ教官じゃなくて、先生って言うんですよ」
「せんせい」

どうやら私が嫌で隠れたのではなく、先生が見えたから引っ込んだらしい。
またちょっとだけ、顔を出して様子を伺っている。

「これはなんの授業なんだ?」
「これはですねー、生物学っていうんですよー」
「生物?」
「私は得意じゃないからよく知りませんけど、多分人間がどうやってできたか…とか?なのかな?よくわかんないです」
「………そうか」
「…どうかしました?」
「いや…少し知り合いを思い出しただけだ」


ほう。それは珍しい…。
授業は始まりだしたけど、先生の話よりリヴァイさんの知り合いの方が気になる。どんな人ですか、どんな人ですか、なんて繰り返し問い詰める。嫌そうな顔するから、あんまり好きじゃない人なのか、それとも聞かれたくない人なのかな。
最終的には、いいから授業を受けろと一蹴されてしまった。しょんぼりだ。

渋々と前を向いて、ぽやーっとホワイトボードあたりを眺めて、


(……あれ…、)


 
「…ねぇリヴァイさん」
「…しつけぇ」
「あの、ちがくて…」
「あぁ?」


目を擦る。
…うん、夢ではない。

ホワイトボードの下。
音声機具と壁の間の、隙間。

ひょこひょこと、揺れる、小さな髪。



「…眼鏡でばさばさポニーテールの人って、知り合いにいます?」



きらきらした表情で先生を見つめる、
ちっちゃな人に、デジャヴュ。
- 8 -